AZXブログ

ベンチャーがやらかしがちな失敗16例

2015/02/26

AZX総合法律事務所はベンチャー企業のサポートを専門としているのですが、ベンチャー企業が初めて私達のところに相談に来る時期は様々です。設立前から来ることもあれば、IPOがかなり近くなった時期になって相談に来ることもあります。

ベンチャー企業のサポートをするにあたっては色々な問題がありますが、困るのは私達の元に相談に来る前に色々とやらかしてしまっているケースです。事後的に手当をできることもあるのですが、取り返しがつかないようなポカをやらかしてしまっているケースもあります。

そこで、今回は、そのような事態に陥らないようにするために、ベンチャー企業がよくやらかしてしまいがちな失敗を思いつくままに書いてみたいと思います。

① 設立時の発行株式数が少なすぎる

設立した瞬間は株主が少数なので、100株だけ発行しておきゃいいじゃん!といったケースをよく見かけます。しかしよく考えて下さい。ベンチャー企業は成長するに当たって、株式を発行することによる資金調達をしたり、ストックオプション発行をしたりするのが普通です。にもかかわらず100株しか発行していないと、VCの持株比率を細かく設定できなかったり、従業員に発行済株式総数の1%分以上でしかストックオプションが付与できなくなるといった事態に陥ります。

このような場合には、株式分割をして株式数を増やすこととなりますが、株式分割をするにあたっては株主総会が必要となったり、登記手続が必要となったりして、無駄な時間とお金がかかります。ですので、設立段階からある程度株式の数を多めにしておきましょう!

 ② 創業者間の持株比率の設定でミスる

典型例としては、友人数人で創業し、同じ数だけ株式を持つことです。一見当然のようにも見えますが、全創業者が同じだけの株式を持つと、意思決定がスムーズに行なわれないとの事態が考えられます。代表は投資契約等の当事者となり、通常は株式を売却することができず、また様々な制約も課されるため、代表がその義務に見合うだけの多くの株式を持つことは不公平とは言えないと思われます。また、一般的には代表者は株式を売却することは難しく、上場等との関係での安全株主対策の面からも、代表に株式を集中させておいた方が好ましいです。従って、創業時には予め話し合い、議決権数に差をつけておくことをお勧めいたします(とは言っても、友達同士だと難しいんですけどね。)。

あと、創業者の持株比率は大きいため、誰か一人が抜けた場合に株式を置いていってもらえるよう創業者株主間契約を締結しておくことをお勧めします。創業者株主間契約の雛型は当事務所のホームページの「書式/雛型集」(https://www.azx.co.jp/modules/docs/ )をご参照下さい。

 ③ 初期の段階で第三者に株式を割当て過ぎてしまう

よくある問題であり、かつ、致命傷となってしまう問題です・・・前提として、株式の持株比率は経営者にとって非常に重要なものです。なぜなら、持株比率によって単独で決定できる内容が変わってきますし、ベンチャー企業においては、持株比率の低下と引き換えに多くの資金を調達したり、ストックオプションを発行することにより重要な人材を採用したりすることが通常であるからです。某漫画では「金は命より重い」という名言がありますが、「株は命より重い」くらい大切に考えておきましょう。

この問題が起きる一番の原因は持株比率についての他社事例や実務感覚が分からないということではないかと思います。また、元上司などの恩人に出資してもらう場合には、心理的に遠慮してしまって、必要以上に株を付与してしまっているようなケースも見受けられます。エンジェル投資の経験が豊富な方であれば適切な割合を提示してくれるケースも多いのですが、ベンチャー企業に対してあまり投資した経験がない方の場合、悪気なく株の割り当てを受け過ぎてしまうこともあるように見受けられます。

資本政策は起業家にとっての生命線であり、基本的には不可逆なものですので、起業の前後において色々な人の意見を聞いた上で決定するのが良いのではないかと思います。もちろん私達も色々な案件を見てきていますので、気軽に相談してもらえればと思います。

 ④ 最初の資金調達の際に条件交渉をしっかりしない

VCや事業会社等から資金調達をする場合、投資についての条件を定めた投資契約や株主間契約の締結を要求されるのが一般的です。また、後述のとおり、最近では優先株式(種類株式)による資金調達もかなり浸透してきています。

