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自己株式の取得

~ AZX Coffee Break Vol.2 〜

平成13年10月1日施行の商法改正により金庫株が解禁されたが、自己株式の取得に関してさらに一部商法改正が行われ、今年9月25日に施行された。そこで、本稿では金庫株解禁以降の自己株式取得に関する規制について復習を兼ねて解説するとともに、今回の商法改正の内容を解説する。

1. 平成13年10月1日の金庫株解禁以降の規制について(今回の商法改正前) 

会社が自己株式を買い受けるためには、定時株主総会において、次期定時株主総会終結時までに買い受けることのできる株式の種類、総数及び取得価額の総額という取得枠を定める必要がある(商法第210条)。定時株主総会が要求されたのは、自己株式の取得は、実質的には債権者に先立つ株主への会社財産の払戻であり、また資本維持及び会社債権者保護の観点より配当可能利益を取得財源としていることからも、自己株式の取得は利益処分的な性質の行為であると考えられたためである。なお、無償取得は「買受」に該当せず、商法第210条の適用を受けないと考えられている。また、商法中に別段の定めがある場合(営業譲渡等に対する反対株主の買取請求に応じて取得する場合(商法第245条ノ2等)、譲渡制限会社において会社が譲渡を承認しないで自己を譲渡の相手方に指定した場合(商法第204条ノ3ノ2)等)には、定時株主総会の決議を得る必要はない。

買受方法が市場取引又は公開買付の方法による場合には普通決議で足りる。特定の者から買い受ける相対取引の方法による場合には、取得枠に関する事項のほか対象となる特定の売主についても定時株主総会において決議する必要があり、この場合は特別決議が要求される(商法第210条第5項)。これは、相対取引による取得の場合には株主平等の原則の観点から、他の株主を保護すべき要請が高いためである。また、相対取引の場合には売主に自己を追加した議案に変更することを請求し得る権利が他の株主に発生する(商法第210条第7項)。これはtag along rightと呼ばれるものであり、株主の株式売却の機会の平等を図る趣旨で設けられたものである。このtag along rightは基本的には議案の変更にあたるが、自己も売主に追加すべきと主張する株主が現れた場合には会社は必ずその株主を売主に追加しなければならず、株主提案権や議場での修正動議よりも強力な権利が株主に与えられている。なお、売主たる株主には、当該議案について議決権を有さないこととなる(商法第210条第5項、第204条ノ3ノ2第3項及び第4項)。未公開のベンチャー企業が自己株式を取得する場合には、基本的に相対取引の方法になると考えられるため、tag along rightを含めた上記規制については特に注意する必要がある。

自己株式取得の原資は、利益配当と同様に資本維持の原則の観点から、配当可能利益に限定されている(商法第210条第3項)。定時株主総会にて自己株式取得の授権決議を行うと同時に、資本又は法定準備金の減少の決議を行った場合には、取得価額にその減少額をも加えることが可能となる(商法第210条第4項)。かかる減少額は定時株主総会で承認又は報告される貸借対照表に反映されるものではないため、本来であれば減少額を取得財源に含めることは次期の定時株主総会まで待つべきであるが、定時株主総会において減少の決議をした場合であれば、配当可能限度額と合わせた額が確定できることから、例外的に減少額を取得財源に含めることが認められている。自己株式の取得について定時株主総会の決議があったとしても、期末において欠損が生じるおそれがある場合には自己株式の取得は禁止され(商法第210条ノ2第1項)、欠損が生じてしまった場合には自己株式の買受を行った取締役は填補責任を負うこととなる(商法第210条ノ2第2項及び第3項)。なお、中間配当の限度額算定に当たり、商法第210条第1項の決議により定める自己株式の取得価額の総額も最終の貸借対照表上の純資産額から控除される(商法第293条ノ5第3項第3号)。

