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【後編】「会社法」改正の概要(2021年3月施行予定)

弁護士の林です。

会社法改正(2019年成立、2021年3月施行予定)の解説の後半になります(前半の記事はこちら)。

改正の全体像を再掲します。今回は下記の3以下の解説となります。

 1.株主総会の規律
 1-1 株主総会資料の電子提供制度 株主総会参考資料等をウェブサイト掲載により提供できる 主に上場
 1-2 株主提案権の濫用制限 株主が株主総会招集通知に記載請求できる議案数を10までに制限 主に上場
 2.取締役の規律
 2-1 取締役の報酬関係
 (1)   報酬決定方針の開示 個人別の報酬を株主総会で決定しない場合、取締役会で決定方針を定め開示しなければならない 主に上場
 (2)   株主総会の報酬決議 株式及び新株予約権による報酬について、株主総会の報酬決議として決定すべき付与上限数等の事項が明確化/金銭報酬にも相当性の説明義務  
 (3)   報酬としての株式、新株予約権の特則 上場会社の取締役に対する報酬としての株式の発行価額、新株予約権の行使価額をゼロにできる 上場のみ
 (4)   事業報告記載充実 取締役の報酬に関する記載充実 主に上場
 2-2 役員責任の補償等の規律整備
 (1)   会社補償の規律整備 責任追及の訴えにおける費用や賠償金を会社が補償することについてのルールを明文化  
 (2)   賠償責任保険の規律整備 役員を被保険者とするD&O保険に加入する手続要件等を明文化  
 2-3 社外取締役関係
 (1)   社外取締役義務づけ 上場会社等に社外取締役の選任を義務づけ 主に上場
 (2)   社外取締役への業務執行委託 MBOなど利益相反事例等で社外取締役が取締役会の委託により(社外性を失わずに)会社業務を執行できることを明文化 主に上場
【ここから後半】
 3.株式交付制度
 株式交付制度の新設 他の株式会社を子会社化するために、自社株を対価に子会社となる会社の株主からその株式を取得できる制度(相対の株式交換のような制度)を新設  
 4.その他
 4-1 社債関係
 (1)   社債管理補助者 社債管理者の業務を補助する社債管理補助者を新設 主に上場
 (2)   社債権者集会 社債権者全員の同意により代替できる旨の明文化  
 4-2 責任追及の訴訟における和解 和解における監査役の同意の必要性を明文化  
 4-3 議決権行使書面の閲覧等の制限 個人情報保護の観点から閲覧拒否事由を新設  
 4-4 全部取得条項・株式併合の事前開示事項 端数株式処理に関する事前開示事項の記載充実  
 4-5 登記関係 新株予約権の登記事項の一部簡略化、支店所在地の登記廃止  
 4-6 成年被後見人等の取締役等欠格事由の廃止 成年後見人、被保佐人の欠格事由を廃止し、代わりに成年後見人等による就任承諾の代理等の規律を新設  
 4-7 代表者の登記住所の扱い 代表者住所の登記事項証明書等への開示を一部制限  

3.株式交付制度の新設

(1) 制度趣旨

株式交付制度は、ベンチャー企業にも活用が期待できる、今回の改正の目玉のひとつです。一言でいえば、M&Aの手法として「相対の株式交換」とも言える制度が新設されました。

現行法上、自社株を対価に用いた買収の手法として、株式交換がありますが、この制度は完全子会社化(100%買収)にしか利用できません。過半数のみの買収を希望している場合で、自社株を対価にしようとすると、売却を希望する被買収会社の株主が当該会社の株式を買収会社に現物出資し、それに対して買収会社が自社株を割当発行するという手順をとる必要があり、原則として検査役の検査が必要となるなど、実務上利用が困難とされてきました。この問題を解決するため、企業再編手法の新たな手法として、株式交付制度の手続が新設されました。

(2)利用範囲

株式交付制度は、他の株式会社を子会社としようとする場合のみ利用できます。そのため、過半数に達しない範囲で持株比率を増やす場合や、既に子会社となっている会社の持株比率を増やす場合には利用できません(改正法第2条第32号の2)。また、ここにいう「子会社」は、会社法上の子会社のうち、施行規則第3条第3項第1号に該当する子会社(議決権過半数保有の場合)のみとされます(改正施行規則第4条の2)。

