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ベンチャー企業のための法人登記手続入門

AZXは今年の一月に3名弁護士が加入し、弁護士は総勢15名となりました。ベンチャーをサポートするための仲間が増えることは嬉しいのですが、ブログを書く機会は減ることとなります。書く回数は減ってしまうので、一回ごとに書く内容を充実させていきたいと思います!

今回は、法人登記手続について書いてみたいと思います。なお、登記には、法人登記以外にも、不動産登記以外などいくつかの種類があるのですが、ベンチャー企業では法人登記以外の登記が必要となるケースはあまりないため、今回は法人登記(の中でも株式会社に関する登記)に絞って解説したいと思います(以下、単に「登記」という言葉を使った場合には、株式会社に関する登記を意味するものと理解して頂ければと思います。)。

 

目次

① なぜ登記が必要か?

取引を行う場合には、取引先の情報を知らないと怖くて取引できませんが、独力で相手方の情報を調べることには限界があります。そこで、予め一定の重要な事項を公示させることで、取引を促進させようというのが商業登記の基本的な考え方となります。

会社設立時において一定の事項が登記されるとともに、設立以降に登記事項に変更があった場合には変更が法律上義務付けられることで、常に会社の最新の情報が世間一般に公示されることとなります。

つまり、会社の最新情報の一部を誰でも見ることができるようにしよう!というのがざっくりとした商業登記のコンセプトとなります。

 

② どんな事項が登記の対象か?

一言で言うと、基本的には会社の重要な事項が登記の対象と定められています。

ベンチャー企業が上場するまでの間に変動が生じやすい登記事項は以下のとおりですので、以下の事項に変動が生じた場合には忘れずに登記しましょう!

  • 会社の目的

  • 商号

  • 本店の場所

  • 資本金の額

  • 発行可能株式総数

  • 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)

  • 単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数

  • 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数

  • 株主名簿管理人の氏名又は名称及び住所並びに営業所

  • 新株予約権について一定の事項

  • 取締役の氏名

  • 代表取締役の氏名及び住所

  • 取締役会設置会社であるときは、その旨

  • 監査役設置会社であるときは、その旨及び次に掲げる事項

  • 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときは、その旨

  • 監査役の氏名

  • 監査役会設置会社であるときは、その旨及び監査役のうち社外監査役であるものについて社外監査役である旨

  • 会計監査人設置会社であるときは、その旨及び会計監査人の氏名又は名称

  • 会社法第426条第1項の規定による取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人の責任の免除についての定款の定めがあるときは、その定め

  • 会社法第427条第1項の規定による非業務執行取締役等が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めがあるときは、その定め

  • 会社法第440条第3項の規定による措置をとることとするときは、同条第1項に規定する貸借対照表の内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項であって法務省令で定めるもの

  • 公告方法に関する事項

なお、スタートアップのクライアントからは「株式譲渡により株主に変動があった場合には変更登記手続が必要となりますか?」という質問を受けることが多いのですが、答えはNOです。しかし、登記上は手続は不要ですが、株式譲渡により株主に変動があった場合には譲渡承認及び株主名簿の書き換えに関する手続が必要となりますので、この点忘れずに対応しておくようにしましょう(本論とは少し離れますが、株主の異動を示す書類がしっかり残っているかは、IPOやM&Aの法務DDにおける最重要審査ポイントの一つです。)。

 

③ 何をすれば良い?

