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緊急事態における株主総会対応

ご無沙汰してます。弁護士の石田です。昨年からパートナーになりました。パートナーとなった以上、これまで以上に品質管理と営業活動が重要になってきますが、その前提として体調管理も重要になってくると考えています。体調管理の一環として、数年内にはマラソン出場&完走をしたいと思っており、まずはその第一歩として昨年はハーフマラソンに出場し、完走しました。マラソンやハーフマラソンをされている方がいらっしゃれば是非ご一緒しましょう!

最近、新型コロナウイルス感染症の流行により、当初の予定通り株主総会を開催すべきか、開催する場合にどのような点に留意すべきか、という問い合わせが増えています。そのため、今回は、新型コロナウイルス感染症の流行を含めた緊急事態における株主総会の開催、運用について解説いたします。とりわけ、①株主総会の開催時期の変更、②株主総会のオンライン化を検討する必要性が高いと考えられるため、本ブログではこれらを中心に記載いたします。

株主総会の開催時期の変更

1. 問題の所在

株主総会には、大別して、臨時株主総会と定時株主総会があります。臨時株主総会の場合、文字通り「臨時」の株主総会であるため、必要性が高くなければ延期することが可能であり、逆に必要性が高ければ開催せざるを得ないといえます。一方で、定時株主総会は、通常は一定の時期に開催されるものであるため、専ら開催時期が問題となるのは定時株主総会です。そのため、開催時期との関係では定時株主総会を念頭に置いて以下記載いたします。

日本では、定款上、定時株主総会を事業年度末日から3ヶ月以内に開催すると定められることが一般的であり、実務上も決算日後3ヶ月目の月に定時株主総会を開催することが多いです。多くの上場会社は3月末決算の会社、すなわち3月末日を事業年度末日としているため、このような会社の場合には事業年度末日の3ヶ月目の月である6月に定時株主総会の開催が集中する傾向にあります。

2. 会社法との関係

会社法上、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」とされていますが(会社法第296条第1項)、事業年度末日から3ヶ月以内に開催することまでは会社法は要求していません。現に、法務省も「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる」という見解を示しています。((法務省「定時株主総会の開催について」))

3. 延期する上での留意点

前述のとおり定時株主総会の開催を延期することは法的に可能ですが((株主総会の会場選定、確保等の問題もあるので、延期自体が現実的でない場合も一定程度あるものと考えます。))、以下のとおり、議決権及び剰余金配当請求権の基準日との関係には留意する必要があります。((厳密に言えば、定時株主総会を事業年度末日から3ヶ月以内に開催する旨の定めが定款にある場合には、この定めに違反しないかが問題となりますが、「通常,天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではない」という法務省の見解があるため(法務省平成23年3月29日「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて」)、定款違反にはならないと解することが可能であると考えます。))

実務上、定時株主総会の議決権及び剰余金配当請求権の基準日を事業年度末日に合わせる慣行があり、定款にその旨定められることが一般的です。会社法上、基準日の効力が3ヶ月を超えることはできないため(会社法第124条第2項括弧書)、上記のように議決権等の基準日を事業年度末日に設定している場合、定時株主総会の開催日を事業年度末日から3ヶ月後以降に延期するには基準日を別途定める必要があります。基準日を定める場合には以下のいずれかの方法を採ることが必要となります(会社法第124条第3項)。

(i)基準日の2週間前までに公告する
(ii)株主総会決議により定款変更を行い、基準日を定める

上記(i)の公告を行う場合、公告の申込みや掲載に時間とコストがかかるため、可能であれば、上記(ii)の定款変更により公告を省略する方がよく、現にスタートアップではこの方法が採用されるケースが多いです。もっとも、上場会社や株主が多数存在するスタートアップの場合、定款変更のために株主総会を開催することが現実的でない、又は容易でないこともあり、その場合には上記(i)の方法を採用することになります。なお、上場会社が上記(i)の公告を行う場合には、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に対する通知や証券取引所が定める適時開示等が必要となる可能性があるため、その要否についても検討した方が良いと考えます。

