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投資契約(7)株式に関する事項

2016/04/06

GK今回は、投資契約における株式に関する事項について解説します。ベンチャー企業に投資した投資家にとって、株式に関する事項は、自己の持株比率の維持や株式の外部への流出の防止などの観点からとても重要であり、投資契約においても株式に関する事項が規定されるのが一般的です。今回は、この点について解説します。

(1) 新株等の優先引受権

VC等の投資家にとって、自己の持株比率を維持することは、単に議決権という支配権の維持の問題だけではなく、IPOやM&A等のExitにおける対価の何パーセントを確保できるかという点で極めて重要な意味を有しています。自己が有望であるとして発見しサポートしてきたベンチャー企業に対して、投資を実行して支えてきていることから、投資先において追加のファイナンスがあった場合には、自分たちでも追加投資をしたいと考えるケースも多くあります。

そのため、投資契約において、投資先企業が、株式等を発行する場合には、投資家が自己の持株比率を維持する範囲で優先的に引き受けることができる権利を定めるケースが一般的です。

この新株等の優先引受権自体は不合理なものではなく、通常はベンチャー企業側が受け入れても大きなリスクはないと考えられます。

但し、以下の点については留意するべきです。

①一定範囲のストックオプションの発行を除外する。

VC等の資金調達をしてIPOを目指すベンチャー企業にとっては優秀な人材の確保のために段階的にストックオプションを発行していくことが一般的です。投資家の新株等の優先引受権は新株予約権等の潜在株式も対象とするのが通常なので、そのままだとストックオプションの発行もこの対象になってしまう懸念があります。従って、会社が将来発行する予定のストックオプションは適用除外としておくことが重要です。

②権利行使の期限を設定する。

たまに新株等の優先引受権について投資家の権利だけが規定されているシンプルなものがありますが、これだと、投資家が権利行使の可否をなかなか判断しくれないとファイナンスが進まないことになります。従って、新株等の優先引受権の権利行使の期限を明確に定めておくべきです。

(2) 優先買取権/先買権(First Refusal Right)

優先買取権/先買権というのは、ある株主が自己の保有する株式を譲渡しようとする場合に、他の株主がそれを優先的に買い受けることができる権利をいいます。この優先買取権/先買権の主な目的は、①自己の持株比率を高める(=追加投資をする)機会の確保、②発行会社の株式が第三者に流出することを避けることにあります。

これはVC等の投資家が株式を譲渡しようとする場合に、他の投資家である株主が買い受ける場面を規定するものと、経営者が株式を譲渡しようとする場合に、VC等の投資家である株主が買い受ける場面を規定するものがあります。前者については、「他の投資家」だけでなく、「経営者」も優先買取権/先買権を保有するケースも珍しくありません。譲渡を希望する投資家としては、同じ条件で売却できればそれでExitの目的を達成できるので、買受人が経営者であっても、特にリスクが高くなるものでもなく、他方で経営者としては、株式が第三者に渡るより、自己にてなんとか買い取りたいというニーズが高いため、合理的な面があります。

優先買取権/先買権については、一部の買取りは許さず、「全部」の買取りに限定する場合も多くあります。これは、上記目的の②の観点からは、譲渡対象株式を全て買い取らなければ意味がないと考えられること、実際の譲渡に当たり、一部だけ優先的に買い取られてしまうと、残りについて当初の譲受け希望者からすると取得できる株式数が減ってしまい、そうであれば取引を辞退する可能性もあり、そうなると譲渡しようとした株主は、想定していた譲渡対象株式を全て譲渡できなくなってしまうリスクがあることを理由としています。そのため、まずは「全部」について買取りを表明させる形とした上で複数の株主が優先買取権/先買権を行使した場合には、権利を行使した株主間で按分して取得する形とすることが一般的です。この点は、法令による規制ではないので、上記①の目的を重視して、「全部」としない設計ももちろん可能です。

(3) 共同売却権/譲渡参加権(Co-sell Right/Tag Along Right)

