お久しぶりです。AZXの弁護士の渡部です。
今年も、地球の海フォトコンテストに、ダイビングなどで撮影した写真を応募したところ、見事入選を果たすことができました(今年は、ビーチ部門とビギナー部門の二部門での入選でした)!ただ、入賞まではなかなか至らず、まだまだ腕を磨いていかなければいけないと思う今日この頃です。
ダイビングの醍醐味の一つして、無重力で宙を浮いているような浮遊感を味わえるという点が挙げられますが、いつかは宇宙で本当の無重力を体験してみたいと思っております。宇宙にはまだまだ解明されていない事象もたくさんあり、人のロマンが詰め込まれているように思います。
そんな宇宙に関する法律が2016年11月に制定されたため、今日は、制定された宇宙に関する法律の概観についてお話をしたいと思います。
今回制定された法律は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(以下「人工衛星法」といいます。)と「衛生リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」(以下「リモートセンシング法」といいます。)になります。
ざっくりいうと、人工衛星法は人工衛星の打上げに関する規制や責任について定める法律であり、リモートセンシング法はリモートセンシング記録の適正な取扱いを確保するための規制を定める法律になりますが、今回は、このうちの人工衛星法の概観についてお話をいたします。
人工衛星法の大きなポイントとしては、①人工衛星等の打上げに係る許可制度が制定されたこと、②人工衛星の管理に係る許可制度が制定されたこと及び③ロケットや人工衛星が落下等した場合の損害についての第三者賠償制度について制定されたことが挙げられます。
以下、人工衛星法が制定された背景及び基本的な事項を概観した上で、これらの3つの点についてどのような条項が規定されているのかを見ていきたいと思います。
目次
1 人工衛星法が制定された背景その他基本的な事項
(1)背景
昨今、アメリカにおけるSpaceX社によるロケットの打上げをはじめとして、民間の事業者による宇宙ビジネスが拡大しております。このような宇宙ビジネスに関するルールについて日本は、宇宙条約や宇宙損害責任条約等の国レベルでの取決め(宇宙関連諸条約)については締結していたものの、一般の民間事業者が宇宙活動を行うための規制法は制定されていない状況にありました。
今回制定された人工衛星法は、上記のような状況下で、民間事業者による宇宙活動について宇宙関連諸条約を担保するための国内法として制定されたものになります。
同法が制定されたことによって民間事業者による宇宙活動のルールが明確化されたことで、日本における民間事業者による宇宙活動の進展が期待されます。
(2)その他基本的な事項
今回人工衛星法でルールが明確化されたのは、「人工衛星等」の打上げ等に関するルールになります。
「人工衛星」とは、「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体をいう。」(人工衛星法第2条第2号)とされ、「人工衛星等」とは、「人工衛星及びその打上げ用ロケットをいう。」(同第3号)とされており、人工衛星法が打ち上げを想定しているのは、地球の周りに配置されるいわゆる人工衛星と、当該衛星を打ち上げるためのロケットであるといえます。
このような「人工衛星等」の定義から、今回の法制定によりまずは人工衛星の打上げに関する民間事業者の活動の活性化が期待される一方で、日本国内において人を乗せたロケットを打ち上げることはまだ想定されていないことが伺えます。
個人的には、人工衛星等の打上げに関する日本国内での活動が活発化し、人を乗せたロケとの打上げに関する法整備が早く進むことを期待したいところです。
2 ①人工衛星等の打上げに係る許可制度
国内に所在する打上げ施設、日本国籍を有する船舶や航空機に搭載された打上施設を用いて人工衛星等を打ち上げる場合には、その都度許可を受けなければならないとされています(同4条)。
