AZXブログ

ファンド組成時の留意点

2016/09/01

今回は、ファンド組成手続についてご紹介したいと思います。

「ファンド」に様々な法形式が存在することは池田弁護士のブログでもご紹介したとおりですが、まずは、LPS(投資事業有限責任組合)の形式で有限責任組合員(LP)から出資金を集め、無限責任組合員(GP)がその資金を運用することを想定して検討したいと思います。

以下、LPSを組成するに当たって、特に留意すべきと思われるポイント3点を説明させていただきます。

1. GPの決定

まず、「誰が」ファンドを組成するか、すなわち、誰をGPとするべきか、という点について説明します。この点については、(1)責任の範囲(無限責任か、有限責任か)と、(2)税務上の取扱いが重要となります。

(1) 責任の範囲(無限責任/有限責任)

まず、責任の範囲について説明します。LPSのGPはその名が「無限責任組合員」であるとおり、無限責任を負うことになります。GPが法人の場合は、原則として、責任の範囲がその法人の財産の範囲にとどまり、株主や役職員が無限責任を負うものではありません。

しかし、個人がGPの場合は、その個人自身が無限責任を負うことになります。GPである以上自分でリスクをコントロールできる面はあるので、これだけで極度にリスクが高いものではないのですが、億単位のお金を預かるという点からすると、無限責任は理論上は重たい責任かもしれません。

従って、GPを運営するキャピタリスト個人の責任を実質的に有限責任とするために、GPを法人とするか、又は後述するようなLLPを組成することを検討するケースが多くあります。

(2) 税務上の取扱い

二つ目の視点は、税務上の取扱いです。ファンドのスキームの選択において、税務上の取扱いに関して最も大きな問題として意識されるのが、ファンドでキャピタルゲイン(売却益)が生じた場合の成功報酬の取扱いです。

GPが法人の場合、ファンドにて売却益が生じた場合にキャピタリストにボーナス的な報酬の分配を行うケースがあります。この場合、当該GPの課税関係に関して、キャピタリスト個人が従業員である場合には当該ボーナス分は原則として損金算入できますが、役員の場合は税務上の問題が生じる可能性があります。また、この場合はいずれにしてもキャピタリスト個人が受領する当該ボーナスについては所得税(総合課税)の対象となり、累進課税の方法で定まる税率が適用されます。

このような税務上の処理を背景に、GP(特に実質的に個人のキャピタリストが運営しているGP)において、ファンドで売却益が生じた場合に、キャピタルゲイン課税(申告分離課税により税率約20%)としたいというニーズがあり、これを実現するため、法人を経由せずに、ファンドからダイレクトに収益分配を受ける形とし、かつ、これを「報酬」ではなく、売却益の「分配」であるという形で設計するケースがあります。このような形にする場合は、売却益の受領について法人を経由しないようにするために、原則として、キャピタリスト個人をGPとする必要があります。

ただし、上記のような形とすればキャピタルゲイン課税にできるかという点については、税務当局の正式な見解等が示されているものではなく、ベンチャー業界において事実上行われているというレベルであり、税務上の取扱いについては各自で税務顧問にご相談いただく必要があります。

(3) LLPの活用の可能性

上記のような各メリット・デメリットを踏まえ、最近では、キャピタリスト個人が実質的なファンドの運営者となる場合に、自己の100%子会社等の法人を設立して、当該法人とキャピタリスト個人で有限責任事業組合(LLP)を組成した上、当該LLPが、組成されるLPSのGPとなるというケースも多くなってきています。

このようなスキームは、(i)LLPの組合員は組合債務(LPSのGPとしての無限責任を含む。)に関して有限責任しか負わないことを利用してキャピタリスト個人の有限責任性を形式上担保した上、(ii)LLPは「組合」であり法人格ではないことから、税務上パススルーすることを用いて、キャピタルゲイン課税による税務メリットを享受することを企図するものです。

なお、LLPがGPとなる場合でも、後述の特例業務届出の手続との関係では、LLPを構成するキャピタリスト個人と法人が連名で届出を行う必要があります。また、LPSの登記の関係でLLP自体をGPとして登記できるかという点は、現状では、法務局の取扱いがケースバイケースであり、都度確認する必要があります。

 2. LP候補者の選定

次に、「誰から」出資を受けるか、という点について説明します。以下は、やや複雑ですが、ファンドを組成する場合に誰に声をかけるかについて判断する際には、少なくとも下記の点を押さえておく必要があります。また、我々を含め、弁護士に相談する前に以下の点を押さえておくと非常にスムーズに相談を進めることができると思います。