また、「株式会社」を子会社にする場合に限定されており、持分会社や外国会社の子会社化には利用できません。さらに、清算中の会社については、親会社側になる場合、子会社側になる場合とも、株式交付制度は利用できません(改正法第509条第1項第3号)。

(3)制度枠組

株式交付制度は、買収会社が他の会社(被買収会社)を子会社化するために、被買収会社の株主からその株式の譲渡(強制ではなく譲渡意思に基づく譲渡)を受け、その対価として買収会社の株式を交付するものです。この手続を、現行法の現物出資の枠組みではなく、買収会社において「株式交付計画」を作成、機関決定して実施する企業再編手続の一形態として整理するものとなります。

譲渡を受けるのは、被買収会社の株式となりますが、それに加えて、被買収会社の新株予約権を譲渡の対象にすることができます(改正法第774条の3第1項第7号)。過半数の株式を取得しても、その後残存する新株予約権を行使されて親子会社関係が崩れてしまう不都合を避ける必要があるためです。なお、株式を譲り受けずに新株予約権だけ譲り受けることは認められません。

また、交付する対価は買収会社の株式となりますが、それに加えて金銭その他の財産を交付することも可能です(買収会社の株式を全く交付しないことはできません。改正法第774条の3第1項第3号柱書、第774条の11第5項第4号)。

(4)手続概要

株式交付を行う場合、買収会社は、対象とする被買収会社、譲り受ける被買収会社の株式の数の下限、譲渡の申込期日、効力発生日等を定めた株式交付計画を作成する必要があります(改正法第774条の3)。譲り受ける株式数の下限は、子会社化するのに必要な数とする必要があります。

株式交付計画は、原則として、株主総会の特別決議による承認を得る必要がありますが、他の企業再編手続に準じた簡易手続が設けられています(改正法第816条の4第1項本文)。事前開示、反対株主の買取請求権、債権者異議手続、事後開示等の手続が規定されていることも、企業再編手続と同様です(改正法第816条の2~第816条の10)。

株式交付計画決定後は、譲渡申込み予定者に対する通知、譲受をする株式の割当決定、譲渡人となった者による被買収会社株式の交付(効力発生日。このときに譲渡人は買収会社の株式等の対価を取得する)といった手順がとられます。細かい部分は異なりますが、第三者割当の新株発行手続に類似した手順になっています(改正法第774条の4~第774の7)。また、上述のとおり被買収会社の新株予約権も譲受対象にできますが、その譲受手続も同様となります(改正法第774条の9)。

他の企業再編手続と同様、無効の訴えの制度が設けられ、株式交付の無効は、効力発生日から6ヶ月以内の訴えをもってのみ主張できるものとされます(改正法第828条第1項第13号)。

4.その他の改正

以上に説明したもののほかに、以下のような主要な改正点があげられます。

4-1 社債関係

(1)社債管理者補助者制度の創設

現行法上、社債を発行する場合には「社債管理者」を定める必要がありますが、各社債の金額が1億円以上である場合、又はある種類の社債の総額を当該種類の各社債金額の最低額で除した数が50未満である場合には、その設置を免除されます(会社法第702条但書。以下「例外要件」といいます。)。実務上は、社債管理者(銀行や信託会社などに限定される)のなり手の確保やコストの問題から、例外要件を満たすように社債を設計するケースが多くなっています。

今回の改正で、例外要件を満たすような社債に関して、「社債管理補助者」を置くことができるものとされました(改正法第714条の2)。「社債管理者」がおかれる場合は、社債管理者が社債権者のために各種権利行使を含む包括的な管理を行いますが、社債管理補助者は、社債権者が自ら社債の管理をすることを前提に、その補助を行う役割となります。そのため、社債管理者となれる者よりもその資格は広く規定され(弁護士及び弁護士法人も社債管理補助者になることができる。改正施行規則第171条の2)、その権限は社債管理者よりも限定されることになります。

