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投資契約(4)ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)

2015/10/01

GK最近のベンチャー業界では、以前より、買収(M&A)の案件が増加してきました。上場して資金力をつけたベンチャー企業が、買い手となってくれるケースも多く、やっと日本でもM&Aが本格的にExitとして意識されるようになってきたのではないかと思います。

M&Aが重視されるにしたがい、ベンチャー投資の領域でも、ExitとしてのM&Aが重視され、投資家側がドラッグ・アロング・ライトを要求するケースが増えてきたため、この点について解説したいと思っています。

ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)とは、対象会社の買収に関して、一定の要件(例えば、優先株主の総議決権の3分の2以上の承認)を満たした場合、他の株主に対して買収に応じるべきことを請求できる権利です。会社の支配権の移転という「買収」を強制する権利であるため、ある意味とても強力な権利です。「強制売却権」「売却請求権」「売渡請求権」などという用語を使用している場合もあります。

 1. 目的と必要性

 ドラッグ・アロング・ライトはM&Aを強制させるという意味で、買収(M&A)という形でのExit機会を確保したい投資家としては持っていた方が有利ではありますが、そもそもこれがどのような場面を想定して、どうして必要なのかという点をよく検討する必要があります。

有利なものは何でも確保しておくという姿勢では、投資契約に関するフェアーな交渉は難しいと思います。特に、ドラッグ・アロング・ライトは起業家側からするとあまりに強烈な権利に見えるため、交渉が難航したり、起業家側がしぶしぶ折れてこれを受け入れても、納得度が低ければ、「やっぱりあのVCは厳しすぎるから避けた方がよいよ」と陰口を言われるようになってしまうリスクがあります。

 ドラッグ・アロング・ライトの主要な目的は以下の2つにあります。

(1)少数株主に買収に応じることを請求できるようにする。

(2)経営陣が買収に応じることを請求できるようにする。

まず、(1)の目的について説明します。

 買収(M&A)には、大きく分けて、①株式譲渡、②株式交換、株式移転、合併等の企業再編行為、③事業譲渡、会社分割等の事業の移転形態があります。

①の株式譲渡については、仮に99%の株主が買収に賛成したとしても、1株を保有している株主が、「自分は絶対に売らない!!」と言い張ると、100%買収は困難となります。もちろん、それがごく一部の株主の問題であれば、買収の前後でスクィーズアウトなどを行うことも考えられますが、さまざまな法的対抗手段をとられる可能性を考えると、買収のスケジュールやコストに大きな影響を与える可能性があります。

②及び③については、原則として株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)で実行可能です。その意味で①株式譲渡よりも少数株主の反対は致命的ではないですが、反対株主の株式買取請求権等の少数株主の保護の制度もあるため、これを発動されると買収のスケジュールやコストに大きな影響を与える可能性があります。

このような事態は、会社の経営陣としても、買収を実行したいと思っている際には、大きな問題となります。 従って、買収(M&A)の際に、少数株主に買収に応じることを強制できるようにしておくことは、投資家のみならず、経営陣にとっても重要なことと言えます。

ドラッグ・アロング・ライトの目的の一つは、このように、少数株主に買収に応じさせること(=少数株主をDragすること)にあります。

 次に、(2)の目的について説明します。

 VC等の投資家は、ベンチャー企業に投資をして、IPO又はM&Aの形で投資した株式を売却することでキャピタルゲインを得ることを目的に投資活動を行っていることから、Exit機会を確保することは最重要課題の一つです。特に、ファンドという形で第三者の資金を預かっており、ファンドの期限があるVCにとっては、この点は極めて重要です。

投資時点では、将来のM&Aの可能性について経営陣と合意をしていたとしても、投資からM&Aまでには数年の期間があるのが通常であり、その後の会社の状況や経営陣の考え方の変化などで、具体的なM&Aの時点で投資家側と経営陣とで意見があわない可能性があります。

このような事態は大きく分けると以下のような二つのケースに分かれます。

①会社が順調に発展している状況において、VCとしてはよいM&Aのオファーがあったのでこれを実行したいが、経営陣としては、会社はもっと大きくなるはずなので、将来のIPOやもっと大型のM&Aを狙いたい。

②会社がうまく行かず、実質的な時価総額も小さくなってしまっており、VCとしてはファンドの満期の関係で株式を売却せざるを得ず、損切り覚悟でもM&Aを実行したいが、経営陣がねばってしまいM&Aに応じてくれない。

このような場合において、経営陣にM&Aに応じてもらうこと(=経営陣をDragすること)がドラッグ・アロング・ライトのもう一つの目的ということになります。

 各ディールにおけるこれらの目的と必要性がどの程度あるかを良く考えて、それにあった設計を考えるのが重要です。

ドラッグ・アロング・ライトの目的を何にするかで、その発動要件の設計も異なってきます。

 2.発動要件

 投資契約においてドラッグ・アロング・ライトを定めることに関し、買収のオファーがあった場合に、どのような要件を満たした場合に、投資家が他の株主に対して買収に応じることを請求できるかという「発動要件」を検討することはとても重要です。これは上記に述べた「目的」によって変わってきます。

 ドラッグ・アロング・ライトの目的が、「(1)少数株主に買収に応じることを請求できるようにする。」ということにあるのであれば、発動要件としては、以下の例のような形で目的を達成することが可能です。

