AZX弁護士の濱本です。契約のレビューは、私たち弁護士が行う日常的な業務の一つですが、クライアントからは内容面についてはもちろんのこと、「契約書には誰がサインをすべきなのか?」、「押印は登録印である必要があるのか?」といった形式面についてもよくご質問を受けます。そこで、今回は、このような契約書の形式面について、クライアントからよくご質問を受ける事項をまとめてみたいと思います。
目次
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◆ Q1:必ず書面である必要があるの?FAXやEメールではダメなの?
契約といえば、必ず契約「書」といった書面により成立するものと考えがちですが、実は日本法においては当事者に契約を締結する意思さえあれば、口頭であっても契約は成立します。もちろん、FAXやEメールでやりとりをすることで契約を結ぶことも可能です。ただし、以下のような場合に該当しないか注意が必要です。
① 書面でないと効力が生じない場合
法律により書面で契約を締結しないと効力を生じないとされている場合があります。例えば、保証契約は書面(又は電磁的記録)で行わなければ効力を生じません。その他にも、例えば、労働協約は書面で作成され、署名又は記名押印してはじめて効力を生じます。
② 書面の作成、交付、保存等が義務づけられている場合
法律により一定の書面の作成、交付、保存等が義務付けられている場合があります。例えば、下請法においては、親事業者は発注にあたって下請事業者に対して発注内容等を記載した書面を交付する義務がある他、取引に関する記録を書類として作成・保存することが義務付けられています。
③ 当事者が書面によることを合意している場合
契約書に「本契約の内容は、当事者の書面による合意によってのみ変更することができる。」といった規定が置かれている場合があります。そのため、契約書を修正するような場合には、もとの契約書をチェックした方が安全です。
なお、特にPC等を利用した電子的な方法により契約を締結する場合には本当に本人が操作しているのかを確認することが難しく、他人によるなりすましのリスクが高いです。そこで、電子署名法等に基づく電子署名を利用することも考えられます。
◆ Q2:タイトルに何か決まりはあるの?
「契約書」、「合意書」、「協定書」、「約定書」さまざまなタイトルがありますが、どのようなタイトルをつけるかも特に制限はありません。最終的に契約の内容を決めるのは、タイトルではなく契約の本文です。そのため、あまりに内容とかけ離れたタイトルでなければ、どのようなタイトルにするかについてそれほど神経質になる必要はありません。
注意が必要なのは、「覚書」や「念書」といったタイトルにしたからといって、「契約書」とした場合よりも効力が劣るわけではないということです。本文の内容が実質的に契約であれば、契約書と同じ効力が認められます。そのため、事前に双方の意向を確認するために締結される基本条件を記載した書面などについて、法的拘束力を生じさせたくない場合には、その旨を明記しておく必要があるため注意が必要です。
◆ Q3:印紙を貼らないとどうなるの?
契約書の書類によっては、収入印紙を貼付しなければならないものがあります(課税文書)。課税文書となるか否かについても、契約書のタイトルによって判断されるわけではありません。契約書のタイトルが「覚書」となっていたとしても、内容が借用証書(金銭消費貸借契約)であれば、収入印紙を貼付する必要があります。
どのような契約書が課税文書となるかについては、こちらからダウンロードできる国税庁の「印紙税の手引」が詳しく解説しています。
収入印紙を貼付していることは契約の成立要件ではないため、課税文書に収入印紙が貼付されていなかったとしても、その契約の効力自体が否定されるわけではありません。ただし、不備が発覚したときには、納付しなかった印紙税と、この2倍に相当する金額の過怠税が課されるとされているため注意が必要です。
◆ Q4:当事者は「甲」、「乙」と表記する必要があるの?