このように定時株主総会を延期する場合には、基準日の設定について留意する必要があります。

株主総会のオンライン化

1. 問題の所在

緊急事態における対応として、そもそも株主総会の開催を避けたい場合には、株主の全員の同意を得ることを条件に「株主総会の決議があったものとみなす」ことが可能です(会社法第319条第1項。いわゆる書面決議)。しかし、上場会社や株主の多い会社の場合には株主全員の同意を取得することは現実的でなく、また、定時株主総会においては取締役等の生の声を聴きたいという株主の要望に応えるといった要請もあり、現実に開催することを選択することも多いと考えます。したがって、以下では株主総会を現実に開催する場合において、どのような対応を取ることができるかという観点から解説いたします。

上記の株主総会の延期に代えて、又は延期と共に、株主にインターネット等の手段を用いて株主総会に参加又は出席してもらうことが考えられます。なお、こちらについては、経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が参考になります。

2. 株主総会の類型

株主総会は、株主の参加、出席の態様の観点から、以下のとおり分類されます。

前提として、①リアル株主総会は通常の株主総会であるため、緊急事態においては、オンライン化された②ハイブリット型バーチャル株主総会、③バーチャルオンリー型株主総会を検討することになります。このうち、③バーチャルオンリー型株主総会については会社法の解釈上難しいとされているため((衆議院において、「実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」という見解が示されています(第197回国会 法務委員会 第2号(平成30年11月13日))。))、以下では、②ハイブリット型バーチャル株主総会について記載します。

②ハイブリット型バーチャル株主総会には、参加型と出席型が存在します。前者の参加型は株主として出席するのではなく、あくまでも傍聴するものであるのに対し、後者の出席型は株主として出席している点が異なります。具体的には、前者は、議決権行使のほか、会社法上株主に認められている質問(会社法第314条)や動議(同法304条)を行うことはできませんが、後者は、株主として出席する形になるので、審議に参加し、上記の株主としての権利を行使できます。

3.  ②ハイブリット型バーチャル株主総会の出席型を採用する上での留意点

(1)インターネット投票について

株主総会の開催場所に在所しない株主がインターネットを使用して株主総会に参加し、議決権を行使することは可能ですが、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境」にあることが必要であると解されています(相澤哲ほか「論点解説 新・会社法―千問の道標」472頁)。したがって、会社としては、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境」を用意するため、通信障害が起こらないよう通信設備を整えるなどの対応を前もって行う必要があります。

(2)本人確認について

株主として議決権を行使させる場合、株主本人又はその代理人によって権利行使されることが重要になるため、本人確認を行う必要性が高いと考えます。具体的には、各株主に個別のIDとパスワードを配布する方法が考えられます。

その他の留意点

会社法上、上記のインターネット投票のほか、株主自身が株主総会に出席することなく、書面(=議決権行使書)にて議決権を行使できる制度があるため(会社法第298条第1項第3号)、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、議決権行使書による議決権行使をするよう誘導することが考えられます。また、新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)の発生を防止するため、「3密」(密閉、密集及び密接)を可能な限り避ける観点で、株主総会の開催場所において、換気を良くする、座席の間隔を空ける、開催時間の短縮化を図るなどの措置が有効になるものと考えます。

上記以外に経済産業省が「株主総会運営に係るQ&A」を公表しているので、こちらもご参照下さい。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
石田 学
Ishida, Gaku

新型コロナウイルス感染症はいつ収束するか見通しが立たず、皆さん不安になっている部分はあると思いますが、感染拡大防止のため、各人が目の前のできることから対応していくことが重要だと考えています。完全に収束するまで長い闘いにはなると思いますが、一丸となって乗り越えましょう。AZXとしても可能な限りスタートアップ、起業家をサポートして頂きたいと考えておりますので、お困りのことがあればご連絡頂ければ幸いです。なお、AZXでは相対でのご相談だけでなく、オンラインでのご相談も対応可能です。

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