AZXブログ

利用規約(2)

2012/03/01

~ AZX Coffee Break Vol.25 ~

本稿は2012年2月22日に発行したAZX Coffee Break Vol.24の「利用規約(1)」の続きである。

(5)免責条項

サービスの内容に応じて責任を負わない範囲を明確に定めておくことが重要である。免責条項については、サービスの中断・停止や、機器や設備の不具合に基づいて、ユーザーに生じた損害について、責任を負わない旨を定めておくことが重要である。特に、第三者のシステムを利用してサービス提供を行う場合には、当該第三者のシステムに関して生じた損害については責任を負わない旨を定めておくことが考えられる。なお、この点との関係で、定期点検や緊急事態のためにサービスの中断・停止を行うことができる旨の規定も別途定めておくのが一般的である。
ソーシャル・メディアにおいては、ユーザー同士がサービスの枠内でコミュニケーション等を取る仕組みになっているのが一般的であり、ユーザー同士の間で何らかの紛争が生じる可能性も十分に想定される。従って、ユーザー同士のコミュニケーション、取引その他のやり取りについてサービス運営者が責任を負わない旨の規定を入れておくことも重要である。
また、サービスが他企業のビジネス上利用されるような場合には、他企業が自己の事業において当該サービスを利用することが法令や業界団体の規則等に抵触する可能性も否定できない。例えば、広告規制のある業種については、ソーシャル・メディアのサービスで広告とみなされる行為を行うことは法令違反の問題を生じさせる可能性があり、また、健康食品等の販売業者がソーシャル・メディア内で効能効果に関する発言をすることは薬事法に抵触する疑いもある。サービス運営者がこれらについて責任を負わないよう免責事項を定めておいた方が安全である。
さらに、サービス運営者のウェブサイトから他のウェブサイトへのリンク又は他のウェブサイトからサービス運営者のウェブサイトへのリンクが提供されている場合でも、サービス運営者は、自らのウェブサイト以外のウェブサイト及びそこから得られる情報に関して如何なる理由に基づいても一切の責任を負わない旨の規定も入れておいた方が安全である。

(6)権利に関する事項

ソーシャル・メディアにおいては、サービス提供に関するソフトウェア等の知的財産権等がサービス運営者又はサービス運営者にライセンスを許諾している者に帰属する旨を確認的に規定する規定はもちろんのこと、サービス上に投稿された文章、画像及び動画等の権利の帰属及び使用許諾範囲を明確に定めておくことが重要である。例えば著作権であれば、著作物の創作を行った者が当初の著作権者となるため、ユーザーが自ら作成した文章、画像及び動画等を投稿した場合、利用規約に特に規定がなければサービス運営者はかかる著作物を使用することはできないこととなる。この点、法的には、投稿された情報に関する権利がユーザーからサービス運営者に譲渡される旨を利用規約に定めることも可能であるが、ユーザーからの反感を買い、いわゆる「炎上」が生じ、ビジネスに悪影響を及ぼす可能性もある。そのため、最近では権利が帰属するのはユーザーとした上で、サービス運営者は、無償での使用許諾を受ける旨を利用規約に規定する例が多く見受けられる。将来的にどのように投稿内容を使用するかを事前に判断するのは困難なため、「複製、複写、改変、第三者への再許諾その他あらゆる利用を含む」などと、広く利用許諾を受けておいた方が好ましいと考えられる。なお、ユーザーがサービス運営者以外の第三者に使用許諾をすることを禁止しておくことも考えられるが、このような規定はユーザーからの反感を買う可能性もあるため、慎重に検討する必要があると考えられる。

(7)登録取消手続の規定

ユーザーがサービスから離脱したいときのためにユーザーからの登録取消しについての規定を設けるのが一般的である。また、サービス運営者としても、利用規約に違反する等ユーザーのサービス利用を停止させる必要がある場合には、当該ユーザーの登録を取消すことができるように、サービス運営者からの登録取消しの規定を設けておくことも重要である。また、サービス運営者が、サービス自体を廃止したい場合もあり、また、何らかの理由でユーザーの登録を取消す必要性が生じる可能性もあることから、サービス廃止の規定やサービス運営者からの任意の登録取消しの規定の要否も検討しておいた方がよいと考えられる。また、ユーザーに通知が届かず、通常の登録取消しの手続を実施することが困難な場合に備え、一定期間の間ユーザーがサービスを利用せず、かつ、サービス運営者からの連絡に対して応答がない場合には当該ユーザーの登録を取消すことができる旨を定めておいた方がよいと考えられる。
なお、サービス廃止との関係では、廃止時に残ってしまったユーザーのポイントやアイテムの処理をどうするかという点が大きな問題となる例もあることから、ポイントやアイテムの有効期間等も含めて、サービス廃止の際に問題が生じないように利用規約において何らかの手当てをしておく必要がないかについても検討しておいた方が安全である。