必要な手続はシンプルで、(i)法律で定められた添付書面を作成・添付し、(ii)登記申請書を法務局に提出するというステップを踏めば完了です。

と書くと簡単にも思えるのですが、(i)については、法律で定められた添付書面をきっちりと添付しないと法務局が登記を受け付けてくれず、また、(ii)も新株予約権や種類株式などの場合には、法律で定められた新株予約権や種類株式の内容を全て記載しなければならないなど、意外と大変な手続ではあります。

(i)についてベンチャー企業の場合に特に気をつけなければならないのは、優先株式(種類株式)を発行している場合には、一定の事項について会社法上種類株主総会決議が求められる場合があり、この場合には登記手続上、通常要求される添付書面に加えて、種類株主総会議事録も提出が必要となる点です。どのような場合に種類株主総会決議が要求されるかについては、以前私が書いたブログをご参照下さい。

また、登記手続との関係では法律で定められた添付書類を添付すれば良いのですが、それだけでは会社法との関係で問題が生じる場合があるので注意する必要があります。例えば、会社の商号変更を行う場合、添付書面としては変更決議をした総会議事録があれば足りるのですが、会社法上総会を開催するに当たっては原則として所定の招集手続を行う必要があるため、会社法との関係では招集通知等も作成する必要が生じます。

IPO審査との関係では、会社法上の手続をきちんと履践しているかという点もチェックされますので、会社法もケアして書類を作成しておきましょう!

 

④ いつまでに手続を行う必要がある?

一部例外もあるのですが、基本的には変更が生じた日から二週間以内に登記申請を行う必要があります。

二週間というとそれなりに長い期間のようにも思えますが、例えば、取締役会議事録を提出する必要がある場合には、議事録に全取締役及び監査役の押印をしてもらわなければならないなど、登記の内容によっては書類を揃えるのに時間がかかる場合もあります。従って、関係者に押印してもらう必要があることを頭出ししておくなどして、間に合うようにスケジュールを組んでおくのが望ましいです。

一方で、ベンチャー企業の場合には、うっかりして登記期限を経過してしまったという事態も少なくありません。期限を過ぎてしまった場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか?

結論から言うと、この場合でも特に異なる対応が必要となるわけではありません。必要書類を揃えて提出すれば、期限経過後でも変更登記は認められます。

それでは、なぜ期限を守った方が良いのでしょうか?それは、会社法上、登記を怠ったときには100万円以下の過料に処すると定められているためです。つまり、登記手続が遅れた場合には追加でお金を支払わなければならない可能性があるということですね。

かかる過料は期限に遅れた全ての場合に科されるわけではありません。どの程度遅れたら科されるという明確な決まりもないのですが、基本的には遅くなればなるほど可能性が高くなります。従って、登記漏れ等を発見した場合には、速やかに手続を進めましょう。

 

⑤ 申請してからどのくらいの期間で完了する?

よく、「●までに銀行に登記簿謄本を提出しなければならないのですが、いつ頃までに登記は完了しますか?」という質問を受けることがあります。

これには決まった回答はありません。なぜなら、その時々の管轄法務局の繁忙状況によって、登記申請から完了までの期間は変わってくるからです。

経験上、平均すると一週間くらいではないかと思うのですが、例えば総会シーズンの6月後半~7月前半にかけては、役員の再任登記を行う会社が増えるため、通常よりも完了までの期間が大分長くなることが多い気がします。

また、書類に不備があったような場合には、補正手続をとる必要があるのですが、補正手続が必要となった場合には、予定よりも完了が遅れることがあります。

従って、デッドラインが決まっているような場合には、可能な限り早めに申請手続を行えるようにしておきましょう。

また、東京法務局のサイトにおいて、各法務局における、本日登記した場合の完了予定日が掲載されていますので、申請日が近いような場合には、かかるサイトを見ることで大体の完了予定日の目安が掴めることもあります。

 

⑥ 実費はどのくらいかかる?

登記手続を行う場合、登録免許税という税金を納付しなければなりません。この登録免許税が中々の曲者なのです。

例えば、取締役の変更の登記の場合は3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)なのですが、新株予約権を発行する場合だと9万円、新株を発行する場合には増加する資本金の1000分の7の金額も登録免許税が必要となります。すなわち、新株発行により1億円資本金が増加する場合、70万円もかかってしまうのです!

