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資金決済法の施行(前払式支払手段について)

2010/03/30

~ AZX Coffee Break Vol.19 ~

資金決済に関する法律(以下「法」という。)が本年(平成22年)4月1日から施行される。法は、前払式支払手段、資金移動及び資金決済について規定しているが、今回は、ベンチャー・ビジネスに与える影響が一番大きいと考えられる前払式支払手段についての規制に関し解説する。
(1) 定義 前払式支払手段の定義は、第3条第1項に定められているところ、①金額等の財産的価値が記載・記録されること、②金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること、③代価の弁済等に使用されることの三つの要件を満たすものが該当するとされている。従前、現在の前払式支払手段について規定していた前払式証票の規制等に関する法律(以下「旧法」という。)においては、紙型やIC型等の証票が発行されるもののみが規制対象となっていたが、法においては、コンピューター・サーバー等にその価値が記録されるサーバー型前払式支払手段も規制対象となっていることに注意する必要がある。それゆえ、オンラインゲームにおいて有償で発行するポイント等も、上記の要件を満たす限りサーバー型前払式支払手段に該当し得ることとなる。
なお、いわゆるおまけとして無償で付与されるポイントについては、立法審議過程でも議論がなされたが、今回の法においては、特段の整備は行われていない。但し、ポイントと称していても、その発行に対価性のあるものについては、前払式支払手段に該当し、法の適用を受けることとなるので留意する必要がある。
(2) 規制内容 法は、前払式支払手段を自家型と第三者型に分類した上で、両者について共通の規制を定めるとともに、それぞれの性質に応じた異なる規制を定めるという仕組みを採用している。
①共通の規制
(i)表示義務 前払式支払手段発行者は、発行する前払式支払手段に、発行者の名称等一定の事項を表示又は提供する義務を負う(第13条)。サーバー型前払式支払手段の場合には利用者に対し紙やIC等の有体物が交付されない場合があるところ、この場合には、(i)電子メールでの送信等、(ii)インターネットを利用して利用者の閲覧に供する方法、(iii)チャージ機での表示等のいずれかの方法によって情報を提供することとされている(第13条第2項、府令第22条第1項)。
(ii)供託義務 前払式支払手段発行者は、基準日(3月31日及び9月30日)において、前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えるときは、その基準日未使用残高の2分の1以上の額に相当する金銭を、基準日の翌日から2ヶ月以内に、発行保証金として主たる営業所・事務所の最寄りの供託所に供託する義務を負う(第14条第1項、施行令第6条、府令第24条第1項)。なお、上記の供託義務については、銀行等と発行保証金保全契約を締結するか(第15条)、信託会社等と発行保証金信託契約を締結することで(第16条第1項)、供託に代えることができる。
(iii)払い戻しに関する義務 前払式支払手段発行者は、前払式支払手段の発行の業務の全部又は一部を廃止した場合、又は前払式支払手段発行者が第三者型発行者である場合において登録を取り消された場合には、前払式支払手段の残高を払い戻す義務を負う(第20条第1項)。他方で、前払式支払手段発行者は、上記の払い戻し義務を負う場合及び府令第42条で払い戻しが許容される場合を除いては、原則として払い戻しを行うことが禁じられる(第20条第2項)。
(iv)その他の義務 前払式支払手段発行者は、行政の監督を受ける立場となり(第22条から第29条まで)、基準日ごとに、金融庁長官に対し報告書を提出する義務を負う(第23条第1項)。
②自家型前払式支払手段
自家型前払式支払手段とは、発行者(発行者と密接な関係者を含む)に対してのみ使用ができる前払式手段をいう(第3条第4項)。自家型前払式支払手段のみを発行する者は、発行を開始して以後、その基準日未使用残高が1000万円を超えることとなった場合において、最初に基準額を超えた基準日の翌日から2ヶ月を経過する日までに金融庁長官に対して届出を行う義務が生ずる(第5条第1項、府令第9条)。届出を提出した者は、前払式支払手段発行者とされ(第2条第1項、第3条第6項)、上記①の(i)から(iv)までの義務を負うこととなる。なお、ある者が、複数の自家型前払式支払手段を発行する場合、それぞれの自家型前払式支払手段について基準額を超えたかどうかを判断するのではなく、全ての自家型前払式支払手段の基準日未使用残高を合計した額について判断されることに留意する必要がある。