社債管理補助者を置くか否かは社債を発行する会社の判断であり、どの程度制度が普及するかは今後の動向を見ることになりますが、非上場会社では必要なケースは多く想定されづらいため、主に上場会社に関係する改正事項と考えられます。

(2)社債権者集会の決議の省略

社債全部に関する支払猶予や訴訟行為など、会社法上の一定の事項については社債権者集会という会議体の決議が必要とされており、その他社債権者の利害に関する事項について決議することができるものとされています(会社法第716条、第706条等)。また、社債権者集会の決議は、裁判所の認可を受けなければ効力を生じないものとされます(同第734条)。

こうした社債権者集会の決議事項について、社債権者全員の個別の同意があれば、社債権者集会の決議に代えることができないかという議論があり、例えばベンチャー企業が発行するCB(転換型新株予約権付社債)の条件変更をするような場合に、法的に社債権者集会の決議事項であるかどうか、そうであるとして数名の社債権者の同意を得る方が簡易であるからそれによって社債権者集会や裁判所の認可というプロセスを省略できないか、といったことが問題になることもありました。

今回の改正で、株主総会と同様に、社債権者全員の書面による同意があれば、社債権者集会の決議があったものとみなされることとなりました(改正法第735条の2第1項)。またこの同意が得られた場合は、裁判所の認可も不要とされました(同条第4項)。上述のCBの条件変更に関しては、登記実務において同意書面で代用可能と運用されるようになっていますが、会社法の明文上もその適法性がクリアになりました。

4-2 責任追及の訴えの訴訟における和解

監査役設置会社等が取締役等の責任追及の訴訟において和解をする場合、各監査役(監査等委員設置会社では各監査等委員、指名委員会等設置会社では各監査委員)の同意を得るべき旨が定められました(改正法第849条の2)。従前解釈上明確でなかった部分を、明文化した改正となります。

4-3 議決権行使書面等の閲覧

株主総会の議決権行使書面や委任状(代理権を証明する書面)は、株主が閲覧又は謄写を請求することができます。株主名簿の閲覧については、会社のオペレーション負担や情報保護に配慮した一定の閲覧拒絶事由が規定されている(会社法第125条第3項)のに対し、議決権行使書面等には特に拒絶事由が定められていませんでした。

このため、議決権行使書面等の閲覧請求が業務妨害目的でなされているのではないかとの指摘や、株主名簿の閲覧を拒絶された場合に株主の住所を確知するために濫用的に議決権行使書等の閲覧請求がなされる懸念があるとの指摘がありました。

このような指摘を踏まえ、今回の改正では、議決権行使書等について、株主名簿と同様の閲覧拒絶事由が追加されました(改正法第310条第8項、第311条第5項)。

4-4 全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合の手続における事前開示事項

全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合の手続は、スクイーズアウト(少数株主の締め出し)のスキームとして用いることが可能であり、手続の結果生じる1株未満の端数について、競売又は任意売却により得られた金銭が、締め出される少数株主に交付されることになります。

現行法において、これらの手続において株主に対する情報開示として、法定事項を記載した事前開示書面の備置が義務づけられていますが(会社法第171条の2第1項、第182条の2第1項)、そこに記載すべき事項として、上記端数処理に関するより具体的な事項(競売と任意売却のいずれの予定であるか、売却実施の時期の見込み、任意売却の相手方や株主への金銭交付時期の見込みなど)が追加される予定です。

この改正は、法務省令(施行規則第33条の2第2項第4号、第33条の9第1号ロ)の改正として行われます。

4-5 登記関係

(1)新株予約権(有償発行)の登記事項

有償発行の新株予約権の払込金額を算定方法(ブラック・ショールズモデルなど)で定めた場合について、現行法では新株予約権発行の登記申請時までに具体的な金額が確定していても算定方法の登記を要するものと解されていますが、改正法では登記申請時までに金額が確定していればその金額を登記すれば良いこととされます(改正法第911条第3項第12号ヘ)。

