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業務委託契約書の作成・レビューのポイント

2014/10/16

img_up_htk-2AZX弁護士の濱本です。以前のブログで菅原弁護士が秘密保持契約書(NDA)を作成・レビューする場合のポイントについて解説しましたが、今回は第2弾として「業務委託契約書」の作成・レビューのポイントについて解説します。

自動契約書作成システム「契助」で業務委託契約書を作成しようとすると、まずは「委託者側」と「受託者側」を選択することになりますが、同じ種類の契約書であるにもかかわらず、このような選択肢が設けられていることに驚かれた方もいるのではないでしょうか。このような選択肢を設けているのは、それだけ委託者側と受託者側で定めておくべき内容が異なるためです。

インターネットなどで見つかる雛形においては、委託者側であるか受託者側であるかを区別していないものがほとんどではないかと思いますが、「契助」を利用して契約書を作成していただく1つのメリットとしては、このように自分の立場にとって有利な契約書が作成できることではないかと思っています。

もちろん委託者側と受託者側で共通して注意した方がよい点も多いため、以下においては両方を対象に解説をすすめていきますが、委託者側と受託者側で別々に解説した方がよい点については、委託者の場合受託者の場合といった形で記載を分けて説明します。

それでは、さっそく解説に入りましょう。

 

1    委託する業務の内容及び範囲の明確性

業務委託契約においては、「依頼したはずの業務内容と異なる」、「その範囲までは依頼を受けていないはずだ」といったことから紛争が生じることがよくあります。したがって、業務委託契約書を作成する場合においては、業務の内容及び範囲をできるかぎり明確に記載することにより、後の紛争を予防することができます。

もっとも、実際には契約を締結する時点においては、業務内容の詳細までは決まっていないことが多くあります。そのような場合には、具体的な業務内容をどのように決定するのか、その決定の手続を契約書に定めておくことが考えられます。

2    成果物がある場合

コンサルタント業務や調査業務においてレポートを作成する場合のように、受託者が委託者に対して一定の成果物を作成することを予定している場合があります。このように、成果物の作成を予定している場合には、作成する成果物の内容を可能な限り特定するとともに、その納入期限、納入場所、納入方法、検査期間等について規定しておく必要があります。

3    報酬

業務委託契約においては、定額を定める方法の他にもレベニューシェア、タイムチャージなど、さまざまな報酬の定め方が考えられます。したがって、委託する業務の性質を考慮して、適切な報酬の定め方を選択するとともに、その支払期日、支払方法を明確に規定しておく必要があります。

4    諸費用の負担

旅費、通信費など委託された業務を行うにあたって生じた費用を、報酬とは別に請求できるのかを明確にしておく必要があります。

5    再委託

 

委託者の場合

委託者としては受託者自身による業務遂行を期待している場合も多く、このような場合には再委託には事前の書面による同意が必要である旨を明記しておく必要があります。また、再委託を許容する場合においても、再委託先の一切の行為について受託者が責任を負う旨を契約書に明記しておく必要があります。

 受託者の場合

受託者としては、自由に業務を再委託できるとしておくことが最も有利です。しかし、自由な再委託は受け入れてもらえない場合も多いです。そのような場合には、少なくとも現時点で具体的な再委託先が予定されていないかを検討し、予定されている場合には当該再委託先に対する委託は例外として許容される旨の書面等を委託者から取得しておく必要があります。

6    知的財産権

 

委託者の場合

委託者がお金を支払っている以上、成果物の知的財産権も当然に取得できると勘違いをしている方も多いですが、契約書に何も規定していない場合には、委託した業務に伴って発生した知的財産権は、委託者に移転しないのが原則です。したがって、委託者としては、知的財産権が移転する旨を明確に定めておく必要があります。

知的財産権の移転を規定するにあたっては、「著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む」と明記しておく必要があります。これらの権利については、特別に明記しておかないと移転しないと法律に定められているためです。また、著作者人格権については契約によっても移転しないため、受託者は著作者人格権を行使しない旨を定めておく必要があります。