③第三者型前払式支払手段
第三者型前払式支払手段とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう(第3条第5項)。第三者型前払式支払手段の発行の業務は、金融庁長官の登録を受けた法人でなくては、行うことができない(第7条、第104条第1項)。登録を受けるためには、府令で定めるところにより登録申請書を金融庁長官に提出する必要があるが(第8条、府令第14条)、一定の場合には登録が拒否される場合もある(第10条第1項)。登録を受けた者は、②と同様に前払式支払手段発行者とされ、上記①の(i)から(iv)までの義務を負うこととなる。なお、ある者が複数の前払式支払手段を発行する場合、その1つでも第三者型前払式支払手段であれば、登録が必要となることに注意が必要である。この場合、自家型前払式支払手段を含め、当該発行者が発行する全ての前払式支払手段が法の適用対象となる。
④適用除外
前払式支払手段に該当する場合であっても、(a)前払式支払手段が乗車券、入場券である場合、(b)前払式支払手段の発行者が国または地方公共団体である場合、(c) 発行の日から6ヶ月未満(法令上「6ヶ月内」と規定され、6ヶ月未満の趣旨と解されている。)に限り使用できる前払式支払手段などについては、法が適用されないこととなっている(第4条)。したがって、法の適用を避けたいという会社においては、前払式支払手段の有効期限を発行の日から6ヶ月未満に限るよう設計することにより、上記①の(i)から(iv)までの義務を負わないこととすることが考えられる。
⑤未使用残高が基準額(1000万円)を下回った場合の取扱い
供託義務に関しては、ある基準日において供託義務を負うこととなった場合においても、その後の
基準日において未使用残高が基準額を下回った場合には供託義務はなくなり、発行保証金の全額を取り戻すことができる(第18条第1項)。但し、さらにその後の基準日において、再び未使用残高が基準額を超えた場合には供託義務が生ずる。その他の義務に関しては、一度前払式支払手段発行者となった者は、原則として業務の全部を廃止しない限り義務を負い続けることとなる。但し、自家型発行者の報告書提出義務に関しては、基準日未使用残高が基準額以下となった場合には、次に同残高が再び基準額を超えることになるまでの間は、報告書の提出を要しないこととされている(第23条第3項)。
(3)経過措置
①届出義務及び登録義務
施行日前から発行されている前払式支払手段で旧法の適用があった場合において、旧法下の届出、登録を行っている者は、施行日において自家型発行者、第三者型発行者となったものとみなされ(附則第4条第1項、第5条第1項)、法が適用される。一方、旧法の適用を受けていない者に関しては以下の経過措置が置かれている。自家型発行者については、法の施行の日以後の基準日において最初に基準額を超えることとなったときに届出を行う義務があることとしている(附則第7条)。第三者型発行者については、施行日後直ちに登録義務違反となることを防ぐために、施行日から6ヶ月間は、登録をすることなく第三者型前払式支払手段の発行の業務を行うことができることとし(附則第8条第1項)、第三者型前払式支払手段の発行の業務の適切性を確保するため、この者を第三者型発行者とみなして法を適用することとしている(附則第8条第2項)。
②表示義務
情報提供義務については、発行時点での義務と解されていることから、施行日以後、新たに発行される前払式支払手段について適用されることとなっている(附則第10条)。なお、自家型前払式支払手段について、届出を行うまでは前払式支払手段発行者の定義に該当しないため、法施行日後においても、届出を行う前に発行した自家型前払式支払手段に関しては、表示義務を負わないこととなる。
③供託義務の緩和
供託義務に関しては、法の施行日後最初に到来する基準日から法が適用される(附則第11条第1項)。
法の施行日前に前払式支払手段を発行している者が発行した当該前払式支払手段については、施行日以後最初に到来する基準日では基準日未使用残高の6分の1、施行日後2回目に到来する基準日では3分の1とし、段階的に供託させることとしている(附則第11条第3項)。
さらに、法の施行前に前払式支払手段を発行している場合について、法の施行前に発行された分と新規に発行された分を区別している場合には、新規発行分についてのみ直ちに2分の1の供託義務を課す旨規定されている(附則第11条第4項)。この「区分」については、外形上の区別ができることだけでなく、その未使用残高を施行日の前後で区別できることを意味するとされていることに注意する必要がある(高橋康文編著「逐条解説資金決済法」297頁)。
以上
(文責:弁護士 雨宮美季)

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