契約書では、当事者の一方を「甲」、他方を「乙」と表記する例が多く見られます。もっとも、この点についても特に決まりがあるわけはなく、本来は自由です。契約書をレビューしていると、明らかに「甲」と「乙」を取り違えて記載している条項を見かけることがあります。このようなミスを防ぐためには、「AZX株式会社」であれば「AZX」と表記するか、「委任者」「ライセンサー」のように一見してどちらの立場なのかが分かるような形で表記する方法が効果的です。
なお、たまに自分の会社を「甲」と「乙」のどちらで表記したらいいかというご質問を受けることがあります。この点についても特に決まりはなく、自分の会社を「甲」と表記しているひな型等も多くみかけます。ただし、「乙」と表記されることを不快に思う相手方もいる可能性があるため、へりくだった立場にいる場合などには自分の会社を「乙」と表記しておくのが無難かもしれません。
◆ Q5:原本は、何通作成する必要があるの?
通常、当事者全員の記名押印等のある契約書(以下「原本」と呼びます。)を当事者の人数分作成して、それぞれが1通を保管するとされていることが多いです。しかし、原本を何通作成するかについても法律に決まりがあるわけではなく、当事者の人数が多い場合などには当事者の一部のみが原本を保管し、他の当事者はこれをコピーした「写し」を保管するといった取扱いにすることもあります。
課税文書であれば、契約書の原本を数通作成した場合にはそれぞれに印紙税がかかりますが、原本を複写機でコピーしただけものについては印紙税がかかりません。そのため、当事者の一部はこのような「写し」を保管するものとすることで、印紙税を節約することができます。
ただし、契約の成立が裁判で争われた場合には、「写し」は「原本」よりも証拠としての価値が低いといった判断をされる可能性もあるため、自分が「写し」を持つことでよいかは慎重に検討する必要があります。また、原本をコピーした「写し」についても、「写し」に署名・押印がなされていたり、「正本や原本と相違ない」との契約当事者の証明がなされていたり、「写しであることを証明する」との記載がなされているような場合には、契約の成立を証明するものとして印紙税がかかるため注意が必要です。
◆ Q6:必ず代表取締役がサインをする必要があるの?
会社が当事者となる場合には、契約書にサインをする者が会社を代表して契約を締結する権限を有することが必要になります。会社の代表取締役には法律により会社を代表する権限が与えられているため、多くの場合は代表取締役にサインをしてもらうのが安全であるといえます。
もっとも、部長や課長といった会社の使用人も会社から権限を与えられていれば、契約を締結することができます。ただし、このような権限が与えられているかは、通常外部の人間は知ることができません。そのため、普段あまり取引がない会社の部長や課長にサインをしてもらうような場合には、内部の権限規程を確認させてもらう等してその契約を締結する権限を有しているかを確認した方が安全であると考えられます。
◆ Q7:署名と記名ってどう違うの?
署名とは、自筆の「サイン」のことです。記名とは、印字されているもの、すなわちワープロやゴム印で氏名を記したものです。
日本においては契約書に代表取締役等が「署名」をすることはあまりなく、「記名+押印」ですませることが多いです。ただし、「署名」の方が「記名」に比べて本人が作成したという信憑性は高く、自筆のサインをすることで自覚を促す効果もあると考えられるため、相手方が個人の場合などには「署名」を求めることも考えられます。なお、日本においては押印のない契約書はあまり見られないため、「署名」の場合でも押印を求めた方が安全であると考えます。
◆ Q8:押印は実印である必要があるの?認印でもいいの?
「実印」とは、印鑑登録されている印鑑のことです。「認印」とは、印鑑登録がされていない印鑑、いわゆる三文判のことです。契約書の押印は「実印」でなければならないといった決まりはなく、実印による押印であっても、認印による押印であっても、契約書の効力には影響を与えません。
もっとも、「実印」と違って「認印」はお店などで簡単に購入できてしまうため、権限のない者が他人になりすます等して押印をするリスク、つまり偽造のリスクが高まる可能性はあります。そのため、重要な契約書では「実印」を用いることが多く、それが「実印」に間違いないという確証を得るために印鑑証明書の添付も求めるのが安全です。
弁護士 パートナー
今回は契約書の形式的な側面についてよくご質問を受ける事項をまとめてみました。
契約書を作成する際の参考にしていただければ幸いです。