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ドラッグ・アロング・ライトとは?スタートアップ投資での必要性と留意点

2024/10/03

AZX弁護士の平井です。

今回は投資契約書のうち、ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)について解説したいと思います。

1.目的と必要性

ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)とは、対象会社の買収(M&A)に関して、一定の要件(例えば、優先株主の総議決権の3分の2以上の承認)を満たした場合、他の株主に対して買収(M&A)に応じるべきことを請求できる権利です。会社の支配権の移転という「買収(M&A)」を強制する権利であるため、ある意味とても強力な権利です。それゆえ、「強制売却権」「売却請求権」などと呼ばれることもあります。

ドラッグ・アロング・ライトは、スタートアップ投資の領域でも、ExitとしてのM&Aが重視されてきていることから、投資家にとって重要な権利であることはもちろんですが、その重要性は起業家にとっても大きいといえます。

ドラッグ・アロング・ライトの主要な目的は以下の2つにあります。

(1)少数株主にM&Aに応じることを請求できるようにする。

(2)経営陣がM&Aに応じることを請求できるようにする。

まず、(1)の目的について説明します。

M&Aには、大きく分けて、①株式譲渡、②株式交換、株式交付、株式移転、合併等の企業再編行為、③事業譲渡、会社分割等の事業の移転形態があります。

①の株式譲渡については、実務上は買い手側が100%買収を求めているケースがほとんどであることから、1%しか保有していない株主であっても、その株主がM&Aに反対してしまうと、ディール・ブレイクになりかねません。法的には、反対しているのがごく一部の株主であれば、M&Aの前後でスクィーズアウトなどを行うことも考えられますが、さまざまな法的対抗手段をとられる可能性を考えると、M&Aのスケジュールやコストに大きな影響を与える可能性があります。

②及び③については、原則として株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)で実行可能です。その意味で①株式譲渡よりも少数株主の反対は致命的ではありませんが、反対株主の株式買取請求権等の少数株主の保護の制度もあるため、これを発動されるとM&Aのスケジュールやコストに大きな影響を与える可能性があります。

このような事態は、会社の経営陣としても、M&Aを実行したいと思っている際には、大きな問題となります。 従って、M&Aの際に、少数株主にM&Aに応じることを強制できるようにしておくことは、投資家のみならず、経営陣にとっても重要なことと言えます。

ドラッグ・アロング・ライトの目的の一つは、このように、少数株主にM&Aに応じさせること(=少数株主をDragすること)にあります。

次に、(2)の目的について説明します。

VC等の投資家は、スタートアップに投資をして、IPO又はM&Aの形で投資した株式を売却することでキャピタルゲインを得ることを目的に投資活動を行っていることから、Exit機会を確保することは最重要課題の一つです。特に、ファンドという形で第三者の資金を預かっており、ファンドの期限があるVCにとっては、この点は極めて重要です。

しかしながら、①会社が順調に発展している状況において、VCとしてはよいM&Aのオファーがあったのでこれを実行したいが、経営陣としては、会社はもっと大きくなるはずなので、将来のIPOやもっと大型のM&Aを狙いたいといった場合や、②会社がうまく行かず、実質的な時価総額も小さくなってしまっており、VCとしてはファンドの満期の関係で株式を売却せざるを得ず、損切り覚悟でもM&Aを実行したいが、挽回できると信じている経営陣がM&Aに応じてくれないといった場合など、投資家側と経営陣とでM&Aについての意見が合わないケースがあります。

このような場合において、経営陣にM&Aに応じてもらうこと(=経営陣をDragすること)がドラッグ・アロング・ライトのもう一つの目的ということになります。

各ディールにおいて、ドラッグ・アロング・ライトの目的を何にするかで、その発動要件の設計も異なってきます。

但し、実際には、(2)の目的だけというケースは稀で、(1)のみ、又は(1)&(2)を目的とするケースが多いです。

2.発動要件

どのような要件を満たした場合に、投資家が他の株主に対してM&Aに応じることを請求できるかという「発動要件」については、ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)の目的が、「(1)少数株主にM&Aに応じることを請求できるようにする。」ということにあるのであれば、以下の例のような形で目的を達成することが可能です。

