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不公正な取引方法の禁止

2009/05/01

~ AZX Coffee Break Vol.16 〜

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)において禁止されている不公正な取引方法は、取引先と契約するにあたりしばしば問題となるが、「不公正な取引方法」に該当する可能性があるにもかかわらず気付いていなかったり、反対に、その可能性がないにもかかわらず可能性があるものと誤解して萎縮していたりするケースが見受けられる。そこで、今回は「不公正な取引方法」としてどのようなものがあるかにつき概説する。

(1)不公正な取引方法の概要 不公正な取引方法とは、独占禁止法第2条第9項各号のいずれかに該当する行為で、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。かかる公正取引委員会の指定には、全業種に適用される一般指定と、特定の業種等に適用される特殊指定があり、後者の特殊指定として、新聞業における指定、特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の指定、及び大規模小売業者による納入業者との取引における指定の3つが存在する。他方、前者の一般指定としては、(i)共同の取引拒絶、(ii)その他の取引拒絶、(iii)差別対価、(iv)取引条件等の差別取扱い、(v)事業者団体における差別取扱い等、(vi)不当廉売、(vii)不当高価購入、(viii)ぎまん的顧客誘引、(ix)不当な利益による顧客誘引、(x)抱き合わせ販売等、(xi)排他条件付取引、(xii)再販売価格の拘束、(xiii)拘束条件付取引、(xiv)優越的地位の濫用、(xv)競争者に対する取引妨害、(xvi)競争会社に対する内部干渉の計16個が公正取引委員会の告示において挙げられている。不公正な取引方法に対しては、公正取引委員会によって当該行為を排除するために必要な措置が命じられたり(独占禁止法第20条)、第三者によって、差止請求(同法第24条)や故意又は過失の有無にかかわらない損害賠償請求(同法第25条)がなされたりする可能性がある。以下では一般指定のうち取引上よく問題となるものに絞って更に解説することとする。

(2)一般指定 一般指定では、公正な競争を阻害するおそれを示す表現として、「正当な理由がないのに」という文言を用いるものと、「不当に(な)」という文言を用いるものがある。前者は、原則として公正競争阻害性が認められ違法となる類型、後者は、当該行為に該当する場合であっても直ちに公正競争阻害性が認められ違法とされるのでなく、不当性及び正当化事由の不存在が認められて初めて公正競争阻害性が認められ違法となる類型とされている。このように不公正な取引方法には、大きく分けて2つの類型があることを念頭に置きながら、以下の各行為をご確認いただきたい。
①その他の取引拒絶 不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせることは禁止されている(第2項)。これに該当する場合としては、違法、不当な目的を達成する手段として行われる場合や、有力事業者による取引拒絶によって、相手方事業者が容易に代わりの取引先を見いだし難くなり、通常の事業活動が困難になるおそれがある場合が挙げられる。前者の例としては、再販売価格を遵守しない販売業者に対し出荷停止を行い取引拒絶するような場合がある。また、後者については、(i)対象商品の市場全体の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)、(ii)行為者の市場における地位(シェア、順位、ブランド力等)、(iii)当該行為の相手方の数及び市場における地位、(iv)当該行為が行為の相手方の事業活動に及ぼす影響(行為の程度・態様等)を総合的に考慮して判断することになるが、「有力事業者」に該当するかの判断では、シェアが10%以上又は上位3位以内かが一応の目安になるとされているため、これに該当する事業者は特に注意が必要である。
②差別対価・取引条件等の差別取扱い 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けることは禁止されている(第3項)。また、不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすることは禁止されている(第4項)。両者とも取引の条件や実施に係る不当な差別を規制するものであるが、前者の差別対価の相手方は事業者に限られず、後者の取引条件等の差別取扱いの相手方は事業者に限定される。
③不当廉売 正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為は禁止されている(第6項)。「商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価」か否かは、小売業の場合、値引きやリベート等を考慮に入れた実質的な仕入価格を下回っているかどうかが基準となる。但し、公正な競争手段としての安売り、瑕疵のある商品や季節商品、生鮮食料品の処分等、正当な理由がある場合は、実質的仕入価格を下回る価格で販売したとしても違法とはならない。不当廉売に関しては、「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」や、酒類、ガソリン等及び家庭用電気製品を対象とするガイドラインもあるため、詳細についてはこれらのガイドライン等を参照されたい。
④抱き合わせ販売等 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制することは禁止されている(第10項)。これに該当する類型には、不必要な従たる商品や役務の購入を強要する場合と、主たる商品に従たる商品を抱き合わせることによって、従たる商品の市場において、競争者を排除する場合の2種類があるとされる。但し、主たる商品に従たる商品の受入を強制する力がない場合や、両商品が一体化している場合等には、抱き合わせ販売等に該当しない。
⑤排他条件付取引 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあることは禁止されている(第11項)。その形態には、排他的に供給する場合と、排他的に供給を受ける場合がある。これに該当するのは競争者排除のおそれがある場合に限られ、その判断にあたっては有力事業者によって行われるかがひとつのポイントとなる。
⑥再販売価格の拘束 自己の供給する商品を購入する相手方に対して、正当な理由がないのに、その商品供給の条件として再販売価格を拘束する条件を付けること(当該相手方による商品の販売価格を拘束する場合や、当該相手方から更に商品を購入した事業者による販売価格を拘束するよう義務付ける場合)は禁止されている(第12項)。但し、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ及び音楽用CDの6品目はかかる拘束を受けない。もっとも、DVD等の独占禁止法の適用が除外されない商品と上記6品目を併せたセット商品は、原則どおり再販売価格の拘束が禁止されるため注意が必要である。なお、販売代理店契約には大きく分けて、供給者と販売代理店、販売代理店と顧客との間でそれぞれ売買契約が成立する売買型と、供給者と顧客との間で売買契約が成立し、販売代理店はその仲介を行う仲介型の2種類があるところ(「販売代理店契約の留意点(1)」(第4回配信)(1)参照)、後者の仲介型の場合には、販売代理店の顧客に対する販売は再販売には該当しないが、前者の売買型の場合には、再販売価格の拘束が問題となる可能性があるため、ご留意いただきたい。
⑦拘束条件付取引 ⑤及び⑥に該当する行為のほか、相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引することは禁止されている(第13項)。その具体例としては、割り当てられた地域以外での販売を制限すること、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること、商品の横流しを禁止すること、安売業者への販売を禁止すること、商品説明の義務付けや広告の制限など販売方法を限定すること等、販売地域や販売方法等を不当に拘束する場合が挙げられる。
⑧優越的地位の濫用 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、(i)継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること、(ii)継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること、(iii)相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること、(iv) (i)から(iii)までに該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること、又は(v)取引の相手方である会社に対し、当該会社の役員の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、又は自己の承認を受けさせることは禁止されている(第14項)。これらの具体例として、押し付け販売、協賛金や従業員派遣の強要、買い叩き、支払遅延、値引きの強要、返品等が挙げられる。ここで取引上優越した地位にある場合とは、AにとってBとの取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、BがAにとって著しく不利益な要請等を行っても、Aがこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、Bに対する取引依存度、Bの市場における地位、取引先変更の可能性、取引対象商品の需給関係等を総合的に考慮する。なお、下請代金支払遅延等防止法や前述の特殊指定においても、この優越的地位の濫用と同趣旨の規制が定められている。

不公正な取引方法に該当する場合は複数の項目にあてはまることも多いため、検討の際には慎重にご確認いただきたい。また、検討にあたっては、上述のガイドラインや「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」等の各種ガイドラインにもご留意いただきたい。

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