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震災に伴う休業措置等について

2011/04/14

~ AZX Coffee Break Vol.23 〜

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は被災地に甚大な被害をもたらし、被災地以外の地域についても、計画停電をはじめ鉄道や道路等の輸送・流通網に支障を与えました。いまなお余震や電力への不安が続く中、休業措置等の対応を実施又は検討する事業場も生じているため、本稿では震災に伴う休業措置等に関して、行政通達等を踏まえQ&A方式でまとめました。参考にしていただければ幸いです。なお、本稿は重要な点をピックアップしましたが、より詳細な内容については厚生労働省資料「地震に伴う休業に関する取扱いについて」(URL:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016u30-img/2r98520000017eok.pdf)等を適宜ご参照下さい。

Q1 震災による様々な影響により、今後労働者に自宅待機や休業措置を行う可能性があるのですが、休業について労働基準法上の賃金の扱いはどうなっているのでしょうか。

A1 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を当該労働者に支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
(解説)
休業手当は使用者の責に帰すべき事由により休業を余議なくされた労働者の保護を図るため、労働基準法で定められているものです。ここでいう平均賃金とは、原則として、算定事由の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額となります(労働基準法第12条第1項)。なお、民法においては、債務者が債務の履行をなし得なかった場合でも、それが債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債務者は反対給付を受ける権利を失わない(民法第536条第2項)とされているため、労働者は本来の賃金と休業手当との差額についても、これを請求する余地は残されていると考えられます。

Q2 今回の地震により事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、労働者を休業させる場合は「使用者の責に帰すべき事由」による休業にあたるのでしょうか。また、事業場が直接的な被害を受けていなくとも、取引先からの資材供給が途絶したこと等により業務が行えない場合はどうでしょうか。

A2 直接的な被害を受けた場合は、 原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。間接的な被害を受けた場合は、個別事情を総合的に判断することとなります。
(解説)
天災事変等の不可抗力の場合は、「使用者の責に帰すべき事由」にあたらず、使用者に休業手当の支払い義務は生じないと考えられます。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。地震により事業場の施設・設備が直接的な被害を受けていない場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられるものの、上記要件①②を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。

Q3 今回の地震に伴って計画停電が実施される場合、計画停電の時間帯を休業としても休業手当は支払わなくてもよいでしょうか。また、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて1日全部を休業とする場合はどのように扱えばよいのでしょうか。

A3 原則として計画停電の時間帯を休業とした場合は休業手当を支払う必要はないと考えられますが、計画停電の時間帯以外を含めて休業させる場合は注意する必要があります。
(解説) 
今回の地震に伴って、電力会社において実施される計画停電の時間帯を休業とする場合は、原則として労働基準法第26条の使用者の責に帰すべき事由に該当しないとする行政通達が新たに発出されました(平23.3.15基監発0315第1号)。なお、計画停電の時間帯以外の時間帯の休業は、原則として使用者の責に帰すべき事由に該当すると考えられるものの、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないとされています。よって、上記のような事情がないにもかかわらず計画停電の時間帯以外についても休業とする場合、計画停電以外の時間帯については、当該時間に対応した休業手当を支払うか、本人が希望した場合は有給休暇として取り扱う等の対応をとることが考えられます。また、通達においては、計画停電が予定されていたため休業としたが、実際には計画停電が実施されなかった場合、計画停電の予定、その変更の内容やそれが公表された時期等を踏まえ、判断することとしています。このように計画停電の時間帯以外を休業とする場合や計画停電が予定されていたものの実施されなかった場合の休業については、個別事情により判断することになると考えられます。

Q4 地震の影響により、取引先からの受注が減少傾向にあるため、しばらく休業を実施しようと思います。休業に伴い労働者に休業手当を支払う予定ですが、何かしらの助成金を受給することはできますか。また、計画停電の実施に伴う休業の場合はどうでしょうか。

A4 事前に休業に関する計画届を申請することで、労働者に対して支給した休業手当相当額の一部(中小企業で原則8割)を助成する、雇用調整助成金を受給できる可能性があります。
(解説)
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余議なくされた事業主が、労働者の雇用を維持するために、休業等を実施し、休業に係る手当等を労働者に支払った場合、それに相当する額の一部を助成する制度です。主な支給要件として、「休業等を実施する内容について、都道府県労働局又はハローワークに事前にその計画を届け出ること」、「最近3カ月の生産量、売上高等がその直前の3ヶ月又は前年同期と比べて5%以上減少している雇用保険適用事業所の事業主であること」が必要となります(震災の影響を受けた一定の地域にある事業所の場合は要件の緩和措置がとられています。)。今回の地震に伴う事業縮小の「経済上の理由」の具体例としては、交通手段の途絶により原材料の入手や製品の搬出ができない、損壊した設備等の早期の修復が不可能、風評被害による観光客の減少や農作物の売上減少等のほか、計画停電の実施を受けて事業活動が縮小した場合も助成対象となります。ただし、地震を直接的な理由(避難勧告・避難指示など法令上の制限を理由とするもの等)とした事業活動の縮小については、「経済上の理由」に該当しないため、当該助成金の対象とならない点ご留意ください(地震を直接的な理由とする休業の場合であっても、雇用保険の特例により、賃金を受けることのできない労働者が失業給付を受給できる措置がありますので、Q5を参照ください。)。

Q5 地震や津波等のために事業所が事実上休止・廃止となっている状況です。労働者を解雇しないで、生活を支える方法はありますか。

A5 雇用保険失業給付の特例措置により、労働者が実際に離職していなくとも、失業給付(雇用保険の基本手当)を受給できる場合があります。
(解説)
災害により直接被害を受け、事業所が休止・廃止になり、賃金(休業手当を含む)が支払われない場合には、労働者は雇用保険の求職者給付を受給することができる特例措置が設けられています(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第25条)。具体的には、(1)事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余議なくされ、賃金が支払われない労働者については、実際に離職していなくても失業給付を受給できること、(2)災害救助法の指定地域にある事業所が災害により事業を休止・廃止したために、一時的に離職を余議なくされた労働者については、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、失業給付を受給できることとされています。ただし、雇用保険に6ヶ月以上加入している等の要件を満たす労働者のみが対象となる点など、注意すべき事項もあるため、管轄の労働局や公共職業安定所等に適宜ご相談された方がよいと考えられます。

以上、本稿では震災に伴う休業や、それに伴う各種制度の一部についてご案内させていただきました。今後は夏場にかけて都心部でも何らかの節電計画が実施されることも想定されるため、休業措置以外の対応として、在宅勤務やフレックスタイム等の導入により人材活用を図り、事業を継続・発展させる方向も視野にいれて検討することが考えられます。また、震災に伴う被害の状況に応じて、今後も行政通達等が随時発信される可能性が高いため、動向について適宜ご注意いただいた方がよいと考えます。

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