①全株主の総議決権の●分の▲以上の賛成があった場合

②優先株主の総議決権の●分の▲以上の賛成があり、かつ、会社の取締役会で承認された場合

なお、「●分の▲」の部分は、「3分の2」などとする例が多いです。

これであれば、経営陣にとってもそれほどリスクはなく、むしろ、経営陣としても他の株主がM&Aに応じるべき規定を設けておいた方が安全かもしれません。

他方で、ドラッグ・アロング・ライトの目的が、「(2)経営陣がM&Aに応じることを請求できるようにする。」ということにある場合は、上記のような形だと、経営陣が反対すると実行が難しいためワークしないことになります。従って、この場合は、シンプルに「優先株主の総議決権の●分の▲以上の賛成がある場合」という要件が提示されるのが一般的です。

しかし、このような発動要件とした場合には、経営陣からすると、「投資家が会社を勝手に売れてしまうということですよね!」ということで、投資家と経営陣との交渉のパワーバランスにもよりますが、経営陣としては受け入れられないとして交渉が難航するケースも多いです。

経営陣としても確かにM&Aも視野に入れているものの、上記のような発動要件だと、投資家の意向で、自分の望まない時期に、望まない金額で売却を強制されてしまうことが受け入れられないのです。

そのため、投資家側としては、各ディールのドラッグ・アロング・ライトの目的に照らして、「時期」と「金額」を発動要件に織り込みながら、両者の妥協点を検討していくことが考えられます。

例えば、投資家側としては、上場目標時期までにIPOできなかったらさすがにM&Aに応じて欲しいと考えているなら、例えば、「但し、○年○月○日以降に限り適用される。」という形で、期限を設定することが考えられます。この期限については、上場目標時期だけでなく、ファンドの満期との関係で設定することも考えられます。

これによって「時期」をある程度制約することで妥協点を見つけやすくなります。

また、経営陣としては、M&Aを強制されてほとんどキャピタルゲインがないという事態は避けたいと思うのは当然ですが、数億円もキャピタルゲインが生じるM&Aのオファーに対して、経営陣がもっと欲をかいて、投資家がExitの機会を失うのは逆にアンフェアな面もあります。

そこで、「但し、買収で想定される時価総額が○億円以上の場合に限り適用される。」などとして、経営陣としてもそれなりに報われるM&Aの場合には買収に応じてもらう形にすることが考えられます。

もちろん、上記の時期と金額を組み合わせて、例えば、上場目標期限までは、M&Aで想定される時価総額が一定額以上の場合に限り適用されるが、ある期限以降はそのような金額制限なく適用されると設計することも可能です。

このような形で、投資家と起業家が、M&Aの時期や金額について、よく話し合い、適切な形でドラッグ・アロング・ライトの発動要件が設計されることが望まれます。

3.その他の留意点

「(1)少数株主にM&Aに応じることを請求できるようにする。」というドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)の目的を達成するためには、反対する可能性のある少数株主を含む全ての株主を契約当事者とする必要があります。

なお、株主が多い場合に、全ての株主を「投資契約」の当事者とすると、全株主に投資契約の内容を開示することになってしまう上、契約内容の変更を行う場合には少数株主の同意も必要となり得るという不都合が生じることから、ドラッグ・アロング・ライトの規定とみなし清算の規定(この点は次回以降に説明します。)だけを抜き出して、別途、合意書等を作成するケースも多いです。

また、ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)を発動する場合の対価の分配については、優先株式については、残余財産の優先分配のような優先権をつけるケースが多く、この点についても契約書できちんと明確にしておく必要があります。この点は、次回以降に「みなし清算(優先分配規定)」について解説したいと思います。

4.まとめ

ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)は、Exit機会を確保することが最重要課題であるVC等の投資家にとって重要度が高い一方で、その効果が非常に強いため、起業家側との交渉が難航するケースも多いですが、ドラッグ・アロング・ライトを受け入れるか否かという0か100かといった交渉ではなく、目的に沿った柔軟な設計ができないかといった建設的な交渉を行うことが重要だと考えています。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
平井 宏典
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