投資契約等は基本的に経営者に対し様々な義務を課す内容となっていることから、弁護士にリーガルチェックを依頼するべきなのですが、最初の資金調達の際の投資契約等についてはリーガルチェックなしで資金調達が行なわれている例も少なくありません。これには、最初の資金調達ではそれほど調達金額が大きくないためできるだけコストを低くしたい、人間関係的に弁護士に投資契約等を見てもらうと言い出しにくい、単なる知識不足など様々な要因が考えられるのですが、言ってみれば地雷原を無防備に歩くに等しい行為です。

VCや事業会社等は投資契約書等のひな型を有しているのが通常であり、資金調達の際にはひな型がそのまま提示されることも少なくありませんが、自社としてそれをそのまま受け入れて良いかについては慎重に検討する必要があります。数億単位の調達であれば飲まざるを得ない規定であっても、数千万単位の調達では拒否すべき規定もあります。また、特に表明保証規定については、自社の状況と慎重に照らし合わせた上で受け入れの可否を検討すべきです。

さらに、一般的なベンチャー企業では複数回の資金調達を行うのが一般的であるところ、前のラウンドで負った義務については、次のラウンドでも負わされてしまうのが一般的です。また、一度優先株式で調達してしまうと、その後の調達は基本的に全て優先株式になるのが通常です。ですので、最初に重い義務を受け入れてしまうと、後の株主との関係でも重い義務を負わざるを得なくなる可能性は低くありません。

従って、調達額やその他の状況にかかわらず、一度は投資契約等のリーガルチェックを受けるべきだと思います。

 ⑤ ストックオプションの発行でミスる

潤沢な資金を有していないベンチャー企業にとって、ストックオプションは採用のためのリーサルウェポンと言えます。従業員であっても、ジョインした時期や付与された個数によっては億万長者になれるため、個人的には羨ましい限りです・・・

そんなストックオプションですが、発行の際にミスると大変なことになります。

第一に、役職員に発行する場合には、適格ストックオプションの要件を満たすことは必須くらいに捉えておきましょう!詳細は、佐瀬税理士のブログ(https://www.azx.co.jp/blog/?p=479 )を読んでいただければと思いますが、適格と非適格では、場合によっては数千万単位で税額が変わってしまうこともあるため、この点は最優先で確認しましょう!

第二に、ストックオプションを発行する場合には、長期的な観点にたって、発行する個数を決めましょう。一般的にストックオプションは、上場時において、発行済み株式数の10%に留まっていることが好ましいとされています。かかる数値を超えたからと言って直ちに上場できなくなるわけではありませんが、上場できたとしても、希釈化されるリスクがあるものとして時価には悪影響を与えることとなります。ですので、上場時から逆算して、慎重に誰にいくつのストックオプションを与えるかを検討しましょう。一般的に、COO、CTO、CFOなどの幹部を雇う場合には、ある程度のストックオプションを要求されるケースが多いため、これらのポジションの採用が終わっていない会社では、10%の枠をしっかり残しておきましょう。

ストックオプションについては、その他にも、役職員が辞めた場合に取得できるようにしておくなど、多くの留意事項がありますので、発行前には専門家に相談することをお勧めします。

 ⑥ 議事録類をなくす

当たり前ですが、株主総会議事録や取締役会議事録等の議事録類はきちんと保管しておきましょう。会社法上も保管義務がありますし、IPO審査、M&A、資金調達のデューディリジェンスの際には議事録の写しを提出することが要請されます。

なくす原因としては、登記手続に使用した際に原本還付手続をとっていないせいであることがよく見受けられます。すなわち、登記の際には議事録の原本を提出する必要があるところ、原本還付手続を行っていない場合、そのまま法務局に原本が保管されてしまうことになるのです・・・

内部に登記実務の経験者がいるような場合は登記手続を内製化してしまうのもありですが、そうでなければ弁護士等の専門家に頼んだ方が安全だと思います。

 ⑦ 定款の更新をしていない

会社設立の際には、定款を公証人に認証してもらった上で法務局に提出します。これをやらないと会社が設立できないので、定款が作成されていない会社というのは存在しないのですが、設立後ちゃんと定款が更新されていない会社はよく見受けられます。ちゃんと更新しておかないと資金調達等の際に、いきなり提出を求められて焦ることになりますので、発行株式総数の変更、役員数の変更、任期の変更等、定款を変更した場合には、ワードデータをきちんと更新しておきましょう。

なお、設立を専門家に依頼したような場合において、PDFファイルだけ受け取り、wordファイルをもらっていない会社も散見されます。定款の内容は最新のものにアップデートしておく必要がありますので、きちんとwordファイルをもらっておきましょう!