(2)支店の所在地における登記の廃止

現行法では、支店を有する会社は、本店所在地の登記所とは別に、支店所在地の登記所においても一定の事項を登記する必要がありますが、インターネット登記情報提供の普及により、支店において会社の登記情報を取得するニーズがなくなっていることから、支店所在地における登記が廃止されます(現行法第930条~第932条の削除)。登記のシステム改修スケジュール等に鑑み、施行日は改正法交付日から3年6ヶ月以内の範囲で指定されることとなっています(改正附則第1条但書)。

4-6 成年被後見人等の取締役等の欠格事由からの削除等

現行法では、成年被後見人及び被保佐人(以下「成年被後見人等」)であることは、株式会社の取締役、監査役等の欠格事由とされていますが、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく制度利用促進の政策の一環として、今回の改正で上記を欠格事由とすることをやめ、これに代わる規律をおくこととされました。

①成年被後見人等も取締役等に就任し得ることを前提に、以下の就任要件を規定(改正法第331条の2第1項、第2項)

  1. 成年被後見人が取締役等の就任するためには、成年後見人が法定代理人として就任の承諾をしなければならず、かつその承諾をなすことについて成年被後見人の同意(後見監督人がある場合はその同意も)を得なければならない。
  2. 被保佐人が取締役等に就任するには、保佐人の同意を得なければならい。

②成年被後見人又は被保佐人がした取締役等の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない(同条第4項)

新設された規定自体はシンプルですが、行為能力に関する民法の規律との関係で、以下のような意味合いを含んでいます。


1)後見人は、被後見人の財産に関する法律行為について代理権を有するが(民法第859条第1項)、かかる代理によらず成年被後見人自身が法律行為をなすことは可能であり、その法律行為は取り消すことができる(民法第9条)。この民法の規律を取締役等の就任行為に持ち込むと、成年被後見人自身によって(成年後見人の代理によらず)なされた就任承諾は一旦有効でありながら後日取り消し得ることとなり、取り消されてしまうと、同人が代表取締役として行った第三者との取引行為や、同人が参加した取締役会決議の効力が覆されてしまうおそれがある。このような懸念を排除するため、取締役等の就任は成年後見人が代理して承諾しなければならないものとした(本人自身による就任承諾は無効である解釈を前提とする。)。

2)被保佐人の取締役等就任も、被保佐人の同意を要する行為と解され(民法第13条第1項第3号)、かかる同意を得ずになされた就任承諾は取り消し可能と解される(同第4項)。このため、取締役等の就任承諾に保佐人の同意を要するものとした(条文上明記されていないが、かかる同意がない就任承諾は無効であり、有効であるが後から取り消せるという規律を適用しないことを前提とする。)。

3)取締役等の就任行為は、民法上、成年被後見人の「行為を目的とする債務を生ずべき場合」(民法第859条第2項、第824条)に該当し、成年後見人が代理権を行使するに際して本人の同意を要する行為と解されるため、かかる同意の必要性を会社法上も明記した

4)上記の規律に従って就任した成年被後見人等による、取締役等としての職務執行行為が、民法の規律によって取り消し得ることとなると、法的安定性を害する。また、取締役等の職務執行の効果は株式会社に帰属するものであり、取り消しにより成年被後見人等の保護を図る必要性も低い。そのため、成年被後見人等の取締役等の資格に基づく行為を行為能力の制限によって取り消すことはできないものとした。


なお、職務執行における後見人等の関与の可否、取締役等としての責任についての考え方、取締役等を辞任する場合の規律などの論点がありますが、本稿では割愛します。

4-7 代表者の住所の登記事項証明書等への記載

登記事項である株式会社の代表者の住所が登記簿謄本等に記載されることについて、プライバシー保護の観点から従前より議論もあったところですが、今回の改正に付随して、登記事項証明書については代表者からドメスティックバイオレンスの被害者等であることに基づく申出がなされた場合に、住所を表示しない措置を可能とすること、またインターネットで提供される登記情報においては代表者住所を記載しないものとすることが決定されました。これらの事項は、システム改修期間を見込んで改正法公布から3年6ヶ月を超えない時期に、法務省令等の改正により実施される予定です。

以上、会社法改正の概略を解説させていただきましたが、皆様の理解の一助となれば幸いです。

執筆者
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弁護士 パートナー Founder
林 賢治
Hayashi, Kenji
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