上記のとおり登録免許税はそれなりに負担となるため、出来る限り負担を減らすようにしましょう。金額を減らすためにはいくつか手段があります。

例えば、上記のとおり新株発行の際の税金の額は増加する資本金の1000分の7と定められているところ、会社法上新株発行の際に払い込まれた額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができるとされているため、全額を資本金として組み入れる場合と比較すると、登録免許税を2分の1にすることが可能です(なお、本論とは少し外れますが、資本金の増加は、登録免許税以外の税制でも不利になる事項が多いこと、資本金が5億円以上となると会社法上会計監査人の設置が義務付けられること、資本金の額が増えると下請法上不利な立場となること、など、登録免許税以外の点でもデメリットの方が多いことから、許認可等の要件として一定額以上の資本金が定められているような場合を除いて、可能な限り資本金は増額させないこととするのが一般的です。)。

また、上記の新株予約権発行の際の9万円という金額は一回の手続につきかかる金額ですので、なるべく一度に新株予約権を付与することで登録免許税を節約することが可能です。例えば、3人に予約権を付与する場合でも、3回に分けて付与して登記手続を行った場合には登録免許税は27万円となるのに対し、1回に3人に付与した場合には、登録免許税は9万円となります!IPOを目指すほとんどのベンチャー企業はストックオプションを発行するものと思いますので、計画的に発行することにより、登録免許税もできるだけ節約するようにしましょう。

他にも、一度に手続を行うことで登録免許税が節約できる場合があります。例えば、商号の変更と目的の変更は別のタイミングで登記をした場合には、各タイミングごとに3万円かかり、総額6万円かかるのですが、同時に登記をする場合には3万円で済むことになります(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。従って、何かの登記をする場合には、一緒のタイミングで変更登記しておいた方が良い事項がないか確認しておきましょう!

 

⑦ 自社でやる?専門家に頼む?

登記手続を自社で内製化してしまうか、私達弁護士のような専門家に頼むかも考えどころです。

内製化のメリットは専門家の費用を節約できる点にあります。一方、専門家に頼むメリットは、迅速かつ正確に対応してくれる点にあります。

どちらが良いのかはケースバイケースと言えるでしょう。

例えば、設立から間もないベンチャーにおいては、バックオフィス業務のリソースが足りない状況が多いと思うので、CEO等の貴重な時間を費やすよりは、必要経費と割り切ってしまって、専門家に頼んでしまった方が良いのではないかと思います。

一方、会社がある程度大きくなり、法務担当者のポジションを置くことができるくらいのステージとなった場合には、ある程度内製化を試みても良いのではないかと思います。但し、内製化する場合でも、新株予約権の発行や優先株式の発行など、必要書類作成の難易度が高く、かつ、失敗した場合の影響が大きいようなものについては、経験豊富な専門家に頼んだ方が良いのではないかと思います。

自社で手続を行う場合の留意点としては、「原本還付」手続を忘れずに行う必要がある点です。登記手続にあたっては、添付書面の原本を提出する必要があるところ、原本還付手続を行わない場合、原本が返却されないこととなります。これが原因でIPO審査の際に重要な議事録の原本がないことが発覚するなどの事態も珍しくないため、かかる原本還付の手続は絶対に忘れないように気をつけましょう。

原本還付の具体的な手続としては、書類の写しに「この謄本は,原本と相違がない」旨、会社名及び代表者の資格氏名を記載し、代表者が法務局に届け出る印鑑を押印する(書類が複数枚に及ぶ場合は届出印で割り印をする。)ことにより行うこととなります。

なお、管轄の法務局の窓口に行くと、正式な申請を行う前に事前相談を行うことができます。必要な書類の内容や、申請書の内容について事前に相談することが可能ですので、自社で登記手続を行う場合には、かかる相談を有効に活用にするようにしましょう!

 

執筆者

AZX Professionals Group

いかがでしたでしょうか?めんどくさいなーと思った方も少なくないと思いますが、今の日本においては登記手続への対応はせざるを得ないものですので、今回の記事を参考に抜け漏れのない対応をしていきましょう!

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