①全株主の総議決権の○%以上の賛成があった場合

②優先株主の総議決権の○%以上の賛成があり、かつ、会社の取締役会で承認された場合

なお、「○%」の部分は、「3分の2」「80%」などとする例が多いです。

これであれば、経営陣にとってもそれほどリスクはなく、むしろ、経営陣としても他の株主がM&Aに応じるべき規定を設けておいた方が安全かもしれません。

 他方で、ドラッグ・アロング・ライトの目的が、「(2)経営陣が買収に応じることを請求できるようにする。」ということにある場合は、上記のような形だと、経営陣が反対すると実行が難しいためワークしないことになります。従って、この場合は、シンプルに「優先株主の総議決権の○%以上の賛成がある場合」という要件が提示されるのが一般的です。

しかし、これだと、経営陣としては、「えーーー!?」「これはVCが会社を売ってしまうということですよね!ひどすぎる!」と考え、「これは絶対に受けられません!」ということになるケースが多いです。

VC等の投資家側としても、「いやいやVCにはファンドの満期があるのです。」「だって、M&Aでも良いって言ったじゃないですか。」と反論するのですが、ゼロか100かの交渉になってしまい、折り合いが難しくなってしまいます。

でも、ここでちょっと立ち止まって、「M&Aがダメという訳ではないけど。。。」と考えている経営陣が、ドラッグ・アロング・ライトに拒絶反応をする理由を考えてみましょう。

経営陣としても確かにM&Aも視野に入れているものの、上記の規定だと、投資家の意向で、自分の望まない時期に、望まない金額で売却を強制されてしまうから嫌なのです。

そうです。「時期」と「金額」の問題なのです!

投資家側のドラッグ・アロング・ライトの目的に照らして、この「時期」と「金額」を発動要件に織り込んでいき、両者の妥協点を検討していくことが考えられます。

 例えば、投資家側としては、上場目標時期までにIPOできなかったらさすがにM&Aに応じて欲しいと考えているなら、例えば、「但し、○年○月○日以降に限り適用される。」という形で、期限を設定することが考えられます。この期限については、上場目標時期だけでなく、ファンドの満期との関係で設定することも考えられます。

これによって「時期」をある程度制約することで妥協点を見つけやすくなります。

 また、経営陣としては、無給に近い形で、24時間365日事業に邁進して、その挙げ句に小さなM&Aを強制されてほとんどキャピタルゲインがないという事態は避けたいと思うのは当然ですが、数億円もキャピタルゲインが生じるM&Aのオファーに対して、経営陣がもっと欲をかいて、投資家がExitの機会を失うのは逆にアンフェアな面もあります。

そこで、「但し、買収で想定される時価総額が○億円以上の場合に限り適用される。」などとして、経営陣としてもそれなりに報われるM&Aの場合には買収に応じてもらう形にすることが考えられます。

 もちろん、上記の時期と金額を組み合わせて、例えば、上場目標期限までは、買収で想定される時価総額が一定額以上の場合に限り適用されるが、ある期限以降はそのような金額制限なく適用されると設計することも可能です。

 このような形で、投資家と起業家が、M&Aの時期や金額について、よく話し合い、適切な形でドラッグ・アロング・ライトの発動要件が設計されることが望まれます。

 3.契約当事者の選択

 ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)を規定する場合には、契約当事者について検討する必要があります。

ドラッグ・アロング・ライトの目的が、「(1)少数株主に買収に応じることを請求できるようにする。」ということにあるのであれば、反対する可能性のある少数株主を全て契約当事者にして拘束しておく必要があります。従って、この場合は、全株主を契約当事者とする必要があります。

新株予約権等の潜在株式の保有者については、契約当事者にしておくケースと、新株予約権等の設計においてM&Aの場合の消滅等を規定しおくことで対応するケースがあります。

株主が多い場合に、全ての株主を「投資契約」の当事者とすると、全株主に投資契約の内容を開示することになってしまう上、投資契約の内容のチェックの負担までかけてしまうのも不合理であるため、ドラッグ・アロング・ライトの規定とみなし清算の規定(この点は次回以降に説明します。)だけを抜き出して、別途、合意書等を作成するケースもあります。

 ドラッグ・アロング・ライトの目的が、「(2)経営陣が買収に応じることを請求できるようにする。」ということにある場合には、買収に応じてもらいたい経営陣のみを契約当事者にすれば良いので投資契約にドラッグ・アロング・ライトの規定を入れれば足りることになります。

ただし、実際には、(2)の目的だけというケースは稀で、(1)のみ、又は(1)&(2)というケースが多いため、上記のように全当事者を契約当事者とするべきケースが多いです。

 4.対価についての注意点

 ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)を発動する場合の対価の分配については、優先株式と普通株式が同じでよいのか、優先株式については、残余財産の優先分配のような優先権をつけるべきかを検討の上、適切に設計する必要があります。これは、必ずしもドラッグ・アロング・ライトの発動に基づく場合のみならず、M&Aのケース全般に関する問題です。

この点は、次回に「みなし清算(優先分配規定)」について解説したいと思います。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 マネージングパートナー CEO
後藤 勝也
Gotoh, Katsunari

いかがでしたか。

ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)については、ここ最近M&Aの増加とともに注目度が上がり、VCを中心に規定を要求する例が増えてきました。

ドラッグ・アロング・ライトは、多額の資金を投資するVCにとって重要度が高い一方で、その提案を受けた起業家側の心理的なインパクトも大きい規定であり、交渉が難航するポイントにもなりがちなので、両者の共通理解を含めるために、今回のブログを書いてみました。

目的に沿った柔軟な設計で投資家と起業家の双方にとってフェアな形の契約が締結されることを願っています。

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