そして、その許可の基準としては、人工衛星の打上げ用のロケットの設計が、ロケット安全基準を満たしていること及び打上げ施設が施設の安全基準(「型式別施設安全基準」と定義されています。)を満たしていることが必要とされています(同第6条第1号及び第2号)。
ロケット安全基準と型式別施設安全基準の内容は細かいので割愛しますが、これらの安全基準を満たすことについて都度確認を受けなくてもよい方法として、ロケットについて「型式認定」という制度(同第13条第1項)が、打上げ施設について適合認定制度(同第16条)が設けられています。そのため、現実には、打上げの都度安全基準の審査を受けるのではなく、型式認定を受けたロケットを、適合認定を受けた打上げ施設から打ち上げるという前提で打上げを申請するという運用となることが予想されます。
また、打上げ実施者は、「損害賠償担保措置」を講じていなければ人工衛星等の打上げを行ってはならないとされています(同法第9条第1項)。ここでいう「損害賠償担保措置」とは、後述するロケット落下等損害に関する保険会社とのロケット落下等損害賠償責任保険契約及び政府とのロケット落下等損害賠償補償契約の締結か、被害者保護の観点から適切とされる金額の供託を意味します(同第2項)。
3 ②人工衛星の管理に係る許可制度
人工衛星については、打上げの他に、打ち上げられた人工衛星を管理(人工衛星の位置、姿勢及び状態を把握し、これらを制御することを意味します(同2条第7号)。)する者も、管理する人工衛星ごとに許可を受けなければならないとされています(同第20条)。
人工衛星の管理の許可についても、上記のロケットや打上げ施設に関する許可と同様に許可基準が定められています(同第22条)が、ロケットの型式認定や打上げ施設の適合認定のような、事前の認定制度がないため、管理する人工衛星毎に都度許可基準に適合しているかの審査を受ける必要があることになります。
人工衛星を管理するための許可基準の内容は細かいため詳細は割愛しますが、大要、人工衛星の管理者は管理する人工衛星について他人に迷惑をかけない計画を立てて、当該計画を実施する能力がある者が許可を受けられることとされています(同法第22条)。
4 ③ロケットや人工衛星が落下等した場合の損害についての第三者損害賠償制度
人工衛星法では、ロケット落下等損害や人工衛星落下等損害について、賠償責任を負う者を限定し、これらの損害について責任を負う者を集中させることとしています。ロケット落下等損害及び人工衛星落下等損害の意味は、大要以下の通りです。
「ロケット落下等損害」:人工衛星の打上げ用のロケットの落下、衝突又は爆発によって生じた、人の生命、身体又は財産に対する損害の全て。ロケットが打ち上げられた後人工衛星が分離されるまでの間は、人工衛星もロケットの一部として把握されます。
「人工衛星落下等損害」:ロケットから分離された人工衛星の落下、衝突又は爆発によって生じた、人の生命、身体又は財産に対する損害の全て。
各損害の責任の所在は、以下の通りです。
(1) ロケット落下等損害の賠償責任
ロケット落下等損害は、人工衛星等の打上げを行う者の無過失責任とされ(同法第35条)、人工衛星等の打上げを行う者以外の者は、ロケット落下等損害について賠償する責任を負わないことが明確に規定されています(同法第36条第1項)。また、ロケット落下等損害については製造物責任法の適用がないとされていることから(同第2項)、仮にロケットの部品の欠陥に起因してロケット落下等損害が生じたとしても、当該部品を製造等した事業者には責任が直接には及ばないこととされています。これらの規定により、ロケット落下等損害は、一次的には人工衛星等の打上げを行った者が全て責任を負うことになります。
法律上、誰が責任を負うかを明確に規定する例は多くありますが、人工衛星法のように、責任を負わない者の範囲を明確に規定する例は多くはなく、ロケット落下等損害の責任を人工衛星の打上げを行った者に集中させるという立法者の意図が強く感じられます。
ロケット落下等の損害賠償責任を負う人工衛星等の打上げを行う者は、他にその損害の発生の原因について責任を負うべきものがある場合には求償を請求することができるとされていますが(同法第28条第1項本文)、人工衛星等の打ち上げの用に供された資材その他の物品又は役務の提供をした者がかかる他に責任を負うべき者である場合には、その従業者の「故意」がある場合でない限り求償できないこととされており(同ただし書)、人工衛星等の打上げを行う者以外の者の責任が極めて限定されていることがわかります。