共同売却権/譲渡参加権というのは、ある株主が自己の保有する株式を譲渡しようとする場合に、他の株主も自己の保有する株式を共同で売却する(=当該譲渡に売主として参加する)ことを要求する権利をいいます。これは、株主間で株式の売却機会を共有し、抜け駆け的な売却を防止することが主な目的となります。特にマイノリティーの投資家にとっては、投資先会社の株式の大半が、特定の第三者に譲渡されて親会社が変わったのに、自分だけ株主として取り残されてしまいExitの機会を逃してしまうことは、避けなければならず、共同売却権/譲渡参加権は重要なものとなります。一方で、このような権利を定めることは、譲渡を希望する株主からすると、他の共同売却者が現れることで、自己が売却できる株式の数が減るリスクがあります。従って、VC等としては、場合によって有利/不利いずれにも働く可能性があるため、共同売却権/譲渡参加権を定めるか否かは慎重に検討する必要があります。

これについても、VC等の投資家が株式を譲渡しようとする場合に、他の投資家である株主が共同で譲渡に参加する場面を規定するものと、経営者が株式を譲渡しようとする場合に、VC等の投資家である株主が共同で譲渡に参加する場面を規定するものがあります。しかし、優先買取権/先買権の場合と異なり、経営者に共同売却権/譲渡参加権を認めることは一般的ではありません。VC等はファンドの満期もあり、一定の時期までに株式を譲渡する必要があり、それが投資の段階から予定されているため、譲渡の機会を確保する必要性と合理性がありますが、経営者は、会社をきちんと経営し続けていく責任があり、VC等が株式を売却する場合に、自分も売却するというのは必ずしも合理的とは言いがたく、また、VC等にとって共同売却者を増やすことは売却機会を損なうリスクがあるので、経営者には共同売却権/譲渡参加権が認められないのが一般的です。ただ、当初からM&Aを想定しており、経営者と投資家が相互に一緒に株式を売却することを確認しているようなケースでは、まれに経営者にも共同売却権/譲渡参加権が認められているケースがあります。

共同売却権/譲渡参加権の設計にあたっては、権利行使があった場合に各株主が譲渡できる株式数をどう計算するかを明確にすること、譲受け希望者が譲受け株式数を増やした場合の取り扱いを明確にすることなどに留意する必要があります。また、共同売却権/譲渡参加権は優先買取権/先買権とセットで規定されるケースが多く、前者を行使する株主と後者を行使する株主が混在する可能性を考慮して、混乱が生じないように適切に手続を定めることが重要です。

(4) 株式譲渡

投資契約においては、経営者による株式譲渡は、原則として投資家の承認が必要であるなど、一定の制約を受けるのが通常であり、これは投資を受ける以上ある程度やむを得ない面があります。

他方で、VC等の投資家については、株式譲渡の自由が明記されるのが一般的です。特にファンドの場合は、満期までに株式を売却して換金して、ファンドの出資者に分配する必要があることから、株式の譲渡の自由を確保することは重要です。この点に関して、ベンチャー企業側としては、①反社会的勢力等への譲渡や②競合先への譲渡は除外するよう要請するケースもあり、可能であれば、この点は交渉した方が良いと考えます。

(5) ドラッグ・アロング・ライト/強制売約権(Drag Along Right)

ドラッグ・アロング・ライト/強制売約権(Drag Along Right)については、投資契約(4)にて既に解説しているので、そちらをご参照いただければ幸いです。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 マネージングパートナー CEO
後藤 勝也
Gotoh, Katsunari

いかがでしたか。

初めて資金調達をする起業家の皆さんにとっては、なにやら難しい名前のついた投資家の権利が投資契約において定められるような印象があるかもしれませんが、内容と目的をきちんと理解した上で、投資契約の内容を慎重に確認することで、きちんと交渉していくことは可能です。なにか分からないことがあれば、AZXのメンバーにお気軽にご相談ください。

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