(8)利用規約の変更手続に関する規定

(1)で述べたように、利用規約が法的拘束力を有する根拠はサービス運営者とユーザーとの間に契約が成立する点にある。契約は、相手方の同意なしに変更することができないのが民法上の原則であるため、サービス運営者が利用規約を変更した場合でも、変更前の利用規約に同意しているユーザーとの間で自動的に変更後の利用規約に従った契約が成立するものではない。この点、一部の利用規約では、サービス運営者が変更内容をサイトにアップした場合には規約は自動的に変更されたものとみなすと定めるものがあるが、その有効性は疑問の面がある。契約の変更についても、登録時の契約成立と同様、変更内容についてはユーザーの認識と同意が必要であると考えた方が安全である。しかし、実務上、利用規約の変更を行うに当たって個別にユーザーから同意を取得するのは煩雑であり、また、ユーザー数が多い場合には個別に同意を取得するのが現実的ではない場合がほとんどである。従って、この点については、ユーザーに変更内容を通知した後にユーザーがサービスを利用した場合や一定期間内に登録取消しをしなかった場合には、ユーザーが変更後の利用規約に同意したとみなす旨の規定を定めることが考えられる。但し、かかるみなし規定を定めている場合でも、変更後の利用規約を認識していないユーザーには当該みなし規定の適用を主張することは難しいと考えられるため、利用規約を変更した場合には、変更後最初にユーザーがログインした際にポップアップで利用規約を表示するなど、確実にユーザーが変更後の利用規約を認識したといえる状況にしておく方が安全である。この点も、利用規約の同意取得の問題と同様に、利用規約の変更の有効性の確保とユーザー・インターフェースの快適さの確保をどうバランスさせるかを検討する必要がある。

(9)契約上の地位の移転に関する規定

利用規約においては、契約書の一般条項と同様に、利用規約に基づく契約上の地位及び権利義務の譲渡には他方当事者の同意を要する旨を規定しているものが多い。かかる規定がない場合であっても、日本法では、契約上の地位の移転には相手方の同意が必要と解されている。しかし、M&A等でサービスの運営主体を第三者に移転させる必要が生じる可能性があり、その場合の対処を考慮しておくのが賢明である。M&Aの手法として、合併や会社分割等の包括承継を選択する場合には、契約の相手方の同意を得なくとも契約上の地位が移転するが、事業譲渡を選択した場合には、契約の相手方の同意を得ない限り契約上の地位が移転しないのが原則である。しかし、事業譲渡を行う際にユーザー数が膨大な数に上っているような場合には個別の同意を取得することが現実的ではないこともあり得ると考えられる。従って、サービス運営者が事業譲渡を行う場合には、サービス運営者は契約上の地位を事業の譲受人に移転させることができる旨、及び、ユーザーがかかる契約上の地位を移転させることについて予め同意する旨を利用規約に規定しておくことが考えられる。

(10)消費者契約法について

消費者と締結する消費者契約においては、消費者に不利な条項は無効とされる場合がある。消費者とは、事業として又は事業のために契約の当事者になる場合以外の個人をいう(消費者契約法第2条第1項)。利用規約に関係のある消費者契約法の概要は下記のとおりである。
消費者契約法第8条より、事業者の消費者に対する債務不履行責任、不法行為責任、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を全面的に免責する条項は無効とされる。従って、消費者をユーザーとするサービスにおいては、上述の免責規定に関し、消費者契約法が適用される場合における、賠償の範囲を制限する旨の規定や賠償額の上限を定める旨の規定を定めておくことが重要である。賠償額の上限を定める旨の規定は基本的には消費者契約法でも無効とはされていないが、事業者側の故意又は重過失による責任については、一部であっても免除及び制限は無効とされているため、注意を要する。
消費者契約法第9条より、契約解除の際に、「同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」損害賠償の額を予定した条項又は違約金を定める条項は、当該平均的な損害の額を超える部分について無効となる。また、年率14.6%を超える遅延利息を定めた場合、年率14.6%を超える部分について無効となる。従って、過大な違約金等を定めていたとしても、消費者相手に全額を請求できるとは限らない点に予め留意しておく必要がある。
消費者契約法第10条より、民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とされる。どのような規定が消費者契約法第10条によって無効となるかについては個別具体的事情に基づき判断され、予測が難しい面があるため、消費者の利益を一方的に害するような規定は無効となる可能性がある点を予め認識しておく必要がある。
以上

そのほかの執筆者
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弁護士 パートナー
小鷹 龍哉
Kotaka, Tatsuya
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弁護士 マネージングパートナー CEO
後藤 勝也
Gotoh, Katsunari
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