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その自由な働き方、本当に大丈夫?

2016/06/09

 

img_up_tt-2こんにちは、AZXの弁護士の高橋です。

もともと朝方の私ですが、暑くなってくると特に朝志向が強くなります。最近は夏に向けて徐々に朝シフトに移行しつつあります。

さて、そんな朝方、夜型の話にも関係してきますが、昨今、時間や場所に捕らわれない自由な働き方が注目されています。出退勤の時間をずらすフレックスタイム制はだいぶ一般的になってきましたが、それ以外にも様々な自由な働き方に関する相談が増えています。しかし、自由な働き方の導入は「自由に」行えるわけではありません。以下の裁量労働制、管理監督者、在宅勤務に関する相談例を中心にどのような法律の規制があるのか見ていきましょう。

相談例その1.

うちはエンジニアが中心の会社で労働時間の把握が困難です。「裁量労働制」を適用しても問題ないですよね。

裁量労働制は、「業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるとして、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度」です。エンジニア等労働時間が不規則になる傾向のある職種については、当該制度を導入したいという経営者の方が多くいらっしゃいます。しかし、裁量労働制の導入には一定の要件を満たす必要があるので注意が必要です。

まず、裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」(労働基準法38条の3)と「企画業務型裁量労働制」(労働基準法38条の4)の2種類がありますが、後者は社内に委員会を設置する必要があるなど手続きが煩雑であるためベンチャー企業が導入するケースは少ないです。したがって、前者を前提に解説していきます。

「専門業務型裁量労働制」の対象となる業務は、研究開発やシステムの分析・設計等、ゲーム用ソフトウェアの創作の業務等、19の業種に絞られています[1]。さらに業種に該当すれば直ちに適用できるわけではなく、たとえば「ゲーム用ソフトウェアの創作」の業務に関しては次のよう説明されています。

「「創作」には、シナリオ作成(全体構想)、映像制作、音響制作等が含まれるものであること。専ら他人の具体的指示に基づく裁量権のないプログラミング等を行う者又は創作されたソフトウェアに基づき単にCD-ROM等の製品の製造を行う者は含まれないものであること。」

すなわち、単にシステム開発に携わっているプログラマーであればよいわけではなく、裁量を与えられ作業の上流工程を担う一部のプログラマーだけが該当することになります。

さらに、裁量労働制を導入するには手続面にも注意が必要があります。経営者の一存では決められず、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定により、法所定の事項について定め、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です[2]

以上の要件をクリアした場合、ようやく裁量労働制を適法に導入することができるのです。さらに、運用面でも注意点がいくつかありますので、以下、Q&A方式で見ていきましょう。

Q1  裁量労働制の場合、割増賃金を払う場面はないと考えてよいですか?

A1  答えはNoです。みなし労働時間を1日9時間と設定した場合、法定労働時間(1日8時間)を超えていますので、1時間分については割増賃金を支払う必要があります。裁量労働制は単に労働時間を「みなす」効果があるだけであり、時間外、深夜、休日の割増賃金の支払いを免除するものではありません。

Q2  裁量労働制の場合は、休日に自主的に働いてもらっても構わないですよね?

A2  これもNoです。あくまで裁量労働制によってみなしているのは、労働時間の長さだけであり、休日や深夜労働の規制についてまで影響を及ぼす制度ではありません。したがって、使用者は休日労働を禁止することも可能ですし、休日労働をさせる場合には法定の割増賃金を支払う必要があります(Q1)。

Q3  休日労働させる場合、その労働時間は実際の労働時間、みなし時間のどちらにすべきでしょうか?

A3 これはどちらの可能性もあり得ます。裁量労働制はあくまで所定労働日に労働した場合に労働時間をみなす制度です。したがって、法的には休日労働まで対象にする必要はありませんが、他方で、労使協定により所定休日にみなし労働時間を適用することを定めることも可能だと考えられます(但し、法定休日にはみなし時間を適用することができないと考えられています)。もっとも、休日に短時間仕事をしただけで、みなし時間分の賃金がもらえるというのも不合理ですので、実務上は休日はみなし制を適用しない方がよいかもしれません。

Q4 裁量労働制を適用する場合、従業員の時間管理はしなくても問題ないですよね?

A4  よく誤解されるところですが、答えはNoです。労働時間の管理については、通常と同様の労働時間管理が求められているわけではありませんが、従業員の健康管理を図る必要から、適切な労働時間管理を行う責務があるとされていますので注意して下さい[3]

相談その2.

我が社では役員の下に「マネージャー」という名称で会社の各部門を統括する役職を置いています。マネージャーは管理監督者なので残業代を支払わなくてもいいですよね?

