弁護士の平井です。
資金調達のご相談をよくいただくのですが、その際に重要となるのが株主総会のスケジュールです。今回は、スタートアップにおける株主総会について、いかにスケジュールをコンパクトにして開催できるのかという観点から、解説したいと思います。
1. 株主総会の流れ
株主総会を行う場合の流れとしては、大要、①招集決定、②招集通知及び委任状の発送、③株主総会の開催、④株主総会議事録の作成となります。
スタートアップにおいては、事業成長のスピードと相俟って、コーポレートアクションも頻繁に行われることから、上場会社とは異なり、株主総会の開催頻度もそれなりに高いのが特徴です。また、一般の企業よりも高い迅速性が求められるため、株主総会についても、いかにスケジュールをコンパクトにして開催できるかということが重要になります。特に、資金調達の場合には、速やかに資金調達を受けられなければ資金ショートしてしまう事態もあり得ます。
今回は、スケジュールの観点から、(1)招集決定と(2)招集通知及び委任状の発送、また、(3)書面決議について解説したいと思います。
2. 招集決定
株主総会を開催するにあたっては、まず招集決定を行う必要があります。招集決定は、取締役会設置会社の場合には取締役会において、取締役会非設置会社の場合には取締役決定において行います(会社法第298条第1項・同第4項)。招集決定においては、株主総会の日時及び場所、また目的事項などを定めます(会社法第298条第1項)。
また、会社法上の手続ではありませんが、投資家との投資契約において、一定の事項を決定する場合には、当該決定を行う取締役会決議(取締役の決定)又は株主総会決議よりも前に、投資家からの事前承認等を得ることが必要となる場合もありますので、投資契約を締結している場合には、事前承認等が必要ないかチェックするようにしましょう。
3. 招集通知・委任状の発送
(1) 招集通知
招集通知には、招集決定で定めた事項を記載します(会社法第299条第4項)。
スタートアップ等の公開会社でない株式会社では、原則として、株主総会の1週間前までに招集通知を発送する必要があります(会社法第299条第1項)。なお、この「1週間」というのは「中7日」を意味しますので、スケジュールを立てる際には注意しましょう。また、取締役会非設置会社においては、定款で定めることにより、この「1週間」を「3日前」など、より短い期間に設定することも可能です(会社法第299条第1項)。
しかし、株主総会の1週間前に招集通知を送るようなスケジュールでは間に合わない(1週間前には招集通知の内容が確定できない)ケースもスタートアップにおいては多いため、この招集手続を省略することやその期間を短縮するといった対応がよく行われています。
この招集手続の省略やその期間を短縮するためには、株主全員の同意が必要となりますが(会社法第300条)、招集手続を省略することで、招集決定から株主総会の開催及び議事録の作成までを最短1日で行うことも可能です。
また、招集通知は、必ずしも書面(紙)で行う必要はなく、メールやクラウド上に手続書類をアップロードして閲覧してもらうサービス等で行うことも可能です。(少し細かいですが、取締役会設置会社の場合には、原則として書面で行う必要がありますが(会社法第299条第2項第2号)、あらかじめ一定の事項を株主に通知し、株主の承諾を得ることによって電磁的方法(メールやクラウドサービス)により招集通知を発送することは可能です(会社法第299条第3項))
なお、実務上招集通知に参考書類というタイトルの書面を添付して、議案の内容を記載している例がありますが、通常のスタートアップでは、参考書類を作成する必要は法的にはありません。
(2) 委任状
スタートアップにおいては、前述のとおり、株主総会の開催頻度が高いこと、また、招集手続を省略して株主総会を開催することも多いことから、全ての株主が株主総会に出席できない場合も多くあります。
そのため、スタートアップでは、招集通知(又は招集手続省略同意書)と併せて、代表取締役を代理人とする委任状の雛型を発送することが多いです。なお、議決権行使の委任は、株主総会ごとに行う必要があり、今後一切の株主総会における議決権行使について委任するなどの包括的な委任は認められていません(会社法第310条第2項)。
委任状の提出は、原則として書面で行う必要がありますが(同第1項)、大要、株主と会社にて委任状の提出方法について合意がなされていれば、招集通知と同様に、メールやクラウドサービス等の電磁的方法による提出が可能となります(同第3項)。
4. 書面決議
招集手続省略と同様に、株主全員の同意を得て行う手続として、書面決議というものがあります。書面決議とは、取締役又は株主が、株主総会の目的事項を株主に対して提案し、全ての株主から「同意書」を取得した時点で、株主総会決議があったものとみなす制度です(会社法第319条第1項)。招集手続省略との違いは、実際に株主総会を開催するか否かという点です。なお、「同意書」は書面又は電磁的記録(捺印した書面をスキャンしてPDF化したものや電子署名を施したもの等)のいずれの方法で行うことも可能です。
また、書面決議の場合も、書面決議を行うことの提案から株主総会の決議(株主全員の同意)までを最短1日で行うことも可能です。
5. まとめ
今回は、スタートアップにおける株主総会について、いかにスケジュールをコンパクトにして開催できるのかという観点から解説いたしました。
AZXでは株主総会の開催が必要な手続書類の作成や登記手続についてのご相談を日常的に取り扱っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
株主総会のより詳しい解説につきましては、拙著「株主総会の運営に関する留意点」(菅原稔,他『スタートアップの法律相談』(青林書院、2023)116頁~124頁)をご参照ください。