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社員の退職の際に気をつけるべき事項

2016/07/07

img_up_ws-2AZXの弁護士の渡部です!

夏が近づいて参りましたね!私は趣味でダイビングをしているのですが、気候が暖かくなってくるとついつい頭には水中の情景が浮かんできてしまいます。ダイビングには色々な楽しみ方があると思いますが、その一つとして、普段見ることができないような大物を発見するという楽しみ方があると思います。これは宝探しの冒険のような楽しさであり、大物を発見した時の興奮はなかなか日常では味わえないものであると思っています。

img_up_ig-2AZXの弁護士の石田です!

私は今回ブログ初登場となります!趣味は、美味しいハンバーガーを食べることと、ランニング、水泳等のスポーツを行うことです。美味しくハンバーガーを食べるために、体を動かしていると言った方が正確かもしれませんが。。。渡部弁護士とは年齢も近く、どちらがより美味しいお肉料理屋さんを見つけられるか競い合っており、よい緊張関係(?)を保っています。

そんな二人が、今回は、従業員の退職の際に会社が気をつけるべき事項についてお話をしたいと思います。


 

人こそが組織の財産であることは疑いようがなく、特に従業員の絶対数が少ないベンチャー企業では、一人一人の従業員が組織の中で重要な役割を担っていることも多いと思います。このような重大な役割を担う従業員を大事にするために、色々な福利厚生を提供する、従業員のモチベーションを上げるようなインセンティブを提供する、働きやすい環境を提供する等、各社各様に知恵を働かせておられることと思います。

しかし、組織が人で成り立っている以上、価値観の違い等様々な理由により、従業員の退職というイベントが発生してしまうことは避けられないのも、また動かし難い事実です。

AZXでは従業員の退職に関する相談を承ることも多いので、今回は、従業員の退職の際に経営者が気をつけるべき基本的な事項についてお話をいたします。

 

1. 退職時では遅い?秘密保持義務や競業避止義務は入社時に!

従業員が退職するときに会社が気になる事項は、まずは、会社のノウハウが流出してしまうことではないでしょうか。この問題は会社としては頭の痛い問題だと思います。

退職した従業員に会社のノウハウ等の情報利用させないようにするための方法としては、退職する従業員に、退職後も競業避止義務及び秘密保持義務を負わせ、退職後に競合他社への就職や在職中に知り得た情報の利用をけん制することが考えられます。これらの義務を退職した従業員に課すために、退職時に誓約書を差し入れてもらったり、その旨を定めた退職合意書を作成したりしようとすることも多いのではないでしょうか。

しかし、従業員の退職が円満であることばかりではなく、中にはけんか別れのような形になってしまうことも少なくありません。このような場合には、退職時には退職後に競業をしないことや在職中に得た秘密を保持することを宣誓させることが困難であるため、就業規則や入社時に結んだ雇用契約書に、退職後の競業避止義務や秘密保持義務を定めておくことが重要となります。

入社のときから退職時のことを考えるのは本末転倒なように思えるかもしれませんが、会社の財産を守るためには、入社の時点から一定の配慮をしておく方がよいのです。

入社時に退職後の競業避止義務や秘密保持義務を課す場合には、退職時に別途誓約書等を差し入れさせなくても、契約上の効力として退職した従業員は退職後にも競業避止義務や秘密保持義務を負うことになります。そのため、このような場合に退職時に誓約書等を差し入れさせることは、退職者に、退職後であっても競業避止義務や秘密保持義務を負っていることを注意喚起するという意味合いが強いと考えていただく方が良いかもしれません。

このように、従業員に退職後にも競業避止義務や秘密保持義務を負わせるようにするためには、入社時点でこれらの義務を課せるように配慮した方が良いと考えられますが、これらの義務を負わせる場合には注意点があるため、以下にて解説します。

 

2. 退職後にも秘密保持義務を負わせるときの注意点

退職後に秘密保持義務を負わせることそれ自体が法的に無効とされるケースは多くないですが、秘密保持義務の対象が過度に広範である場合には、必要性・合理性の観点から公序良俗に反し無効(民法90条)とされる可能性があります。

そのため、秘密情報の範囲から公知情報や退職した従業員が第三者から秘密保持義務を負わされることなく適法に取得したものを除く等して秘密情報の範囲を広範にしないようにするか、秘密情報として守りたい情報をできる限り特定した方が良いでしょう。

 

3. 退職後にも競業避止義務を負わせることの注意点

一方で、退職後にも従業員に競業避止義務を負わせることについては、そもそもこのような競業避止義務を負わせることは有効かという問題があります。

競合会社に転職されて会社の情報が使われるのは会社にとって大きな痛手になる可能性があるため、会社としてはできるだけ競合会社には転職してもらいたくないところであるとは思います。

しかし、従業員には憲法で認められている職業選択上の自由(憲法22条1項)があるため、転職先を制限してしまうと、この職業選択の自由を侵害することになってしまい、競業避止義務に関する合意が公序良俗(民法90条)に反しているとされ、結果的に無効とされてしまう可能性があるのです。