 ⑧ 商標を取っていない

商標の重要性については林弁護士が書いたブログ(https://www.azx.co.jp/blog/?p=220 )をご参照下さい。商標は非常に重要なものであるにもかかわらず、結構な割合で取っていなかったりします。IPOが近くなった時点で自社のメインサービスの商標が他社に取られていたことが明らかになったりした場合には目も当てられないので、早めに取得を検討しましょう!商標の取得については、AZXの特許事務所でも対応可能です。

 ⑨ 電気通信事業法の届出をしていない

インターネット上におけるサービスを提供している場合、電気通信事業法の届出が必要になる場合があります。かかる届出が必要か否かの判断は「電気通信事業参入マニュアル」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000267716.pdf )に詳しく書いてあるので、自社のサービスが該当しないかは確認しておきましょう!ざっくりとした覚え方としては、一対一でメッセージをやり取りすることができるような機能を持っているサービスは届出が必要になると考えれば大体合ってます。

私の経験上は、多少遅れて提出しても罰則等の適用を受けたことはないので、届出が未了の場合には速やかに提出しておきましょう!

 ⑩ 業務委託をする際に知的財産権が確保できていない

著作権法上、著作権は著作物を創作した著作者に帰属します。あなたの会社が外部のエンジニアにサービスの開発を委託したような場合、かかるエンジニアが作った成果物の著作権はまずエンジニアのものになることになります。従って、自社で権利を確保しておきたいのであれば、必ず契約書に規定を定めておきましょう!どのように定めるかについては、雨宮弁護士のブログ(https://www.azx.co.jp/blog/?p=618 )をご参照下さい。

 ⑪ 労働条件を提示していない

労働基準法上、労働契約の締結に際し、法所定の労働条件を明示する必要があります。これをやらないと罰則の対象となります。雇用契約書を交付することでもオッケーですので、人を雇う時は雇用契約書を作っておきましょう!雇用契約書は当事務所が運営している「契助」(http://www.kei-suke.jp/ )で作成することも可能です。

 ⑫ 三六協定の締結・届出をしていない

三六協定とは労働基準法第36条に定めのある協定で、労使間で締結される協定です(36条に定められているので三六協定と呼びます。)。何の意味があるのかというと、これを結ぶと従業員に残業又は休日労働してもらうことができるのです!え?と思った方もいらっしゃるかと思いますが、実は、労働基準法上の原則は、時間外労働(残業)や休日労働を命じることはできないのです。なぜ普通の会社は残業や休日出勤を命じることができているかというと、それが三六協定の効力なのです。三六協定を労使間で締結し、かつ、それを労基署に届け出ると、晴れて残業や休日労働を命じることができるというわけなので、この手続は忘れないで行っておきましょう!

 ⑬ 就業規則を策定していない

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労基署に届出なければなりません。10人になるまでは、雇用契約だけ締結しておくことでも足りるのですが、10人に到達した時点でかかる義務が発生します。ベンチャーの場合には、資金調達後に一気に人を増やしたことで、あれよあれよという間に10人を超えてしまうことがあります。就業規則は会社ごとの特色が出るものであり、作り始めてから完成までに時間がかかるものですので、社員の数が増えてきたら早めに策定にとりかかりましょう!

