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近時の資金調達におけるセカンダリー取引とは?背景・留意点を解説!

2025/01/17

スタートアップの資金調達をスタートアップ側、VC側でアドバイスすることが多いのですが、最近、プライマリー取引(新株発行)の際に、セカンダリー取引(既存株式の譲渡)も行われるケースが増えてきたため、今回はセカンダリー取引について解説します。

・概要

スタートアップにおける資金調達としては、新株を投資家に発行して、投資家からその対価を会社に振り込んでもらう、新株発行、すなわちプライマリー取引が前提となります。

一方で、セカンダリー取引は、既存株式の譲渡を意味し、かかる譲渡の対価が支払われても、会社にお金は入らず、すなわち会社の資金調達にはなりません。[1]

しかし、ここ最近(数年以内でしょうか)、実務上、ミドル、レイターステージ以降のスタートアップの資金調達時にセカンダリー取引が並行して行われることが多くなってきた印象です。ここでいうセカンダリー取引とは、起業家又は既存投資家から、投資家(主に新規投資家)に対して既存株式を譲渡する取引を意図しています。

・背景等

なぜスタートアップにお金が入らないのに、セカンダリー取引を行うのかと思われる方もいらっしゃると思いますが、以下の背景があるものと考えます。

①既存株主のミニイグジット

②新規投資家の調達コストの調整のため

①については、未上場株式は流動性が乏しい等の理由で売買による現金化が難しいため[2]、換価したい起業家、既存投資家にとってはIPO(上場)前のセカンダリー取引は重要な現金化(イグジット)の 機会となります。個人的な見解としては、昨今、一部のスタートアップのIPO(上場)時期が遅れてしまっていることが一因となっているのではないかと思います。

②については、新規投資家の立場からすれば、可能な限り少ない金額で、可能な限り多くの株式を取得することが望まれます。[3] かかる観点から、投資家としては、新たな調達ラウンドで発行される優先株式の株価で新株株式を引き受けるのではなく(プライマリー取引だけでなく)、普通株式、又は過去の調達ラウンドで残余財産請求権等の内容の優先性に劣る発行済みの優先株式(今回の調達ラウンドがC種優先株式なら、発行済みのA種優先株式、B種優先株式等がこれにあたります。)を譲り受けることにより、総体として見ると、1株当たりの取得価格を下げることができることになります。[4]

・法務上の留意点

まず、セカンダリー取引において譲渡人となる予定の既存株主が株主間契約等において必要な手続がないか確認することが重要となります。全部又は一部の投資家の事前承諾権の対象となっていたり、株主間契約上の他の当事者の先買権や共同売却権の対象となっていないか、対象となっている場合には事前に放棄等して貰うことで種々の手続をスキップできないかなどが検討事項となります。

次に、契約書等の書面上の留意点について記載します。

前提として、プライマリー取引とセカンダリー取引が同時に実行される場合でも、それぞれ別の取引であるため、互いを関連付ける、条件付ける論理的な必然性はないといえます。

しかし、スタートアップや起業家、既存投資家を含めた既存株主の立場からすれば、新株発行がなされるので、セカンダリー取引を認めたという事情があるかもしれません。また、新規投資家等のセカンダリー取引の譲受人の立場からすれば、既存株式の譲受けを前提として、新株を引き受けるものだと考えている投資家もいるでしょう。

そこで、(主にスタートアップ側[5]、既存投資家の立場からは)セカンダリー取引への協力(事前承諾権の放棄等)にあたって新株発行の実行が条件となる旨書面上明確にすること、(主に新規投資家の立場から)新規投資家による既存株式の譲受けが当該投資家の新株の引受けの条件となっていることを投資契約等にて定めることなどが考えられます。上記は一般論であり、実際には案件毎の個別事情に応じた対応が必要となりますので、必要に応じて弁護士等に相談するのが良いです。

 

「セカンダリー取引」という用語や内容は馴染みのない方も少なくないと思われますが、今後プライマリー取引の際に同時に行われる可能性もあるため、解説してみました。

弊所ではセカンダリー取引を含めたスタートアップアップの資金調達のご相談を多く対応しておりますので、ご不明点があればお気兼ねなくご連絡下さい。

 

【脚注】

[1] 会社の保有する株式を譲渡する場合、会社に対価が支払われることになりますが、この場合、自己株式処分として新株発行と同様の会社法の規制に服することになるため、自己株式処分はセカンダリー取引ではなく、プライマリー取引として位置付けています。

[2] 近時、非上場有価証券の流通活性化を目的として、金融商品取引法等の改正がなされています(「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」ご参照)。

[3] 金融機関等の投資家は、法令上、持株比率について一定の制限がある場合があります。

[4] VC等の投資家によっては、様々な理由からセカンダリー取引を望まない投資家も存在するようです。

[5] 株主間契約において、既存投資家が株式譲渡を行う場合におけるスタートアップ側の手続協力義務が規定されることが多いと考えますが、投資家だけでなく起業家も当該株式譲渡に関し先買権を有するケースがあります。そのようなケースにおいて、既存投資家等の要望を受けて先買権の放棄等に条件を付ける際に、平仄を合わせる形で起業家側も同様に条件を付すような場合を想定しております。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
石田 学
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