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【2025年4月施行】育児・介護休業法改正のポイントと企業の対応策を解説!

2025/03/06

AZXの横田です。

今回は、2025年4月に施行する育児介護休業法の改正のポイントと、企業の対応すべき事項について、解説いたします。

今回の改正では、以下で解説するとおり多くの改正事項が設けられており、また、就業規則等の改訂や運用の変更が必要なものがあるため、ご確認のうえ、4月の施行に向けての対応の参考にして頂ければと思います。

なお、2025年10月に施行される同法の改正もありますが、そちらは改めてAZXブログでまとめる予定です。

1.改正の趣旨及び概要

今回の育児介護休業法の改正では、少子高齢化が進行する中で、育児や介護の離職を未然に防止するために、労働者が希望に応じて仕事と育児・介護を両立し、キャリア形成できる環境整備が求められていることを受け、以下のような措置が講じられています。

<育児関係>

①    子の看護休暇の取得事由及び対象となる子の範囲の拡大等

②    所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大

③    短時間勤務制度の代替措置にテレワーク等を追加

④    育児のためのテレワーク導入の努力義務化

⑤    育児休業取得状況の公表義務を300人超の企業に拡大

⑥    柔軟な働き方を実現するための措置等の義務付け

⑦    仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務付け

<介護関係>

⑧    介護両⽴⽀援制度等の個別の周知・意向確認、早期の情報提供

⑨    介護両⽴⽀援制度等を取得しやすい雇⽤環境整備の措置の義務付け

⑩    介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

⑪    介護のためのテレワーク導入の努力義務化

 

※上記⑥と⑦は2025年10月に施行される内容です。

以下では、育児関係の改正内容・介護関係の改正内容について解説した後、具体的な対応策についてもご説明します。

2.育児関係の改正

(1)改正の全体像

今回の育児関係の主要な改正内容の全体像については、以下の表のとおりです。

(出所:厚生労働省『令和6年改正法の概要(政省令等の公布後)』2頁)

 

上記のオレンジの枠の内容が今回の改正部分となりますが、「柔軟な働き方を実現するための措置」の部分については、2025年10月に施行される内容となります。

以下で、各改正の内容について、説明いたします。

 

(2)各改正の内容について

① ⼦の看護休暇の⾒直し

子の看護休暇が以下の表のとおり見直しがされており、これにより、(従前は小学校就学の始期に達するまででしたが)⼩学校第3学年修了までの⼦を養育する労働者が申し出たときは、1年間に5⽇間(子が2人以上の場合は10日間)の子の看護等休暇を与える必要があることとなります。

また、取得理由に、負傷、疾病、予防接種、健康診断のほか、新たに感染症に伴う学級閉鎖入園(入学)式、卒園式が追加されました。

加えて、従前は「継続雇用期間6ヵ月未満」の労働者については、労使協定により子の看護休暇取得の対象から除外することができましたが、今回の改正により当該労働者を除外することができなくなります。

改正内容 施行前 施行後
対象となる子の範囲の拡大 小学校就学の始期に達するまで 小学校3年生修了まで
取得事由の拡大
(③④を追加)
①病気・けが
②予防接種・健康診断
①病気・けが
②予防接種・健康診断
③感染症に伴う学級閉鎖等
④入園(入学)式、卒園式
労使協定による継続
雇用期間6か月未満
除外規定の廃止
〈除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
②継続雇用期間6か月未満
〈除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
※②を撤廃
名称変更 子の看護休暇 子の看護休暇

(出所:厚生労働省「リーフレット『育児・介護休業法改正のポイント』」1頁)

 

② 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大

今回の改正により、小学校就学前の子(従前は3歳未満の子)を養育する労働者が請求したときは、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させることができなくなります。

 

③ 短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク等を追加

従前から、原則として、3歳に満たない⼦を養育する労働者が希望した場合、短時間勤務制度(原則1日6時間)を利用させる必要があります。但し、「業務の性質又は業務の実施体制に照らして、措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者」について、労使協定を締結することにより対象外とすることができます。この場合、対象外とする労働者に対しては、別途「代替措置」を講ずる必要があります。

この「代替措置」の選択肢の1つとして、今回の改正で、テレワーク等が追加されました。

改正内容 令和7年3月31日まで 令和7年4月1日以降
短時間勤務制度の代替措置のメニューを追加 <代替措置>
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②フレックスタイム制
③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
(時差出勤の制度)
④保育施設の設置・運営等
<代替措置>
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②フレックスタイム制
③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
(時差出勤の制度)
④保育施設の設置・運営等
⑤テレワーク等

