~ AZX Coffee Break Vol.9 〜
抽選で賞品を提供したり、購入者や来店者全員に金券を提供したりといった景品類の提供は、ベンチャー企業にとって有効な販売促進手段である。しかし、過大な景品類の提供は消費者の判断に悪影響を及ぼすおそれがあることから、景品表示法等によって規制されている。そこで今回は、この過大な景品類の提供に対する規制について概説する。
(1)景品表示法の概要 景品表示法第3条は、公正取引委員会は不当な顧客の誘引を防止するため必要なときに景品類の価額の最高額、総額、種類、提供の方法等を規制できる旨定める。具体的な規制の内容は公正取引委員会による告示等で規定されており、大別すると、全業種に横断的に適用される懸賞景品告示及び総付景品告示、並びに特定の業種にのみ適用される業種別告示の規制がある。また、業界の自主規制である公正競争規約によって規制される場合もある。以下では規制の対象となる景品類とは何かをまず検討し、次いで各規制の内容につき順次述べることとする。
(2)景品類とは何か 「景品類」とは、「顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。)に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、公正取引委員会が指定するもの」をいう(景品表示法第2条第1項)。以下これらの要件についてもう少し詳しく見ていく。
①顧客を誘引するための手段として 提供者の主観的意図やその企画の名目を問わず、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断される。また、新たな顧客の誘引に限らず、取引の継続又は取引量の増大を誘引するための手段も、「顧客を誘引するための手段」に含まれる(以上につき定義告示運用基準1)。
②自己の供給する商品又は役務の取引 この取引には自己が製造し又は販売する商品についての最終需要者に至るまでの全ての流通段階における取引が含まれる。例えば、商品Aを原材料として製造された商品Bの取引は、Aがその製造工程において変質し、AとBが別種の商品と認められる場合は、Aの供給業者にとって、「自己の供給する商品の取引」に当たらないが、B(例:瓶詰コーラ飲料)の原材料としてA(例:コーラ飲料の原液)が用いられていることがBの需要者に明らかな場合は、Bの取引は、Aの供給業者にとっても「自己の供給する商品の取引」に当たる。また、「取引」には、販売の他、賃貸、交換等も含まれる(以上につき定義告示運用基準3)。
③取引に附随して 取引付随性は景品表示法による規制の前提となる重要な要件である。取引に付随しない一般消費者に対する懸賞による金品等の提供(いわゆるオープン懸賞)は、かつて独占禁止法に基づき規制されていたが、当該規制は2006年に廃止されたため、現在は取引付随性のある景品類の提供のみが規制の対象となっている。(i)取引を条件として提供する場合、(ii)取引を条件としないものの、主に取引の相手方に対し提供する場合、(iii)取引の勧誘に際し提供する場合は、「取引に附随」する提供に当たる。複数の商品や役務を合わせて販売する場合には、一方が他方に付随する景品類であると評価される可能性があるため注意が必要であるが、組み合わせ販売が明らかな場合(例:ハンバーガーとドリンクのセット)、組み合わせ販売が商慣習となっている場合(例:乗用車とスペアタイヤ)や、組み合わせることにより独自の機能、効用を持つ1つの商品や役務になっている場合(例:パック旅行)は原則として取引に付随する景品類には該当しないものとされる。紹介者に対する謝礼は原則として「取引に附随」する提供に当たらないが、紹介者を購入者に限定する場合はこの限りではないとされるため、留意が必要である(以上につき定義告示運用基準4)。また、ホームページ上で実施される懸賞企画は、応募者を商品やサービスの購入者に限定している場合や購入しなければ正解やヒントが分からないような場合を除き、懸賞への参加が直ちに購入に繋がるわけではないことから、取引付随性を満たさないものとされているが(インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて1)、対象者をサービスの登録会員に限定している場合等は、サービスの有償性等も考慮の上、取引付随性の有無を慎重に検討する必要があると考えられる。この点、無料会員登録や資料請求のように、一連の過程において一切対価関係が発生しない場合には、「取引に附随」しない可能性が高いものの、銀行口座の開設やクレジットカード契約のように、後に対価関係が発生する場合には、「取引に附随」すると考えられるため、これらの場合にも慎重に取引附随性の有無を検討した方がよい。