(1) 適格機関投資家等特例業務の対象となる投資家

(ア) LPの構成と特例業務

池田弁護士のブログでご紹介したとおり、LPSの組成及び運用に当たっては、原則として金融商品取引法(以下「金商法」)に定める第二種金融商品取引業及び投資運用業の登録が必要となります。但し、ファンドの組成及び運用が、金商法に定める「適格機関投資家等特例業務」(以下「特例業務」)に該当する場合には、届出のみ行えばよく、格段に手続の負担が軽くなります。そのため、LP候補者の選定も、この特例業務の要件を満たすように留意しながら行うのが一般的です。

大要、特例業務に該当するには、LPの構成が以下の要件を満たすものでなければなりません(但し脚注も参照。)。

① LPの中に1名以上の適格機関投資家が存在すること

② 適格機関投資家以外のLPが49名以下であること

③ 適格機関投資家以外のLPが一定の資格要件を満たすこと

上記の「適格機関投資家」というのは、投資や運用の「プロ」と考えて頂ければ良いです。例えば、図表1に記載の者がこれに該当します(あくまでも図表1は例示ですのでご了承ください。)。要は、①②は、LPとして出資を行う人の中にプロが1名以上存在し、アマ(以下「一般投資家」と表現します。)は49名以内でなければならないということを意味します。

なお、従前は、③に相当する要件(一般投資家の資格要件)は設けられていませんでした。ところが、平成28年3月1日施行の金商法等の改正により、③の要件が設けられた結果、特例業務としてLPSを組成・運用することのハードルが増えてしまいました。この要件については項目を変えて(イ)以下で説明します。[i]

  <図表1>:適格機関投資家の代表例

  1. 証券会社、投資運用業者、銀行、保険会社、信用金庫
  2. 投資事業有限責任組合
  3. 金融庁長官に適格機関投資家の届出を行った個人又は法人

 (イ) 一般投資家の資格要件 その1(原則)

法改正以後、投資判断能力を有する一定の投資家や、GPと密接に関連する者でなければ一般投資家(出資者)となることができなくなりました。かかる一般投資家の代表例は概ね下記図表2のとおりです。

  <図表2>:一般投資家の範囲に含まれる者の代表例(非ベンチャーファンド)

  1. 上場会社
  2. 金融商品取引業者等、特例業務の届出者
  3. 特例業務の届出者の役員、使用人、親会社、子会社その他の密接関係者
  4. 資本金又は純資産の額が5千万円以上の法人
  5. 個人(保有する投資性金融資産が1億円以上、証券口座開設後1年経過)
  6. 組合、匿名組合、有限責任事業組合又は外国の組合等の業務執行組合員等である個人(業務執行組合員等として保有する投資性金融資産が1億円以上)
  7. 法人(保有する投資性金融資産が1億円以上)
  8. 組合、匿名組合、有限責任事業組合又は外国の組合等の業務執行組合員等である法人(業務執行組合員等として保有する投資性金融資産が1億円以上)
  9. 金融商品取引業者等(法人)、上場会社、法人(資本金又は純資産の額が5千万円以上)の子会社等又は関連会社等

(ウ) 一般投資家の資格要件 その2(ベンチャーファンドの場合)

上記(イ)に加え、組成予定のファンドが、一定の要件(=後述(a)の要件)を備えた「ベンチャーファンド」に該当する場合には、上記の一般投資家の資格要件が少しだけ緩やかになります。具体的には、図表2の者に加え、以下の図表3に該当する者等もLPになることができます。

逆にいえば、LP候補者が下記図表3に含まれている場合には、ベンチャーファンドを組成する必要があることになります。

ベンチャーファンドに該当すると、下記図表3の者等をLPとすることができるだけでなく、GPに課される行為規制の一部が緩やかになる等のメリットもありますが、一定の実務的負担や制約を伴うことに留意が必要です。

すなわち、(a)ベンチャーファンドに該当するためには、①非上場会社の株式等への投資が80%以上であること、②原則として資金の借入れや保証を行わないこと、③原則として持分の払戻しを行わないこと、④契約に所定の事項が定められていること、⑤上記①から④までの要件に該当する旨を記載した書面をLPに交付していることの要件を満たす必要があります。その上、ベンチャーファンドを組成する場合には、(b)特例業務届出から原則として3カ月以内に財務局にLPSの契約書の写しを提出する必要があります。

そのため、これらの点も踏まえて、組成予定のファンドをベンチャーファンドとするか否かを決定する必要があります。

  <図表3>:ベンチャーファンドの場合に追加的に投資家となれる者の代表例

  1. 上場会社又は法人(資本金又は純資産の額が5千万以上、かつ有価証券報告書提出)の役員
  2. 上記図表2第8項の法人の役員
  3. 過去5年以内に、上記第1項又は第2項に該当していた者
  4. 過去5年以内に、図表2第9項の法人の役員
  5. 過去5年以内に提出された上場時の有価証券届出書において、上位50名の株主として記載されている者
  6. 過去5年以内に提出された有価証券届出書又は有価証券報告書において、上位10名の株主として記載されている者