(出所:厚生労働省『パンフレット『育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説』(β版)』4頁)

 

④ 育児のためのテレワーク等の導入(努力義務)

今回の改正で、3歳未満の子を養育する労働者がテレワーク等を選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。

 

⑤ 育児休業取得状況の公表義務適用拡大

今回の改正により、常時雇用する労働者数が300人超(従前は1000人超)の事業主は、毎年1回、男性の育児休業等の取得状況を、公表前事業年度の終了後おおむね3か月以内に、インターネットなど一般の方が閲覧できる方法で公表しなければならなくなります。

公表内容は、公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の①又は②のいずれかの割合を指します。


(出所:厚生労働省『リーフレット(A4) 」1頁)

当該公表義務の詳細は、上記のリーフレットをご参照ください。

3.介護関係の改正

(1)改正の全体像

現行の介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の概要及び今回の介護関係の主要な改正内容の全体像については、以下の表のとおりです。


(出所:厚生労働省『令和6年改正法の概要(政省令等の公布後)』5頁)

上記のオレンジの枠の内容が今回の改正部分となります。

以下で、各改正の内容について、説明いたします。

 

(2)各改正の内容について

① 介護離職防止のための個別の周知・意向確認等、早期の情報提供

1 介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認

今回の改正により、介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は、介護休業制度等に関する下記「周知事項」の①~③のすべての事項の周知と、介護休業の取得・介護両⽴⽀援制度等の利⽤の意向の確認を、個別に行うことが必要となります。

周知事項 ①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など)
③介護休業給付金に関すること
個別周知・意向確認の方法 ①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか
注:①はオンライン面談も可能。③④は労働者が希望した場合のみ

(出所:厚生労働省「リーフレット『育児・介護休業法改正のポイント』」3頁)

 

個別周知・意向確認の方法は、上記のとおり、FAXや電子メール等で行うのは労働者が希望した場合のみとされている点に注意が必要です。
なお、個別周知と意向確認は、介護休業に関する制度、介護両⽴⽀援制度等の申出が円滑に⾏われるようにすることが目的であるため、取得を控えさせるようなことは⾏ってはならないとされています。

また、周知事項の「介護両立支援制度等」としては、(i)介護休暇に関する制度、(ii)所定外労働の制限に関する制度、(iii)時間外労働の制限に関する制度、(iv)深夜業の制限に関する制度、(v)所定労働時間の短縮等の措置があります。

厚生労働省のウェブサイト(『育児・介護休業等に関する規則の規定例』)の13-4にて、上記の周知事項に関する書面の参考様式をダウンロードできるため、こちらを参考にして個別周知・意向確認を行うことが考えられます。

 

①-2 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供

今回の改正により、事業主は、仕事と介護の両⽴⽀援制度を⼗分活⽤できないまま介護離職に⾄ることを防止するため、介護に直面する前の早い段階(下記の提供期間)に、介護休業及び介護両⽴⽀援制度等に関する以下の事項について下記の方法で情報提供を行うことが必要となります。

情報提供期間 ① 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
② 労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間 のいずれか
情報提供事項 ① 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
② 介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など)
③ 介護休業給付金に関すること
情報提供の方法 ①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか
注:①はオンライン面談も可能

(出所:厚生労働省「リーフレット『育児・介護休業法改正のポイント』」3頁)

 

こちらについては、上記①-1と異なり、労働者からの申出がなくても、上記の情報提供期間に上記の情報提供事項を提供することが必要となります。
また、こちらに関しては、労働者の希望がなくても、電子メール等による提供も可能となっています。

また、こちらも厚生労働省のウェブサイト(『育児・介護休業等に関する規則の規定例』)の13-4にて、上記の情報提供事項に関する書面の参考様式をダウンロードできるため、こちらを参考にして情報提供を行うことが考えられます。

 

② 介護両⽴⽀援制度等を取得しやすい雇⽤環境整備の措置

今回の改正により、介護休業と介護両⽴⽀援制度等の申出が円滑に⾏われるようにするため、事業主は、以下のいずれかの措置を講じることが必要となります(介護に直面している労働者がいなくても、全ての事業者が行う必要があります)。

なお、可能な限り複数の措置を講ずることが望ましいとされています(『子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針』第二の6の3及び同8の2)。

(i)    介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施

(ii)   介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)