④物品、金銭その他の経済上の利益 具体的に景品類になり得るものとして、(i)物品、土地、建物その他の工作物、(ii)金銭、金券、預金証書、当せん金附証票、公社債、株券、商品券その他の有価証券、(iii)饗応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)、及び(iv)便益、労務その他の役務が挙げられており(定義告示第1項)、事実上あらゆる形態の利益の供与が規制対象となる。事業者が特段の出費をせず提供できる物品等又は市販されていない物品等であっても、提供を受ける側から見て、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるものは、「経済上の利益」に含まれる。また、通常の価格よりも安く購入できる利益も、「経済上の利益」に含まれる。しかし、経済的対価を支払って取得すると認められないもの(例:表彰状)や、仕事の報酬等と認められる金品(例:モニターに対する相応の報酬)は、「経済上の利益」に含まれない(以上につき定義告示運用基準5)。
⑤景品類に該当しない経済上の利益 ①から④の要件を形式的に満たすとしても、正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益や、正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は、景品類に含まれない(定義告示第1項柱書但書)。この要件についても諸々の運用基準が定められているが、紙面の都合上詳細は割愛する。
(3)過大な景品類提供に対する規制 上記(2)の「景品類」に該当する場合には、下記①から③のような規制を受けることになる。
①懸賞景品告示 「懸賞」とは、くじその他偶然性を利用して定める方法、又は特定の行為の優劣若しくは正誤によって定める方法による景品類の提供をいう。かかる懸賞については、(i)提供する景品類の最高額は、懸賞に係る取引価額の20倍(但し上限10万円)を超えてはならず、(ii)景品類の総額は、懸賞に係る取引予定総額の2%を超えてはならないものとされる。ここで、景品類の額の算定は、景品類と同じものが市販されている場合は、市販の価格により、市販されていない場合は、提供者が入手した価格、類似品の市価等を勘案して、受領者がそれを通常購入することとしたときの価格により行われる(景品類の価額の算定基準1)。また、「取引価額」は、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額となり、購入額を問わない場合及び購入を条件としない場合は、ケースに応じて最低取引額とされる場合や100円とみなされる場合等がある。「取引予定総額」は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とされる。なお、いわゆるカード合わせの方法(例:菓子箱に1種類のカードが入っており、全種類を集めると景品類と引き換えられる。)を用いた懸賞による景品類の提供は、すぐに当たるように錯覚させ、方法自体に欺瞞性が強い等の理由から全面禁止されている。
②総付景品告示 一般消費者に対して懸賞によらないで提供する景品類(総付景品)の価額は、景品類の提供に係る取引価額の20%の金額(当該金額が200円未満の場合は200円)の範囲内であって、正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えてはならない(景品類及び取引価額の算定は上記①に同じである。)。但し、商品の販売や使用、役務の提供のため必要な物品やサービス(例:重量家具の配送)、見本や宣伝物(例:試供品)、自己との取引で用いられる割引券類(例:ポイント数に応じて割戻しを行うポイントカード)、及び開店披露、創業記念等の行事で提供する物品やサービスは、正常な商慣習に照らして適当と認められるものであれば、総付景品としての制限を受けない。
③業種別告示 懸賞景品告示及び総付景品告示に加えて、新聞業、雑誌業、不動産業、医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業という特定の業種のみに適用される告示もあるため、かかる業種に該当する場合には、その告示についても検討する必要がある。
(4)公正競争規約による規制 公正競争規約とは、景品表示法第12条の規定に基づき、事業者又は事業者団体が公正取引委員会の認定を受けて景品類又は表示に関する事項につき自主的に設定する業界のルールをいう。このように公正競争規約は民間の事業者等による自主規制であることから、公正競争規約に参加していない事業者には直接適用されないが、公正競争規約の内容が公正取引委員会の通達等において斟酌される場合があるため、いずれにしても公正競争規約のある業種の事業者はその内容を確認しておくべきと考えられる。
キャンペーンで景品類の提供を行うベンチャー企業も多く見受けられるが、その際には上記各規制に反しないかも慎重にご検討いただきたい。
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