「管理監督者」の制度も裁量労働制と並んで誤解の多い労働形態です。まず、労働基準法上の「管理監督者」の規定から見ていきましょう。

労働基準法は「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)又は機密の事務を取り扱う者については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」とも定めています(労働基準法41条2号)。これは「管理監督者には労働時間、休憩、休日について法律上の制限をしない」ということですから、労働法の原則からすれば、大きな例外であると言えます。

「管理監督者」とは一般的に「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされますが、その具体的判断は役職名ではなく、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて実態により判断します。小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲に関して、厚生労働省から出ている通達によると、具体的な判断基準は大きく以下の3点です[4]

  • 経営者と一体的な立場で仕事をしているか(具体的には、採用、解雇、人事考課、労働時間の管理の全てが職務内容に含まれており、実際にも関与していること。)
  • 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないか
  • その地位にふさわしい待遇がなされているか

さらに、上記の通達に関するQ&A[5]では、上記の1つでも満たさない場合には管理監督者に該当しない可能性が高いと説明されていますので、管理監督者の要件は厳しく、またその該当性もかなり厳しく判断されると言えるでしょう。ところが、この「管理監督者」の意味を誤解し、役付の職員や各部門の統括者ならば割増賃金の支払いは要らないと考えているケースが見受けられます。実際、当事務所に相談に来られる方の事例でも、会社が管理監督者として扱っている人のうち、法の要件を満たす真の管理監督者は数少ないという印象を持っています。また、この問題をめぐる裁判では管理監督者性が否定される例も多く[6]、あとから残業代請求等をめぐってトラブルになりやすいところですので、投資案件やIPO審査の際にも厳しくチェックされるポイントの1つです。

なお、前述の「裁量労働制」と「管理監督者」の制度を混同されている方も散見されますので、以下に対比を記載しておきます。但し、両者はそもそも全く趣旨が異なる制度ですので、下記の表を覚えるというよりは、上記を読んで両者の違いを理解して頂いた方がよいと考えます。

  裁量労働制 管理監督者
時間外割増賃金 適用あり(但し、下記※) 適用なし
休日割増賃金 適用あり 適用なし
深夜割増賃金 適用あり 適用あり

※みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)の枠内であれば発生しない。反対に、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は発生する。

相談その3 

我が社は在宅勤務の制度を導入しようと考えていますが、実際の労働時間が把握できないので裁量労働制を適用してよいでしょうか?

自由な働き方として、時間だけでなく「場所」に拘らない働き方も増えています。特に育児中の女性などを中心に自宅で作業を行いたいといった要望も強く、冒頭の相談のような在宅勤務を認めるケースも増えています。なお、この在宅勤務は、サテライト勤務等も含めて「テレワーク」という言葉で呼ばれることもあります。

労働法は、働く場所に関しては比較的寛容です。とくに会社のオフィスで働かなければならないというルールはありませんので、会社が認めれば、在宅で勤務させることも可能です。具体的には、就業規則に在宅勤務を前提にした規定を盛り込むことや、雇用契約書に勤務場所として自宅を加えることになります。(なお、実際に導入される場合は厚生労働省から出ているパンフレット「『自宅でのテレワーク』という働き方」[7]を熟読されることをお勧めします!

オフィス以外の場所での勤務を認める場合、もっとも悩ましいのが労働時間の把握です。オフィス以外では上司が確認することやタイムカードで把握することもできませんので、従業員の労働時間をどのように把握するのかという問題が生じます。

ここで、冒頭の相談のように「在宅勤務だから従業員の労働時間は把握できない、よし裁量労働制だ」とするのは早計です。前述の通り、裁量労働制の要件は厳しく、単に労働時間を把握するのが困難だからという理由で導入できるものではありません。したがって、そのような要件を満たさない場合は、在宅勤務であっても労働時間を把握し、時間外労働や休日労働が生じた場合は通常通り割増賃金を支払う必要があります。

裁量労働制以外にも、「場所」に関係するみなし労働時間の制度として「事業場外労働のみなし労働時間制」(労働基準法38条の2)というものがあります。これは、「労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については 「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度」です。具体的には、外回りの営業マンや在宅勤務者を想定した制度だと言えますが、「業務に係る労働時間の算定が困難な場合」という要件が意外と厳しいのです。厚生労働省から出ている前述のパンフレットQ7では、以下の要件をいずれも満たす形態で行われる場合のみ在宅勤務について当該制度を適用できると説明されています。

  • 業務が自宅で行われること。
  • パソコンが、使用者の指示により常時通信可能な状態となっていないこと。
  • 作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

こうしてみてくると、事業場外のみなし労働時間制は、結構要件が厳しく、裁量労働制と同じくらい労働者に裁量が与えられている場合でないと導入は厳しいのではないかと思われます。そこで、やはり在宅勤務者であってもパソコンのログインの時間等を通じて従業員の労働時間を把握していくという方法が現実的かもしれません。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
高橋 知洋
Takahashi, Tomohiro

さて、今回は自由な働き方をテーマに解説しましたが、いかがでしたでしょうか。自由な働き方の導入を検討している企業では、導入前に一度立ち止まって、法律の枠内で実現できる制度であるか検討してみて下さい。また、新しい働き方が法律に照らして問題ないかご心配な場合は、ぜひご相談下さい。

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