2. 平成15年9月25日施行の商法改正 

以上の通り自己株式の取得は認められることとなったものの、定時株主総会が要求されるため、次のような問題が指摘されていた。①期中に急を要する組織再編行為を行う場合に機動的な自己株式の取得ができない。②定時株主総会時においては自己株式取得の必要性が認められなくとも、万が一の事態を想定して取得枠を設定する必要があるが、その根拠が必ずしも具体的、確定的なものではなく、株主の理解を得ることが難しい。③定時株主総会にて決議する取得総額は、中間配当限度額の算出に当たり純資産額から控除されるため(商法第293条ノ5第3項第3号)、中間配当限度額が減少することから、その妥当性について株主の理解を得ることが難しい。④自己株式の取得実績が取得枠を大きく下回った場合、翌年の定時株主総会において取得枠の設定につき株主の理解を得ることが難しい。

そこで、平成15年9月25日を施行日とする改正商法(平成15年法律第132号)では、従来の取得方法に加え、定款授権に基づく取締役会決議による自己株式の取得が認められた。具体的には、「当会社は、商法第211条ノ3第1項第2号の規定により、取締役会の決議をもって自己株式を買受けることができる。」と定款に記載することになる。なお、株主総会は定款変更を行う際に、取締役会決議による自己株式の取得数、取得価額につき上限を設定することも可能である。また、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第21条ノ7第3項が改正され、委員会等設置会社であっても定款授権に基づき自己株式を取得するには、一般の会社と同様に取締役会決議を要することとなっている。なお、定款授権に基づく取締役会決議による自己株式の取得は、市場取引又は公開買付の方法に限定されている(商法第211条ノ3第1項第2号、第210条第9項本文)。

定款授権に基づく自己株式の取得財源は、中間配当限度額が上限となる(商法第211条ノ3第3項)。自己株式の取得は、株主に対する会社財産の払戻という点では利益配当等と同様であり、また、期中において取得財源を設定するという点では期中に一定の日を定め、その日の株主に対して金銭を分配する中間配当(商法第293条ノ5)と同様の性格を有するものであると考えられたためである。なお、定款授権に基づく取得の場合も、定時株主総会の決議により取得枠を設定した場合と同様、期末において欠損が生じるおそれがある場合には自己株式の取得は禁止され、欠損が生じてしまった場合には自己株式を取得した取締役は填補責任を負うこととなる。

定款授権に基づき取締役会議で自己株式を取得した場合には、取得後最初の定時株主総会において、自己株式の買受を必要とした理由、買い受けた株式の種類、数及び取得価額の総額を報告しなければならない(商法第211条ノ3第4項)。これは、次期の定時株主総会において自己株式取得に関する事項を報告し、当該経営判断につき株主のチェックの機会を付与する趣旨である。なお、次期の定時株主総会において自己株式取得の合理的理由が説明できない場合でも自己株式取得の効力それ自体には影響を与えるものではなく、場合により取締役の責任が追及されるに過ぎない。

上記自己株式取得の規制の改正に伴い、中間配当限度額の算定に当たり、最終の決算期後に資本又は法定準備金の減少を行った場合には、減少した資本又は法定準備金に相当する額を純資産からの控除額に含めないことと改正された。従来は、中間配当限度額の算定に当たっては減少前の資本及び法定準備金の合計額を控除すべきこととしており、さらに定時株主総会で設定した自己株式取得枠をも控除すべきとしているため、商法第210条第4項に基づき資本減少等をして当該減少額を財源とする自己株式の取得枠を設定すると、中間配当を行うことができなくなるという事態が生ずるという問題があった。定款には中間配当を行う旨を定めることが一般的であり、株主としては利益のある会社であれば期末と期中の年2回配当が行われることを期待しているところ、中間配当を行っても資本の欠損が生じるものでもなく、現実には利益があるにもかかわらず金銭分配を先延ばしにすることにつき、中間配当を受けられなくなった株主から理解を得ることが難しい状況にあった。そこで、改正法においては、最終の決算期後に資本又は法定準備金の減少を行った場合には、減少した資本又は法定準備金に相当する額(当該減少手続において株主に払戻をした額等は除く)は、中間配当限度額の計算に当たり、純資産額からの控除額には含めないこととされた(商法第293条ノ5第3項)。

(文責:リーガル・クラーク 入江裕昭、監修:弁護士 後藤勝也)

 

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