 ⑭ 解雇してしまう

従業員がミスをしてしまった場合など、従業員を「クビ」にしたいと思ったことがある経営者の方は多いと思います。でも、ちょっと待って下さい。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められており、常に解雇が認められるわけではありません。しかも、解雇が認められるハードルは日本の裁判実務上はもの凄く高いのです。

そして、裁判で解雇無効が確定した場合、当該従業員を雇用し続ける義務が生ずるだけでなく、従業員が勤務していなかった期間の賃金の支払義務も負うこととなります。従って、従業員を辞めさせたいと思った場合でも、直ちに解雇に踏み切るのは絶対に避けるべきであり、弁護士等の専門家に相談すべきであると言えます。

 ⑮ 種類株主総会決議を忘れる

最近はベンチャー企業への投資手法として優先株式(種類株式)が使用されるケースが非常に多くなってきています。特に億単位の投資案件においては、大半が種類株式での投資であるように見受けられます。種類株式全般の解説については後藤弁護士が書いているブログ(https://www.azx.co.jp/modules/malma/index.php/content0045.html )を読んでもらえればと思うのですが、ここではミスしやすい種類株主総会決議を取り上げます。

種類株式の発行後、一定の場合には特定の種類の株式(A種優先株式、普通株式等)の株主のみで構成される種類株主総会決議が要求されます。これを忘れると会社の行為が無効となるおそれがあります。種類株主総会決議が要求されるのは、①種類株式の内容として拒否権を定めた場合、②会社法上定められている場合があります。①の場合はVC等の投資家と協議の上内容を定めるため、会社も種類株主総会が必要なことを認識しているのですが、②については特に種類株主の内容として定めなくとも必要となってしまうため、気をつける必要があります。②の会社法に定められた場合は本記事の末尾【参考】記載のとおりですので、種類株式を発行している会社の方はチェックしておきましょう!特に重要ポイントは、種類株のファイナンスの際には「株式の種類の追加」「株式の内容の変更」「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」が行なわれるケースが多いため、存在している全ての種類株主総会(普通株式の種類株主総会も含みます。ここ重要です。)が必要となること、株式やストックオプション(新株予約権)を発行する場合において、当該株式又は新株予約権の対象となる株式と同じ種類の種類株主総会が必要となることです。まとめると、特にエクイティを発行する際は種類株主総会に気を付けろと覚えておきましょう!

 ⑯ 取締役会の決議要件を満たしていない

取締役会がある会社においては、一定の事項は取締役会決議が必要になります。取締役会決議の決議要件は、「取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。」と定められております。定足数は議決に加わることができる取締役の「過半数」なので気をつけましょう!時々、半分が参加すれば良いと勘違いされているケースがあります・・・

また、ある決議事項について、特別の利害関係を有する取締役は、審議及び決議に加わることができないので、この点も気を付けて下さい。どんな場合に特別の利害関係を有すると言えるかについては、結構判断が難しい問題なので、危なそうであれば弁護士に相談した方が良いと思います。

【参考】

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<会社法上の種類株主総会事項>

(1) ある種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある次の事項についての決議

① 次に掲げる事項についての定款の変更

イ 株式の種類の追加

ロ 株式の内容の変更

ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

②  株式の併合又は株式の分割

③  第百八十五条に規定する株式無償割当て

④  当該株式会社の株式を引き受ける者の募集

⑤  当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集

⑥  第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て

⑦  合併

⑧  吸収分割

⑨  吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継

⑩  新設分割

⑪  株式交換

⑫  株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得

⑬  株式移転

(2) 全部取得条項付株式の定めを設けるための定款変更決議をする種類株主総会

(3) 募集株式の決定をする種類株主総会、募集株式の決定の委任をする種類株主総会

(4) 募集新株予約権の募集事項の決定をする種類株主総会、募集新株予約権の募集事項の決定の委任

をする種類株主総会

(5) 監査役選任の種類株主総会において監査役を解任する種類株主総会

(6) 組織再編行為の対価として譲渡制限株式を発行する存続会社等の種類株主総会

(7) 譲渡制限株式についての定めを設ける定款変更の決議

(8) 組織再編行為により、譲渡制限株式等を交付する場合における契約・計画を承認する種類株主総会

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執筆者

AZX Professionals Group

いかがだったでしょうか。上記は弁護士である私が思いついたものをざっと列挙しただけですので、ベンチャー企業が失敗する事由は上記以外にも山ほどあると思います。このような状況に陥らないようにするためには、信頼のできる専門家を多く確保しておくことが重要だと思います。AZXには法律事務所以外にも、特許事務所、会計事務所、社会保険労務士事務所もありますので、何かありましたらお気軽にcontactからお問い合わせ下さい!

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