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会社法下における新株予約権の設計上の留意点

~ AZX Coffee Break Vol.10 〜

新株予約権の設計上の留意点について旧商法下で概説したが、その後旧商法は抜本的に改正され、会社法が平成18年5月1日に施行された。新株予約権についても他の制度と同様、旧商法からの改正がなされているため、本稿では新株予約権の設計にあたり旧商法からの改正点で実務上特に留意しておくべき事項について概説する。なお、本稿は、ベンチャー企業に多い、公開会社ではない株式会社における新株予約権の設計を前提とする。

(1)決議機関 公開会社ではない株式会社における新株予約権発行の募集事項は、原則として、株主総会の特別決議によって定める必要があるとされた上、総会決議の日から1年以内に割り当てる新株予約権についてはその募集事項の決定を取締役会に委任することができるものとされた。そのため、株主総会で一定の枠を定めてその範囲で取締役会により具体的な発行を決定するという、旧商法と同様の手続が基本的に可能であるが、募集事項の決定を取締役会に委任する場合であっても、新株予約権の内容及び数の上限、無償で発行する場合にはその旨、並びに有償で発行する場合における新株予約権の払込金額の下限については、株主総会決議によって定める必要があり、特に「新株予約権の内容」(会社法第236条参照)を株主総会で決議すべきことには、留意する必要がある。例えば、新株予約権の行使期間については、取締役会の裁量に基づき個別具体的に決定したい等のニーズから、取締役会に委任したいとの要望を有するベンチャー企業も時折見受けられるが、新株予約権の行使期間も新株予約権の内容にほかならないため、行使期間は株主総会決議において定めるべきと解される。また、新株予約権の行使条件も、会社法の明文上は新株予約権の内容としては定義されていないが、新株予約権の権利内容を定める要素の一つとして、新株予約権の内容と解釈されており、やはり株主総会決議において定めるべきと解されるため、注意が必要である。
(2)報酬決議 旧商法下では、取締役にストックオプションとして新株予約権を発行する場合、株主総会による報酬決議が別途必要であるとは考えられていなかったが、会社法下では、取締役にストックオプションとして新株予約権を発行する場合、当該新株予約権は、取締役の職務執行の対価である財産上の利益に該当し、株主総会決議を要する会社法第361条の「報酬等」に含まれると一般的に考えられるようになった。したがって、取締役に新株予約権を発行する場合には、新株予約権発行決議の他に、会社法第361条に基づく株主総会による報酬決議が必要と考えられるため、当該決議を失念しないよう留意する必要がある。具体的な報酬決議の仕方については、未だ実務的な解釈が固まっているとはいえないが、未上場株式会社の新株予約権のように、信頼性のある方法により、付与する新株予約権の公正価額が算定できない場合には、「報酬等のうち額が確定している」(会社法第361条第1項第1号)とは評価できないとして、「報酬等のうち額が確定していないもの」(同項第2号)であって、「報酬等のうち金銭でないもの」(同項第3号)としての決議をするという取扱いも考えられる。この場合には、付与する新株予約権の内容を具体的に定めた上で、同項第2号の「算定方法」として、「新株予約権○個分の公正な評価額を上限とする」などの定めをすることも可能であろうとする法務省立法担当者の見解が示されている。但し、判例等で確定した取扱いとは言い切れない面がある。
(3)取得事由 旧商法下では、一定の事由が生じた場合に権利者の有する新株予約権を消却することが認められていたが、会社法では一定の事由が生じた場合に権利者の有する新株予約権を一旦取得した上で、それを消却するという手順で新株予約権を消滅させることが原則となった。そのため、旧商法下において、株式会社が新株予約権者の手元で新株予約権を消却できる場合として設計していた消却事由については、会社法下では、株式会社が新株予約権者から新株予約権を取得できる場合として設計することになる。一定の事由が生じた場合に自動的に取得されるようにすることも、別に定める日の到来を取得事由とすることにより新株予約権の取得の有無及び時期を株式会社が選択できるようにすることも可能であり、取得事由の生じた新株予約権の一部を取得できるように設計することも可能である。実務的には従前と実質的に類似した取扱いをできるように、取得日及び取得する新株予約権の範囲を取締役会が決定する形で設計を行う例が多いと考えられる。
