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競業避止義務を定める際の注意点【その1】有効と判断されるためのポイント

2025/02/21

弁護士の貝原です!

エンターテインメント業界や美容業界など、一定の業界でよく見かける競業避止義務ですが、その有効性については裁判で争われることもあり、スタートアップとしてはどのような内容を定めれば良いか悩ましいと思います。そこで、今回は「競業避止義務契約の有効性について」(経済産業省)を参考に、競業避止義務について解説したいと思います。

1.競業避止義務

競業避止義務とは、契約の一方当事者が他方当事者の事業と競合する事業に従事してはならない義務をいいます。契約において課せられる場合もありますし、事業譲渡における譲渡人や代理商など、法律上競業避止義務が生じる場合もあります。

今回はエンターテインメント業界や美容業界など、一定の業界でよく見かける契約において課せられる競業避止義務を念頭に解説します。

2.競業避止義務を定めること自体は基本的に問題ないが…

例えば、エンターテインメント業界における競業避止義務であれば、タレントや演者と事務所の間で締結される契約において、契約の有効期間中はもちろん、契約終了後も一定期間、芸能活動が制限される内容が定められることがあります。このような競業避止義務を定めること自体を禁止する法令は執筆時点では存在しないため基本的に問題ありませんが、タレントや演者の職業選択の自由(憲法第22条第1項)との関係で有効性が問題となるだけでなく、「例えば、実演家に対して取引上の地位が優越していると認められる芸能事務所が、その地位を利用して、実演家に対して競業避止義務等を課すことで実演家の移籍、独立を断念させることなどにより、実演家に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる。」(「音楽・放送番組等の分野の実演家と 芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書 (クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査)」(令和6年12月、公正取引委員会)39頁)との指摘もなされています。そのため、競業避止義務を定めることを検討するスタートアップとしては、有効となる可能性が高く、法律上問題となる可能性が低く、かつ、実効性のある競業避止義務の内容を検討する必要があります。

3.競業避止義務契約が有効であると判断される基準

上記2の通り、競業避止義務については有効性が問題となることが珍しくありません。この点について、「競業避止義務契約の有効性について」(経済産業省)によれば、労働者の競業避止義務について、以下の通り整理されています。

■競業避止義務契約が労働契約として、適法に成立していることが必要。

■判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、①守るべき企業の利益があるかどうか、①を踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、②従業員の地位、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間や⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、⑥代償措置が講じられているか、といった項目である。

(「競業避止義務契約の有効性について」(経済産業省)3頁)

スタートアップとしては、競業避止義務が上記①から⑥までの項目に照らして有効となる内容となっているか検討するのが良いと考えます。特に、有効性が認められる可能性を高くするためには、競業避止義務期間が1年以内となっていること、禁止行為の範囲につき、業務内容や職種等によって限定を行っていること、代償措置が設定されていることがポイントになると考えられます(「競業避止義務契約の有効性について」(経済産業省)19頁)。

また、エンターテインメント業界において見られるタレントや演者と事務所との間のマネージメント契約(専属マネジメント契約等)における競業避止義務について、近時の裁判例では「本件条項(※競業避止義務)による制約に合理性がない場合には本件条項は公序良俗に反し無効と解すべきであり、合理性の有無については、本件条項を設けた目的、本件条項による保護される一審被告会社(※芸能事務所)の利益、一審原告ら(※タレント)の受ける不利益その他の状況を総合考慮して判断するのが相当である。」との判断を示し、結論として競業避止義務を無効としたものもあります(知財高判令和4年12月26日)。

スタートアップとしては、上記の裁判例も意識し、競業避止義務による制約に合理性があるか慎重な検討が必要になると考えられます。

4.まとめ

以上、競業避止義務(その1)につきまして、いかがでしたでしょうか。競業避止義務はタレントや演者に対する制約が強い内容であるだけに、有効性が問題となることも珍しくありません。スタートアップとしては、自社の契約における競業避止義務が、有効かつ適法で実効性のある内容となるよう慎重な検討が必要です。

AZXでは競業避止義務を含む契約(マネジメント契約等)についてのご相談を日常的に取り扱っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

次回は競業避止義務の具体的な内容や、競業避止義務の実効性を高める他の規定(違約金、芸名、SNSに関する規定等)について解説したいと思います。

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執筆者
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弁護士 パートナー
貝原 怜太
Kaihara, Ryota
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