このように、ロケット落下等損害の賠償責任は人工衛星等の打上げを行う者に集中させること、及びこれによってその他の人工衛星等の打上げに関与する者の責任を軽減することが法律上明記されています。私見にはなりますが、このように宇宙活動に関する基準を明確にし、事業リスクを軽減することで人工衛星等の打ち上げに関与する者のハードルを下げるという狙いがあるものと考えられます。
人工衛星等の打上げを行う者の負担については、後述する保険契約や補償契約によってカバーされることが想定されています。
(2) 人工衛星落下等損害の賠償責任
一方で、人工衛星落下等損害については、人工衛星の管理を行う者が、人工衛星の管理に伴い人工衛星落下等損害を与えたときには、その損害を賠償する旨が規定されている(同法第53条)のみになります。
人工衛星落下等損害については、ロケット落下等損害の賠償責任のような損害賠償責任の集中に関する規定はなく、製造物責任法の適用排除の規定の適用も明記されているものではありませんが、「人工衛星の管理に伴い」生じた損害は全て当該管理者が負うこととされているため、私見としては、ロケットの打上げから人工衛星の分離までの間に生じた損害は人工衛星等の打上げを行う者が全て無過失責任を負い、人工衛星がロケットから分離された後に生じた人工衛星に起因する損害については人工衛星の管理を行う者が全て無過失責任を負うという線引きがなされているものと考えられます。
(3)保険及び補償
上記のような損害賠償責任の規定の他に、人工衛星法上は、人工衛星等の打上げ者及び被害者の救済措置として、保険金に関する規定と補償に関する規定を定めています。この保険及び補償に関する規定の対象となるのは、ロケット落下等損害についてであり、人工衛星落下等損害については定められていません。
保険金については、人工衛星法上、「ロケット落下等損害賠償責任保険契約」が定義されており、ロケット落下等損害(テロ等の一定の原因によって発生した損害(「特定ロケット落下等損害」と定義されています。)は除かれています。)について保険会社による保険が付されることが想定されています。ロケット落下等損害の被害者は、当該保険契約の保険金について他の債権者に先だって弁済を受ける権利を有するとされており(同法第39条第1項)、また、当該保険契約の保険金請求権については、譲渡、担保設定及び差押えが禁止されており、被害者が当該保険金によって救済されるような制度となっています。
また、ロケット落下等損害賠償責任保険契約の対象とならない特定ロケット落下等損害や、当該保険その他のロケット落下等損害を賠償するための措置では埋めることができないロケット落下等損害を賠償することによって生じる損失について、政府が補償するという内容のロケット落下等損害賠償補償契約の締結が想定されており、民間の保険等では埋められない損害を政府が補償することによって、打上げ実施者を救済することが想定されているといえます。
以上のように、ロケットや人工衛星に関係して生じた損害について責任を集中させることで民間の事業者が宇宙ビジネスに関わりやすくするとともに、人工衛星等の落下等に起因して生じた損害について一定範囲では保険金について被害者の優先権を定めたり、国から補償をすることとして人工衛星等の打上げを行う者の負担を軽減し、かつ被害者が救済されやすくすることで、全体として宇宙ビジネスが活性化することを後押しする内容になっていることが感じられます。
弁護士 パートナー
いかがでしたか。最近では、地球からわずか39光年離れた銀河系内に、地球に似た7つの惑星を持つ恒星系を発見したとの論文が発表される等、宇宙に関するホットなニュースも増えている印象です。今回の宇宙に関係する法律の制定をきっかけに、日本における宇宙関連事業の発展が益々進むことを期待しております!AZXでは、様々な業種のベンチャー企業をサポートしてきた実績と経験をもとに、企業の成長を支援させていただいておりますので、お気軽にご連絡下さい!