受託者の場合

受託者としては、知的財産権は一切移転しないとしておくことが最も有利です。しかし、現実的には委託者に受け入れられないことが多く、また受託者には使い道がない知的財産権である場合も多いです。そこで、原則として知的財産権は、委託者に移転するとした上で、一定の範囲で留保する必要はないかを検討することになります。

具体的には、委託業務の着手前から有していた知的財産権や他の案件に流用できるような知的財産権について、委託者に移転せずに留保される旨を規定することが考えられます。

7    損害賠償についての定め

 

委託者の場合

委託者が業務委託契約に基づき負っている債務は、報酬を支払うという金銭債務です。そして、仮に委託者が金銭債務の支払いを怠った場合においても、損害賠償の額は利率により定まります(民法419条第1項)。したがって、委託者の場合には損害賠償の範囲に制限を設けておく必要性は低いといえます。

むしろ、受託者に損害賠償を請求する場合のことを考慮すると、損害賠償の範囲を広げておくことが委託者には有利です。具体的には、「直接損害及び通常損害のみならず、逸失利益、事業機会の喪失、データの喪失、事業の中断、その他の間接、特別損害、派生的損害及び付随損害を含む全ての損害」について損害賠償請求できる旨を定めておくことが考えられます。

受託者の場合

受託者が負っている債務に債務不履行があった場合、例えば委託している業務が期限通りに完成しなかった場合には、ビジネス上の損失を含め、委託者には様々な損害が発生する可能性があります。そこで、受託者としては損害賠償の請求を受けた場合に備えて、①なるべく責任を負う損害賠償の範囲を制限するとともに、②無制限に損害賠償の額が膨らむことのないように上限額を設けておくことが考えられます。

具体的には、例えば、①損賠賠償の範囲は直接かつ通常の損害に限り、逸失利益、事業機会の喪失等の間接的な損害は含まないものとし、また、②損害賠償の上限は損害賠償の事由が発生した時点から遡って過去●ヶ月間に委託者から現実に受領した業務委託料の総額とするといった規定を設けることが考えられます。

8    その他の留意点

 (1)    偽装請負

形式的には請負(委託)契約としているが、実態としては労働者の供給であって、受託者の従業員が委託者の指揮命令下に移るような場合を「偽装請負」といい、職業安定法等に違反して違法になります。特に、受託者の従業員が長期的に委託者のオフィスで業務を行うといった場合には、偽装請負と判断されないように注意する必要があります。

具体的にどのような事情を考慮して「偽装請負」と判断されるかについては、厚生労働省が発表している「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html)が参考になります。

 (2)     下請法の適用

業務委託契約が下請法の適用を受ける場合があります。下請法の適用の有無は、①資本金による区分と②取引内容により決まりますが、詳細については公正取引委員会の「下請法関連パンフレット」(http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.html)が参考になります。

下請法が適用される場合には、親事業者である委託者には、注文書の交付義務、書類作成・保存義務等の一定の義務が課されることに加え、下請代金の減額、不当な給付内容の変更、やり直し等の一定の行為が禁止されます。また、契約書の規定内容との関係では、特に以下の点に注意していただく必要があります。

①     業務委託料の支払期日は、下請法の適用があるケースでは、委託者が受託者の給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなくてはいけません(下請法第2条の2)。従って、例えば委託業務の報酬を一定の事業からの売上のレベニューシェアにより支払うといった内容にする場合には、かかる支払期日に関する規定との関係で下請法違反となるリスクがあるため留意が必要です。

②     公正取引委員会の「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」との関係で、下請法の適用があるケースでは、瑕疵担保責任の期間は納入後1年の限度にしておいた方が安全です(「検収完了後」ではなく「納入後」から1年である点に注意!)。「契助」で契約書を作成する場合には、瑕疵担保責任の起算点についての質問で「納入した時点」を選択していただき、瑕疵担保責任の期間について1年以内の期間を記載していただくことで、この要請を満たすことができます。

 

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
濱本 健一
Hamamoto, Kenichi

いかがだったでしょうか。今回の解説を参考に、ぜひ自分の立場にあった業務委託契約書を作成してみて下さい。

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