競業避止義務に関する合意の有効性については、裁判例上では、従業員に退職後の競業避止義務を負わせることに合理性がある場合には、このような合意も有効であると考えられています。この合理性の有無は、①競業制限する必要性、②制限の範囲(制限する期間、場所、職種等)、③在職時の労働者の地位、④制限に対する代償の有無等の諸事情を総合考慮することによって判断されるとされています。そのため、従業員に、退職後の競業避止義務を負わせる場合には、競業禁止の期間をできるだけ短い期間とすること、転職を禁止する会社の業種や転職先での職種をできるだけ具体的に特定して競業を制限する範囲を限定すること、競業禁止の程度に応じた退職金等の代償の交付をすることを検討することが必要になります。

 

4. 義務違反に対する措置

退職後の競業避止義務や秘密保持義務を負わせたにもかかわらず、退職した従業員がこれらの義務に違反する行為をしていることが発覚した場合には以下のような措置を取ることが考えられます。

(1) 秘密保持義務違反

秘密保持義務違反が発覚したような場合には、契約上の秘密保持義務違反を理由に、退職従業員に対して損害賠償請求や秘密情報を利用することの差止請求をすることや、転職先の会社が退職した従業員に対して前職で得た情報を利用させたと認められるような場合には、当該転職先の会社に対して、不法行為(民法第709条)を理由として損害賠償請求や差止請求をすることが考えられます。

また、かかる秘密情報が不正競争防止法上の営業秘密(「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」同法第2条第6項)に該当する場合には、営業秘密を利用した行為が不正競争に該当することを理由に、損害賠償請求や差止請求をすることも考えられます。

すなわち、会社から営業秘密の開示を受けた従業員が、不正の利益を得る目的又は会社に損害を加える目的で営業秘密を使用したり、開示したりすること(当該目的で営業秘密を開示することを以下「不正開示行為」といいます。)は不正競争に該当します(同条第1項第7号)。そして、従業員の転職先の会社が、不正開示行為があったことを知って又は重大な過失によって知らないで営業秘密を取得し又は取得した営業秘密を使用若しくは開示することも、不正競争になります(同8号)。会社が開示を受けた段階で不正開示行為があったことを知らなくても、その後に不正開示行為があったことを知ったにもかかわらず、その後に営業秘密を使用し、又は開示する行為も不正競争になります(同9号)。退職した従業員やその転職先の会社が上記のような不正競争を行っている場合には、これら不正競争に該当することを理由に、損害賠償請求や差止請求をすることが考えられます。

なお、上記は適法に従業員が営業秘密の開示を受けていることが前提とされていますが、窃取、詐欺、脅迫その他の不正の手段により従業員が営業秘密を取得した場合でも、従業員が当該不正行為によって取得した営業秘密を使うときや会社が当該従業員から秘密情報の開示を受けてそれを使用するときには、不正競争に該当すると考えられます(同項4号から6号まで)ので、同様に損害賠償請求や差止請求をすることができると考えられます。

しかし、これらの損害賠償請求や差止請求は効を奏しない場合も考えられるため、会社が外部に出したくない情報については、アクセスできる人を限定する等して、なるべく外部に持ち出せないようにするとともに、仮に外部に持ち出されてしまったような場合には誰が持ち出したかを特定しやすくする等の事前の対策が重要になると考えます。

なお、上記の差止請求には、差止めの仮処分と差止請求訴訟による方法があります。前者の仮処分は、権利関係の確定及び実現を目的とする後者の訴訟とは異なり、差止請求を行う地位を仮に認める簡易・迅速な手続です。差止めにおいては、損害の拡大防止のため迅速性が要求されることから、簡易・迅速な前者の仮処分が選択されることが多いといえます。この点は、後述の競業避止義務違反を理由とする差止請求についても同様です。

(2) 競業避止義務違反

退職後の競業避止義務の規定が退職した従業員との間で有効に成立している場合に、従業員による競業避止義務違反があったときには、当該従業員に対し、競業避止義務違反に基づく損害賠償請求(民法第415条)や、契約に基づく競業行為の差止請求という手段を講じることが可能と考えられます。

競業行為については、営業秘密の不正使用のように法律上の禁止規定がないため、契約において競業禁止の義務を定めておかないと、競業行為を行っていることについて損害賠償請求や差止請求をすることが難しくなると考えられます。そのため、退職後の競業の禁止については、契約できちんと定めておくことが重要になります。

なお、競業行為をするにあたり、前職の営業秘密を使用した場合には、上述したような営業秘密の不正使用行為であることを理由に損害賠償請求や差止請求をすることができる余地はあると考えます。

 

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
渡部 峻輔
Watanabe, Shunsuke
執筆者
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弁護士 パートナー
石田 学
Ishida, Gaku

いかがでしたか。揉めないにこしたことはありませんが、退職に際して揉めてしまうケースは少なからず発生してしまうと思います。そのようなケースが生じたときのために、入社時から対応をきちんとしておくことが重要になりますので、ご参照ください!

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