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スタートアップ必見!優先株式とは?ファイナンスに欠かせない基本と重要な規定を解説

2024/10/24

AZX弁護士の横田です。

今回はスタートアップが優先株式を発行することによりファイナンスを行う際の優先株式の内容について、概要を解説いたします。

1. 優先株式とは

優先株式とは、会社法上の用語ではありませんが、一般的にスタートアップファイナンスにおいては、普通株式よりも優先的な権利を持つ種類株式のことを意味します。

ベンチャー・キャピタル(VC)等の投資家がリスクの高いスタートアップに投資をする際のリスク管理の手法として、特に億単位の出資においては、優先株式が利用されることが多いです。

なお、優先株式を発行する場合は、優先株式の内容を定款に定め、登記をすることが必要になります。

 

2. 優先株式の内容

スタートアップファイナンスにおいて設定されることが多い優先株式の内容に関する規定は、以下のとおりです。

なお、簡易的な内容ではありますが、弊所のウェブサイトに優先株式規定の雛形を公開しておりますので、合わせてご参照ください。

➀剰余金の優先配当

スタートアップが剰余金の配当を行う場合に、優先株式の保有者(以下「優先株主」といいます。)が一定の金額(概ね、出資額の8%程度とされることが比較的多い印象です)優先的な配当を受けられる旨の規定です。

スタートアップでは剰余金の配当を行うことが少ないため、この規定の重要度はあまり高くないことが多いです。但し、最近は用いられることが少ないですが、いわゆる「累積型」(未配当の優先配当額を翌期以降の優先配当額に累積させる形)の場合は、その累積額を下記②の残余財産の優先配当額に加算したり、普通株式への転換比率(下記③をご参照ください)においても加味される建付けとされることが多いため、注意が必要です。

②残余財産の優先分配

スタートアップが解散・清算する際の残余財産の分配において、優先株主が優先的に分配を受けられることを定めた規定です。

定款上は、このように清算時の残余財産の分配という形で規定されますが、投資家と締結する株主間契約書(又は買収に係る分配合意書等)においては、スタートアップがM&Aをする際のM&Aの対価の株主間における分配方法について、定款に定める残余財産の分配と同様の方法で分配する旨の規定(いわゆる「みなし清算」条項)を定めることが一般的であるため、この残余財産の優先分配に関する規定は、M&Aをする際の普通株主・優先株主への分配額に影響する規定となることから、注意が必要な規定となります。

優先分配額は、現在の日本のスタートアップファイナンスにおいては、いわゆる「1倍・参加型」(大要、優先株主が、(1)出資額の1倍相当額を普通株主に先立ち分配を受けたうえで、(2)残りの残余財産については全株主の持株比率に応じて分配する[1]形)とされることが多いです。

もっとも、米国においてはむしろ非参加型(上記(2)の分配がなく、優先株主がM&Aの際に上記(1)の分配のみ受けるか、出資時のバリュエーション以上の金額のM&Aにおいては下記③の取得請求権の行使により普通株式に転換したうえでM&Aの対価を受けることが想定された形)が多いことや、参加型とすることでスタートアップ起業家がM&Aを行うインセンティブを阻害するおそれがあること等の問題意識から、最近は、「1倍・非参加型」の設計も見られるようになってきています。

③取得請求権

優先株主がスタートアップに対して、自らが保有する優先株式をスタートアップに対してその取得を請求することができることを定めた規定です。

これには、主に(1)普通株式と引き換えにする取得請求権と(2)金銭と引き換えにする取得請求権の2つがあります。

上記(1)(普通株式と引き換えにする取得請求権)については、優先株式を普通株式に転換する際の比率(転換比率)について、当初は1:1で定め、ダウンラウンド等があった際は優先株主の持株比率の希釈化を防止する観点で、転換比率を調整する(1株の優先株式に対して転換される普通株式を1株以上の数に調整する)ための算定式が定められることが一般的です。

上記(2)(金銭と引き換えにする取得請求権)については、どのような場合に、いくらの金銭と引き換えにする請求権となっているのかを慎重に確認する必要があると考えます。

④取得条項

上場時にスタートアップの機関決定により、一方的に優先株式を普通株式に転換する(スタートアップが普通株式を対価として優先株式を取得する)ことができることを定めた規定です。

こちらは、実務上、上場前に全ての優先株式を普通株式とすることを主幹事証券会社等から要請されることが一般的であるため設けられる規定となっています。

⑤拒否権

スタートアップが一定の事項について機関決定をする際に、優先株主を構成員とする種類株主総会決議を要する旨の規定です。

この規定に反して種類株主総会決議を行わなかった場合、当該事項について会社法上の効力が生じないという強い効力を持つものであり、また、種類株主総会決議を行うことは煩雑であるため、そもそもこのような拒否権は優先株式の内容としては定めず、株主間契約書等において投資家の事前承諾を要する事項をスタートアップの契約上の義務として定めるに留めることも多いです。

⑥取締役選任権

優先株主を構成員とする種類株主総会において取締役を選任することを定めた規定です。

こちらについても、種類株主総会決議を行うことは煩雑であること等から、優先株式の内容としては定めず、株主間契約書等において投資家の取締役指名権を契約上の権利として定めるに留めることが多いです。

⑦種類株主総会を要しない旨の定め

会社法上、一定の事項(例えば、当該種類株式の発行、株式分割、合併等の組織再編など)については種類株主総会決議が必要とされているところ、これらの種類株主総会決議を要しない旨を定める規定です。この規定は、スタートアップ側に有利な規定であるため、投資家側から提示されたものに設定されていない場合があることから、その場合はスタートアップ側から追記を要求する必要がある規定となります。

但し、(1)新たな種類株式を追加する場合、(2)株式の内容を変更する場合、及び(3)発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数を増加する場合については、種類株主総会決議を要しない旨を定款で定めても、種類株主総会決議を要する点に注意が必要です(会社法第322条第3項但書、同条第1項第1号)。

3. まとめ

スタートアップファイナンスにおいて用いられる優先株式の内容は、複雑な規定が多く、また、一般的な規定と乖離していないか等がわからない場合もあると考えますが、AZXにおいては日常的に対応しておりますので、ご不明な点やご不安な点など、お気軽にご相談頂ければと存じます。

 

注釈

[1] 但し、優先株主に対しては、普通株式1株あたりに分配される金額に③に定める転換比率を乗じた金額を分配するという設計にすることが多いです。

 

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
横田 隼
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