(iii)  自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供

(iv)  自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

(i)「研修の実施」については、全労働者を対象とすることが望ましいですが、少なくとも管理職は、研修を受けたことがある状態にする必要があるとされています(厚生労働省『令和6年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和7年1月23日時点)』A4-12参照)。

研修用の資料等は、厚生労働省の下記のウェブサイトからダウンロードできますので、研修をするにあたりこちらの資料を活用することも考えられます。
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/library/training/

 

(ii)「相談窓口設置」については、相談窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知することを意味します。窓口を形式的に設けるだけでなく、実質的な対応が可能な窓口を設ける必要があるとされています(出所:厚生労働省『パンフレット『育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説』(β版)』23頁参照)。

 

(iii) 「事例の収集・提供」については、自社の介護休業・介護両⽴⽀援制度等の取得事例を収集し、その事例を社内のポータルサイト等への掲載等を⾏い、労働者が閲覧できるようにする必要があります。

 

(iv) 「取得促進に関する方針の周知」については、介護休業等に関する制度及び介護休業等の取得の促進に関する事業主の方針を上記(iii)と同様に労働者に周知する必要があります。

 

上記(iii)及び(iv)については、厚生労働省のウェブサイト(『育児・介護休業等に関する規則の規定例』)の13-5にて、参考様式をダウンロードできるため、こちらを参考にして作成することが考えられます。

 

③ 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

従前から、原則として、要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者が請求したときは、1年間に5日間(対象家族が2人以上の場合は10日間)の介護休暇を与える必要があります。

この介護休暇の取得に関して、従前は「継続雇用期間6ヵ月未満」の労働者については、労使協定により対象から除外することができましたが、今回の改正により当該労働者を除外することができなくなります。

改正内容 施行前 施行後
労使協定による継続雇用期間
6か月未満除外規定の廃止
〈除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
②継続雇用期間6か月未満
〈除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
※②を撤廃

(出所:厚生労働省「リーフレット『育児・介護休業法改正のポイント』」2頁)

 

④ 介護のためのテレワーク導入(努力義務)

今回の改正により、事業者は、要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワーク等を選択できるように措置を講ずることが、努力義務として課されます。

 

4.改正への対応について

以上の改正に伴い、事業者において対応が必要と考えられる事項について、以下にまとめます。

 

(1)就業規則(及び育児介護休業規程など)の改訂及び労基署への届出

① 全事業者(就業規則を設けている事業者)において対応が必要な事項

(i)   子の看護休暇の対象範囲、取得事由の修正

(ii)  所定外労働(残業免除)の対象の修正

(iii)「子の看護休暇」の名称を「子の看護等休暇」に修正

② 努力義務に従って導入する場合

(i)  育児のためのテレワーク等に関する規定の追加

(ii) 介護のためのテレワーク等に関する規定の追加

③ 選択する場合

短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置としてテレワーク等を追加

(2)労使協定の改訂及び再締結(子の看護等休暇・介護休暇を取得できる労働者について対象外とする規定を設けている場合)

(i) 子の看護等休暇の対象外としている労働者から「継続雇用期間6か月未満」の労働者を削除

(ii)介護休暇の対象外としている労働者から「継続雇用期間6か月未満」の労働者を削除

(3) その他の運用上の対応

(i)  (常時雇用する労働者数が300人超である場合)育児休業取得状況を所定の時期までに公表

(ii)  介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認

(iii) 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供

(iv) 介護両⽴⽀援制度等を取得しやすい雇⽤環境整備の措置の実施

上記のほか、必要に応じて社内の申出書等の様式の修正も必要になると考えられます。

社内規程や社内様式の修正にあたっては、厚生労働省のウェブサイト(『育児・介護休業等に関する規則の規定例』)に掲載されている参考様式が参考になると考えます。

5.まとめ

今回の改正により、育児・介護に従事する労働者は、従来以上に多様な働き方の選択肢を持ち、キャリア形成と家庭の両立がしやすくなると同時に、企業においては、就業規則や労使協定の見直し、情報提供等の体制整備、テレワーク環境の整備等、労働環境の改善に向けた取り組みが求められます。

AZXでは、こうした法改正に伴う企業の対応策について、弁護士と社会保険労務士が連携して個別のご相談に対応することも可能ですので、今回の法改正に関する対応についてご不明な点等ありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

なお、冒頭で述べたとおり、2025年10月施行の改正内容については、改めてAZXブログにて解説予定です。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
横田 隼
Yokota, Hayato
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