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販売代理店契約の留意点(2)

2004/03/12

~ AZX Coffee Break Vol.5 〜

本稿は2004年1月に発行したAZX Coffee Break Vol.4の「販売代理店契約の留意点(1)」の続きである。

(5)引渡に関連する諸規定 売買型の販売代理店契約においては、商品等を販売店に販売することから、商品等の引渡についての規定を入れるのが一般的である。それに伴い、検収、危険負担、所有権の移転時期についての規定も設けられるのが一般的である。供給者にとって、危険負担の移転はできるだけ早期(例えば、納入時)に、所有権の移転時期はできるだけ遅い時期(例えば、代金の支払完了時)とするのが有利である。また、検収については、販売店において検収手続を迅速に行なってくれない場合や、検収の合否について明確な通知が無い場合もあるため、納入後一定期間内に合否の通知が無い場合、又は販売店が検収目的以外に商品等を利用したい場合には、検収に合格したものとみなすなどの規定を入れておいた方が安全である。

(6)瑕疵担保責任/製造物責任 販売代理店契約においては、瑕疵担保責任や製造物責任等の対象商品に関する責任の区分が重要な争点となることがある。まず、瑕疵担保責任については、商人間の売買に関する瑕疵担保責任は引渡から6ヶ月と定められているが(商法第526条)、これは当事者で伸長又は短縮できるので、販売代理店契約においてこの瑕疵担保責任の期間を明確に定めておくのが賢明である。製造物責任については、自己が製造者、加工者又は輸入者の場合は責任を負わざるを得ないものと考えられるが、製造物責任が発生するおそれのある事情が発覚した場合には、損害賠償義務を負うことなく出荷を停止できる等の措置を講じることができる旨を規定しておいた方がよいことがある。また、自己が製造者、加工者は輸入者でない場合であっても、自己が製造者等であるかのような氏名等の表示を行なった場合には製造物責任の主体となる可能性があるため(製造物責任法第2条第3項第2号及び第3号)、販売店にそのような表示を禁止する規定を入れることを検討することも必要である。

(7)商標の取扱い 販売代理店契約においては、その対象商品については、供給者所定の商標を付して販売させることが多く、それに付随して、商標を使用許諾することがある。この場合には、商標の使用態様、使用範囲等について規定することになる。商品のブランドについては自由とし、販売店のブランドでの販売を許容する場合もあるが、その場合には、自己の商品イメージを損なわないよう、使用されるブランドについて拒否権を規定するなどの配慮をするのが賢明である。

(8)二次販売店の設定の可否 販売店を設定した場合、その販売店がさらにその下に二次販売店を設定してよいとするか否かを慎重に検討する必要がある。ベンチャー企業にとって、自己の商品等を販売してくれることは望むところであり、二次販売店は自由に拡大してもらいたいと考えることが多い。このような考え方が適切な場合もあるが、対象商品等が複雑である場合や商品のブランド・イメージを大切にしたい場合には、二次販売店の設定は慎重に考える必要がある。例えば、対象商品が複雑であり、販売店による実際の販売の前に商品知識の習得のための研修を受けさせたいと考えている場合、二次販売店の設定を自由とするとこのような研修を十分に行うことができなくなってしまう可能性がある。また、二次代理店が増えると、供給者の方で二次代理店の販売方法に対する監視が行き届かず、間違った説明や強引な販売方法により対象商品のイメージ、ひいては供給者自身のイメージが低下してしまう可能性がある。従って、二次代理店の設定は、供給者の販売戦略の重要な検討事項の一つとして位置付けるのが適当である。二次代理店の設定については、単に一律に許容/禁止するのではなく、二次代理店の設定について供給者の事前承諾事項としたり、研修を受講することを条件としたりするなどの規定も可能である。なお、二次代理店の設定を許した場合には、販売店に対し、二次代理店の行為に対しての監督責任を負わせておいた方が安全である。

(9)販売店の各種義務 販売代理店契約においては、販売店に遵守させたい各種義務を規定するのが一般的である。典型的な例としては、①拡販の努力義務、②商標等の使用義務、③広告宣伝活動及び販売促進活動についての規制、④購入者への説明義務、⑤参考価格の提示、⑥包装物等の指定、⑦研修受講義務、⑧サポート義務、⑨購入者からのクレームの受付け等がある。なお、参考価格の提示に関しては、独占禁止法との関係で公正取引委員会が定めている「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」において、再販売価格の拘束は原則として禁止されているため、かかる規制に抵触しないように注意する必要がある。また、サポート義務や購入者からのクレーム等の受付については、ベンチャー企業の場合自社商品等の販売が拡大した場合に自社内のリソースでこれらに対応することが難しい場合もあるため、これらを販売店の役割としてある意味アウトソーシングすることも検討した方がよい場合がある。

(10)販売店の競業禁止 販売代理店契約においては、販売店が供給者以外の類似の商品等を取り扱うことを禁止する場合がある。特に、販売店に独占販売権を与える場合には、供給者の売上は販売店の営業努力に大きく依存することとなり、販売店が競合品を取り扱ったために営業資源が分散し、自社の商品等に対する販売力が弱体化することは避けるべきことである。しかし、他方で、競争品の取扱いの制限は、上記「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」において一定の範囲で禁止されていることから、競業禁止規定を定める場合には、かかる規制との関係も考慮する必要がある。

(11)紛争処理 物やサービスの販売においては、購入者からのクレーム等、各種紛争が発生する可能性がある。この場合、一時的な紛争対応を供給者と販売店のどちらが行うか、万一損害賠償等を余儀なくされた場合にはその負担割合をどうするべきかなどを予め想定できる範囲で明確しておくのが賢明である。

(12)供給者の免責 供給者が販売する商品等は必ずしも完璧である保証はなく、何らかの欠陥を内在している可能性がある。特にソフトウェア等についてはバグを完全になくすことは極めて困難である。これは、上述の瑕疵担保責任や製造物責任と関係する部分でもあるが、供給者としては、現状の状態で商品等を供給すれば足り、当該商品に欠陥がないことや特定目的に適合することは保証できない旨を規定しておくことがある。ただ、欧米の契約書ではこのような免責規定はごく当たり前のように規定されているが、日本の契約書においては、どうも都合の良い責任回避の規定のように映り、相手から受入れてもらえないことも多い。また、損害賠償額については、可能であれば、供給者が一定期間内に販売店に販売した商品等の代金相当額を上限とするなどの規定を設けておく方が安全である。

(13)契約終了時の取扱い 以前ライセンス契約の留意点でも述べたが、契約はいつかは終了するものであり、終了する場合の規定を設けておく必要がある。円満に契約を終了することは、当該相手方との将来の取引のため、また、自社の信用の確保のために重要である。販売代理店契約の場合、契約が終了した時に販売店において在庫が存在していることがある。そのため、契約終了時における在庫の取扱いについては明確に規定しておくのが賢明である。具体的には、在庫に限りなお継続して販売可能とする、供給者が販売店に代金を返還することで在庫を引き取る権利を有するなどの定めをすることがある。商品の販売の場合は、このような在庫の問題が主な課題となるが、サービスの販売の場合には、販売店がサービスを提供できなくなることから、供給者がサービス提供に関する契約を引き継いだり、ユーザーと新しく契約を締結したりする必要が生じる場合もある。また、販売店にサポート義務や購入者からのクレームの受付け等の役割を課していた場合、契約終了後これらの点についてどのように取り扱うべきかも検討しておく必要がある。契約はその終了時にトラブルが発生することも多いため、契約終了時のことを想定しておくのが賢明である。

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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