(4)新株予約権証券 旧商法下では、新株予約権証券は発行することが原則であり、例外的に、新株予約権者の請求があるときに限りこれを発行することとできるものとされていた。会社法下では、原則として新株予約権証券を発行する必要はなく、新株予約権証券を発行する場合には、新株予約権の内容としてその旨規定しておく必要があることになった。そのため、会社法下では、新株予約権証券を発行しないことを意図する場合、新株予約権の内容として新株予約権証券に関する規定を設ける必要はなく、逆に、旧商法下での取り扱いを念頭に、新株予約権の内容として新株予約権者の請求があるときに限り発行する旨を定めてしまうと、新株予約権者の請求があるときには新株予約権証券を発行しなければならないと判断されることになり、その意図と逆の結果を導くことになるため、注意が必要である。
(5)調整事由 株式が株式分割や株式併合等により増減した場合、新株予約権の目的となる株式数やその行使価額もその増減に伴い調整される旨の調整規定を新株予約権の設計の際に設けておくことが、旧商法下から通例となっているところ、会社法下では、発行済株式総数を増減させる概念として、株式分割や株式併合に加えて、新たに株主に対して無償で新株を割り当てることができる株式無償割当ての制度が設けられたので、その取扱いを明確にした方が良いと考えられる。また、旧商法下において転換請求権付株式、転換条項付株式などの普通株式に転換され得る種類株式が低額発行された場合を調整事由とするケースが多かったが、会社法ではかかる種類株式は取得請求権付株式、取得条項付株式といった形で概念及び用語が変更されているため、それに応じた形で調整条項を設けることが必要となる。
(6)組織再編 会社法では、組織再編を実施する場合の新株予約権の取扱いについて複雑なルールが設けられており、新株予約権の処理について検討すべき事項が発生することになる。そのため、新株予約権設計の段階から将来の組織再編を見据えた設計を行うことが望ましい。なお、ここでいう組織再編とは、新株予約権発行会社が消滅会社、分割会社又は完全子会社になる被買収の組織再編の場合を指している。
①組織再編時の取扱規定 旧商法下では、株式交換及び株式移転に伴う新株予約権の取扱いについて規定が設けられていたが、合併及び会社分割に伴う新株予約権の取扱いについて直接的な規定が設けられていなかった。そのため、旧商法下における新株予約権の設計に際しては株式交換及び株式移転に伴う新株予約権の取扱いについてのみ規定が設けられる例がほとんどであった。会社法下では、株式交換及び株式移転のみならず合併及び会社分割に伴う新株予約権の取扱いについても規定が設けられているため、組織再編時の取扱規定を設ける場合は、合併及び会社分割に伴う新株予約権の取扱いも含めて規定を設けておく必要がある。
②新株予約権の消滅 合併の場合、新株予約権は当然消滅するが、合併以外の組織再編の場合、新株予約権は当然には消滅せず、組織再編時の契約又は計画に基づき再編相手方会社の新株予約権を代替交付する場合に消滅することになる。そのため、合併以外の組織再編については、再編相手方会社の新株予約権を代替交付しない場合、新株予約権は消滅することなく残存することになるが、例えば、株式交換、株式移転の場合に新株予約権を完全子会社の債務として残存させてしまうと、その行使により完全親子会社関係が崩れてしまい組織再編をした意義を失くしてしまう可能性がある。そこで、会社の判断で組織再編時に新株予約権を消滅させることができるよう行使条件や取得事由を設計した方がよいと考えられる。
③新株予約権買取請求との関係 組織再編に伴い一定の場合、新株予約権者に新株予約権の買取請求権が認められているが、このような買取請求権は組織再編の円滑な実行の妨げとなる可能性がある。そこで、新株予約権の買取請求権を極力排除するためには、組織再編時に新株予約権自体を可能な限り確実に消滅させる設計を採用することが望ましい。一方で、例えば、小規模な会社分割で、大部分の新株予約権付与対象従業員が分割会社に残るというようなケースでは、会社分割が行われても新株予約権が存続しうる設計が望ましい。このように組織再編時においては、新株予約権を消滅させたいという要請と消滅させたくないという要請が存在するため、これらの要請をどのように調整し新株予約権の設計に反映させるかがポイントとなる。設計案としては、組織再編時の取扱規定を設けるだけではなく、新株予約権の取得事由及び行使条件の規定と絡めて、会社の判断により新株予約権の買取請求前に新株予約権を消滅させる余地を残す案が考えられる。

以 上

 

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