(2) 締結前交付書面・締結時交付書面の相手方

(ア) LPの構成と「特定投資家」

上記(1)で述べた一般投資家の資格要件の点に加え、LP候補者選定にあたって覚えて頂きたいのが、「特定投資家」という用語です。「適格機関投資家」という用語と非常に紛らわしいのですが、この「特定投資家」も、金商法上、金融商品取引の「プロ」として扱われている者を意味します。

近時の法改正により、適格機関投資家等特例業務としてファンドを組成・運用するGPに対する行為規制が追加され、このような行為規制の一つが、「特定投資家」に該当しないLPへの締結前交付書面・締結時交付書面の交付です。要は、「プロ」に該当しない「アマ」に対しては、当該取引のリスクも含めた情報提供をきちんと行う必要があるということです。

そのため、「特定投資家」に該当しない者がLPに含まれる場合には、締結前交付書面及び締結時交付書面の作成が必要となってしまい、ファンドの組成に関してまた一つ作業が増えてしまうことになるのです。

(イ) 特定投資家の範囲

特定投資家の代表的な例としては以下の図表4の者があります。

図表4によれば、上場会社や資本金5億円以上の会社などは、「特定投資家」に該当することとなります。なお、「適格機関投資家」に含まれる銀行や保険会社、投資事業有限責任組合などは、「特定投資家」にも該当します。

そのため、これらの者のみをLPとする場合には、締結前交付書面及び締結時交付書面の作成は不要となり、逆に下記のような特定投資家以外の者がLP候補者に含まれている場合には、原則として、締結前交付書面及び締結時交付書面を用意する必要があります。

 <図表4>:特定投資家の代表例

  1. 適格機関投資家
  2. 上場会社
  3. 資本金の額が5億円以上であると見込まれる株式会社
  4. 金融商品取引業者(法人)、特例業務の届出者(法人)
  5. 外国法人

(ウ) 「プロ成り」

上記に関連して、特定投資家に該当しない者(アマ)が、法令上の手続(「プロ成り」)を踏めば「特定投資家」(プロ)とみなされる旨の例外ルールがあることに留意が必要です。すなわち、上記(イ)に該当しない者がLP候補者の中に存在する場合でも、その者がかかるプロ成りの手続を踏めば、その者との関係では締結前交付書面及び締結時交付書面の交付は不要となるのです。

具体的には、プロ成りを希望する者が法人である場合においては、GPに対する申出に対し、法令上の記載事項を満たす書面にて当該法人から同意を取得すれば良く、手続の負担はそれほど重くありません。

他方、プロ成りを希望する者が個人の場合、一定の要件を満たす個人でなければプロ成りを行うことができず、当該要件を満たすことは非常に困難であることから、一般論としては、ファンドの組成に当たって個人がプロ成りを行えるケースは多くありません。

以上を踏まえると、LP候補者に特定投資家でない者(アマ)が含まれる場合、①当該アマが個人である場合には、締結前交付書面及び締結時交付書面の交付は多くのケースで必要的ですが、②当該アマが法人のみの場合、プロ成りの可能性が無いかを検討する余地がありそうです。

(3) 小括

以上のように、法改正による一般投資家の資格要件や行為規制の追加に伴い、LPの属性によって必要な手続や書面、それらの内容が異なってしまいます。LP候補者選定の場合には上記の点にご留意ください。

3. 適格機関投資家等特例業務の届出手続

ファンドの組成・運用について届出が必要であることについては上記でも述べましたが、最後に、以下で、その届出手続について具体的に説明したいと思います。

(1) 届出のタイミング

法律の条文上は、特例業務(ファンド持分の募集・運用)を行う者は、「あらかじめ」届出を行う必要があると定められており、募集(私募)に先だった届出が必要です。

但し、ここでの「募集」の意義については解釈の余地があり、特例業務届出を行うタイミングについて、金融庁が平成19年に開示したパブリックコメントでは、「…集団投資スキーム持分の『自己募集(私募)』に係る適格機関投資家等特例業務の特例の届出についても、基本的に、投資家が最初に当該持分を取得するまでの間に行うことが求められるものと考えられます。ただし、実務的には投資家に取得勧誘を開始するときまでに届出を行うことが現実的であろうと考えられます。…いずれにせよ、具体的な届出期限については、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられます。」と記載されています(該当箇所を抜粋しています。)。

