使用人が海外転勤により国外に居住することになった場合、その使用人が非居住者(※)となれば、国内源泉所得(国内において行った勤務に対応するもの)を除いて、給与等の支払において源泉所得税の徴収をする必要はありません。非居住者であっても国内源泉所得に対しては、原則として20.42%の税率で源泉徴収を要します。ただし、以下の所得税法基本通達により国内源泉所得に対しても源泉所得税の徴収を必要としないケースがあります。
「給与等の計算期間の中途において居住者から非居住者となった者に支払うその非居住者となった日以後に支給期の到来する当該計算期間の給与等のうち、当該計算期間が1月以下であるものについては、その給与等の全額がその者の国内において行った勤務に対応するものである場合を除き、その総額を国内源泉所得に該当しないものとして差し支えない。」(所得税基本通達212-5)
これは給与等の計算期間が1月以下であり、計算期間の中途で出国した場合には、たとえ国内源泉所得であっても厳密な取り扱いによらず源泉徴収をしなくても差し支えないというものです。
以下、出国後の使用人への給与、賞与の支払のケースに当てはめて説明します。
(※)非居住者に該当するか否かは、原則的に実態に基づいて判定することになりますが、実務上は転勤により国外において継続して1年以上居住することを必要とする職業を有する場合には非居住者であるとする推定規定に当てはめて判定するケースが多いと思われます。1年以上居住することを必要とする職業を有するとは、出向契約、辞令等により国外での勤務予定期間が1年以上となっている場合等が挙げられます。なお、1年以上の予定で出国する場合、出国日の翌日から非居住者として取り扱われます。
[出国後の初回の給与支払]- ケース1
給与の計算期間:7月16日~8月15日
出国日:8月10日(8月11日より非居住者)
給与支払日:8月25日
ケース1では計算期間の中途の8月11日に非居住者となっており、計算期間が1月以下ですので国内源泉所得ではあるものの源泉徴収は要しません。
- ケース2
給与の計算期間:7月16日~8月15日
出国日:8月20日(8月21日より非居住者)
給与支払日:8月25日
ケース2では計算期間は1月以下ですが、計算期間を経過してから非居住者となっていますので、給与から20.42%の税率で計算した源泉所得税を徴収する必要があります。
[出国後の初回の賞与支払]賞与の計算期間:6月1日~11月30日(183日)
出国日:10月16日(10月17日より非居住者)
賞与支払日:12月15日
上述した基本通達212-5では、給与等の計算期間が1月以下となっていますので、計算期間が1月を超える賞与の支払については、計算期間の中途で出国した場合でも源泉所得税の徴収が必要です。支払われる賞与のうち源泉所得税の徴収が必要となる部分の計算は国内・国外の勤務日数の割合に応じて行います。
ここでは10月17日から非居住者となっていますので、計算期間のうち非居住者である日数は11月30日までの45日間です。よって183日から45日を引くと138日となり、賞与の金額に138日/183日を乗じた金額に20.42%の税率で計算した源泉所得税を徴収する必要があります。