~ AZX Coffee Break Vol.6 〜
ベンチャー企業がビジネスを行う場合、どのような業態であっても何らかの形で契約書を作成しているケースがほとんどである。契約書には、当該ベンチャー企業の権利を保護するだけに留まらず、取引金額や支払方法を明確にすることによって財務基盤安定化の確保に寄与するという効果がある。ある種の業界の中には慣例的に契約書を作成しないという事例もあるが、株式公開を前提とした場合、様々なリスクを排除するという意味で契約書を作成することは重要であると考える。
ところで、契約書作成後には印紙の貼付という税務上の問題が生じる。印紙税法自体は明治6年から施行されており広く一般にその存在を知られている税法ではあるが、いざ貼付という段階においては、その方法や必要性等について混乱が生じることも多い。そこで本稿では今一度印紙税法の概略について解説していきたい。
(1)印紙貼付の必要性 印紙が必要である文書を印紙税法では課税文書と呼び、その内容によって20種類に文書を区分して、それぞれ一律もしくは取引金額によって段階的に印紙税額が定められている。印紙税は、その課税文書に印紙を貼り付け消印をする方法によって納税するという極めて自主納税の性格が強い税金である。区分された文書には、株券や社債券のように法令等により形式がある程度定型化されているものから、契約書のように形式、内容等とも自由に作成できるものまでがある。このうち定型化されたものについては課税文書該当の要否について容易に判断することができるが、契約書のような非定型文書の場合には、その記載内容が課税文書に該当するかどうか否かを個別に判断しなければならない。その方法は文書の名称や全体的な評価によって決めるのではなく、その文書の記載事項について個別に検討し、その中に課税事項が一つでも含まれている場合には、その文書は課税文書となるので注意が必要である。
(2)印紙税法上の契約書 印紙税法では「契約書とは、契約証書、協定書、約定書、その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証する文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商習慣に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。」と規定されている(印紙税法別表第1の課税物件表の適用に関する通則5)。したがって、一般に考えられている契約書だけではなく、その記載内容によって契約の成立が証明されるものは全て印紙税法上の契約書に該当することになる。また、予約契約書や仮契約書、停止条件付の契約書等も全て課税対象となる契約書に該当することになることにも留意しておかなければならない。このように契約書については名称に関係なく課税文書の対象になる可能性が高いので、その記載事項について検討を行い最終的に印紙が必要かどうかを判断することになる。
(3)請負契約について ベンチャー企業が契約を締結する場合、特にコアとなるビジネスにおいては、その重要性が高い。例えばソフトウェア企業を想定しても、製造のためのシステム開発契約や製品販売のための代理店契約に関する契約書を作成する必要がある。ところで印紙税法では、先に述べたとおり課税文書を20のカテゴリーに分類しているが、ベンチャー企業のビジネスにおける契約書は第2号文書とよばれる請負契約に関するものが多くを占めている。つまり、契約書の記載内容が請負に該当すれば印紙が必要になるということである。
ここでいう請負とは民法632条に規定する請負のことをいい、当事者の一方が仕事の完成を約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約をいう。つまり、当該仕事の内容が特定されていて、その仕事を完成させなければ債務不履行責任を負うような関係にある契約をいうのである。実際の取引においては各種変形した混合契約と言われるものも多く、請負契約、委任契約、売買契約なのか判断が困難な場合もあるが、印紙税法では、1つの文書に2以上の号に掲げる事項が併記又は混合記載されている場合には、それぞれの号に該当する文書と規定されている(印紙税法別表第1の課税物件表の適用に関する通則2)。したがって、記載の一部に請負の事項が併記されていたり、請負とその他の事項が混然一体と記載された契約書は、印紙税法上は請負契約書に該当することになり、民法上例えば委任契約に近いといわれる混合契約であっても課税関係が生じることになる。ただし、請負とは仕事の完成と報酬の支払いとに対価関係があることが必要であるので、仕事の完成に関係なく報酬が支払われるような内容の契約では、請負契約に該当しないケースも多く、また当然ながら報酬が全く支払われない内容の契約は請負に該当しないために印紙の貼付は必要ない。
(4)契約書作成上の留意点(記載金額) 課税文書に該当する契約書は、その契約金額によって税率の異なるものや一定金額未満のものを非課税としているものがあるため、その点について留意していると節税につながるケースがある。例えばシステム開発において仕様の変更等があり契約金額の増額の変更契約書を作成するような場合では、下記のように取扱いが異なってくる。すなわち、同じ金額の変更でも変更前の金額と変更後の金額との差額のみを記載しているようなケースでは、その差額が課税の対象金額となるのに対して、原契約金額を併記していたり増額変更後の契約金額を記載しているケースでは、その契約金額全体の金額が課税対象となってしまうのである。また、システム開発後に保守契約やコンサルティング契約を締結するケースがあるが、こうした契約は一括の取引金額を定めるのではなく、月単位での報酬を記載している場合がほとんどである。印紙税法では、課税文書の記載金額について単価、数量、記号その他によりその契約金額等の計算をすることができるときは、その計算される金額を記載金額とすることとされている(印紙税法別表第1の課税物件表の適用に関する通則4のホ)ので、契約金額を月単位等で定めている契約書で契約期間の記載があるものは、当該金額に契約期間の月数等を乗じて算出した金額が記載金額となり、また契約期間の更新の定めがあるものについては、更新前の期間のみを算定の根拠としていることとし更新後の期間は含まないものとして取扱うこととされている(基本通達29)。したがって更新前期間をなるべく短期に設定する方が税務上は有利な取扱いとなる。印紙税額ばかりに気をとられて契約書の作成を行うことは本末転倒になってしまうので注意する必要があるが、作成上の留意点の一つとして理解していただけるとよいと考えている。
(5)契約書作成上の留意点(消費税等) 記載金額に関連して、契約書作成時に消費税及び地方消費税(以下、消費税等という。)を、どのように記載するべきかについても留意点の1つとしてあげることができる。印紙税法では、①不動産の譲渡等に関する契約書、②請負に関する契約書、③金銭又は有価証券の受取書を作成する場合、消費税等の金額が区分記載されている場合には、その金額を印紙税の対象金額に含めないこととされているからである(平8.11.25付課消4-56改正「消費税法の改正等に伴う印紙税の取扱いについて」)。したがって、特段の理由がない限り契約書記載の金額は消費税等を区分しその旨を記載しておくという作成方法を用いることが税務上有利になると考える。なお、消費税法の改正によって、平成16年4月以降は消費税相当額を含んだ支払総額の表示を義務付ける消費税総額表示制度が開始されているが、当該制度は不特定かつ多数の者に対する値札や広告等においてあらかじめ価格を表示する場合を対象としているので、一般的に契約書についてはその範囲に入っていないことを申し添えておく。
(文責:税理士 山田 啓之)
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