以上のような見解を踏まえると、必ずしもLP候補者に勧誘を行うタイミングで届出を行わなくても違法といえない可能性もありますが、そのようなタイミングで早めに届出を行っておく方が望ましい対応と考えます。

(2) 届出に際して用意すべき書類

近時の法改正により、特例業務の届出の際に提出すべき資料が大幅に増えてしまいました。届出書や添付書類の具体的な書式や記載例は金融庁や財務局のホームページにて開示されており、これに従って各書類を用意することになります。[ii]

ご参考までに、日本に所在する株式会社が特例業務届出を行う場合を想定して、必要書類をまとめましたので、図表5をご参照ください。個人が届出を行う場合(個人がLLPを組成して連名で届出を行う場合を含みます。)や外国法人が届出を行う場合については、用意する書類が異なりますのでご注意ください。

なお、届出書の記載内容や添付書類については、届出を正式に行う前に財務局や財務事務所で事前にチェックしてもらうことも可能であり、そのような対応を行った方がスムーズに手続きを進めることができます。

 <図表5>[iii]

  必要書類 備  考
  法人登記簿謄本[iv]
  定款
  届出法人の誓約書 フォーマット及び記載例は、財務局等のHP(脚注[ii])に開示されています。
  役員・重要な使用人[v]の履歴書 フォーマット及び記載例は、財務局等のHPに開示されています。職歴欄に空白期間が生じないようにすることや、署名欄を(印刷ではなく)自署すること等の指定があり、当局から指摘を受けやすいので注意が必要です。
  役員・重要な使用人の住民票抄本[vi] 住所地の市区町村役場にて、マイナンバーの記載のないものを取得する必要があります。
  役員・重要な使用人の「登記されていないことの証明書」 成年被後見人や被保佐人等でないことを証明する公的書類です。各地方法務局本局又は東京法務局後見登録課にて取得することができます。
  役員・重要な使用人の「身分証明書」 破産手続開始決定等を受けていないことを証明する公的書類です。本籍地の地区町村役場で取得することができます。
  役員・重要な使用人の誓約書 フォーマット及び記載例は、財務局等のHPに開示されています。署名欄や住所の記載を自署する必要がある点に留意が必要です。

(3) 届出後の対応

特例業務の届出を行った後の対応として、法定の書類を全ての営業所に備え置くか、インターネットで公表するかしなければならない点に留意が必要です。なお、当該書類の記載事項は、特例業務の届出書の記載事項とほぼ重なりますので、作成に手間のかかる書類ではありません。

いかがでしたか。ファンド組成時の規制はかなり複雑なため、紙面の関係で大雑把な説明となりましたが、ざっくりとしたイメージだけでも掴んでいただければ大変幸いです。なお、組合契約に関する解説は次回以降に行います。

♦ 脚注

[i] なお、本文記載の①②③の要件を満たす場合でも「投資者の保護に支障を生ずるおそれのある」場合には特例業務の要件に該当しません。具体的には、(i) 適格機関投資家の全てが出資総額5億円未満のLPSである場合や、(ii) 特例業務の密接関係者(図表2第3項)やベンチャーファンド特例対象出資者(図表3記載の者)の出資額が出資総額の50%以上である場合には、特例業務の要件を満たしません。

[ii]<参考> 関東財務局HP(http://kantou.mof.go.jp/kinyuu/kinshotorihou/tokurei.htm

[iii]図表5記載の書類に加え、①『出資総額』及び『「届出者と密接な関係を有する者」及び「投資に関する事項について知識及び経験を有する者」』の出資額を証する書面を提出することも必要ですが、こちらはクロージング後(出資総額が把握できた後)遅滞なく提出することになると思われます。また、②適格機関投資家が投資事業有限責任組合のみである場合には、「当該適格機関投資家の運用財産額」及び「当該適格機関投資家の借入金の額」を証する書面も提出する必要があります。

[iv]他のLPS(投資事業有限責任組合)が組成予定のファンドのLPとなる場合、当該LPの登記事項証明書も必要になります。

[v]  「重要な使用人」には、例えば、ファンドマネージャーのような、運用を行う部門を統括する者が含まれます。

[vi]図表5記載の書類のうち、役員の方の国籍や居住地が海外であるケースでは、住民票、登記されていないことの証明書、又は身分証明書(あるいはそれらに相当する書類)を用意できない可能性があります。その場合、当該国籍国の公証役場又は大使館等で、宣誓供述書を作成する必要があります。

そのほかの執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー Founder
林 賢治
Hayashi, Kenji
AZX Professionals Group
弁護士 アソシエイト
小澤 雄輔
Ozawa, Yusuke
執筆者一覧