~ AZX Coffee Break Vol.6 〜
新株予約権付社債は、平成14年4月施行の商法改正前においては転換社債及び新株引受権付社債として規定されていた制度について、新株予約権制度が創設されたことに伴い整理されたものである。従来のベンチャー企業においては、分離型の新株引受権付社債を用いて新株引受権をインセンティブとして付与するという手法が多くとられてきていたが(いわゆる擬似ワラント)、分離型が予定されていない現在の新株予約権付社債においても、社債の堅実性と新株予約権の投機性を併有するものとして、今後ますます活用されていくであろうと考えられる。今回はまず、新株予約権付社債の概要について説明する。
(1)新株予約権付社債とは 新株予約権付社債とは、新株予約権が付された社債である。この新株予約権付社債については商法第341条ノ2以下に規定されており、平成14年4月施行の改正前の商法(以下「旧商法」という。)と異なり、新株予約権と社債を分離して譲渡することは予定されていない(商法第341条ノ2第4項)。そして、旧商法下の転換社債にあたるものとしては、この新株予約権付社債のうち①新株予約権の行使の請求があったときは社債の全額の償還に代えて新株予約権の行使に際して払い込むべき金額の払い込みがあったとみなされ(代用払込)、②社債の発行価額と新株予約権の行使に際して払い込むべき金額が同額であるものがこれに当たるとされている。この転換社債型の新株予約権付社債は、文献によっては代用払込型と記載されている場合もあるが、以下においては転換社債型新株予約権付社債と呼ぶこととする。
(2)新株予約権付社債の商法における位置付け 新株予約権付社債について、新株予約権に関する規定及び社債に関する規定も直接適用されるのかという点については、商法上以下のように整理されている。まず、新株予約権を付した特殊な社債として位置づけられるため、商法の第二編第四章第五節第三款の「新株予約権付社債」の特例の適用を受けるものの、同款に規定のない事項については、社債に関する規定が直接適用されることとなる(商法第341条ノ2第1項)。例えば社債管理会社を設置すべきか否かの判断は、社債についての商法第297条がそのまま適用されるため、同条に従い判断することとなる。これに対し、新株予約権付社債に付される新株予約権は、第五節第三款「新株予約権付社債に関する章」の適用を受けることとされたため(商法第341条ノ2第2項)、商法第280条ノ19第2項の「本法ニ別段ノ定アル場合」にあたるとして、第三節ノ三「新株予約権に関する章」の新株予約権に関する規定が直接適用されることはなく、第五節第三款「新株予約権社債に関する章」において、第三節ノ三「新株予約権に関する章」の規定を準用しているものについては、その限りで第三節ノ三「新株予約権に関する章」の規定が適用されることとなる。
(3)新株予約権付社債の特徴
①新株予約権と新株予約権付社債の異なる点 新株予約権と新株予約権付社債に付される新株予約権については、多くの点で共通するが、以下の点については異なる。新株予約権付社債の要項を作成する際において特に注意する必要がある。
ⅰ)譲渡制限について 新株予約権は商法上譲渡制限をつけることができるが(商法第280条ノ20第2項第8号)、商法第341条ノ3第1項第4号は上記商法第280条ノ20第2項第8号を準用しておらず、また、新株予約権付社債は債券が必ず発行され、譲渡が自由な社債に付されるものなので、譲渡制限をつけることはできないと解されている(原田晃治等「登記研究650」(平成14年3月号)61頁)。
ⅱ)証券の発行について 新株予約権は取締役会決議により請求があったときにのみ新株予約権証券を発行する旨定めることができるが(商法第280条ノ20第2項第9号)、新株予約権付社債は払込期日後遅滞なく社債券を発行しなければならない(商法第341条ノ8第1項)。
ⅲ)株式交換又は株式移転の場合の取扱い 完全子会社の新株予約権は一定の条件を満たせば完全親会社に承継させることができるが、新株予約権付社債は、承継させることができない(商法第352条第3項)。これは、新株予約権付社債の場合、債権たる性質を有するところ、債権者保護手続が存しない株式交換・株式移転では、これを承継させることは不適当だからである。
②旧商法下の新株引受権付社債と新株予約権付社債の異なる点 ベンチャー企業では、旧商法下において分離型の新株引受権付社債が発行された例が多いが、この分離型の新株引受権付社債と現行商法の新株予約権付社債は、新株予約権付社債が①分離型を認めておらず、②無記名式のみに限定している点が明文上明らかに異なるほか、旧商法下では、その決議内容が「各新株引受権付社債に付する新株引受権の内容」と抽象的に規定されていたのに対して、現行法では行使の条件、消却の条件等その具体的な決議内容を明確に規定されている点も異なる。また業務上の運用として旧商法下では社債権者の同意及び承諾条項、連帯保証人の規定等もすべて「新株引受権の内容」として決議している場合もあったようであるが、今後はこれらについては、新株予約権付社債の権利者と会社との間の契約等で対応することとするのが望ましいと考える。単なる契約内容にしておく場合であれば、その変更については、当事者間で合意すれば足りるのに対して、有価証券の内容として株主総会や取締役会で決議されている場合には、変更決議及び同時に引き受けた他の新株予約権付社債権者の同意が必要となるという問題が生じる可能性があるからである。
(4)新株予約権付社債の発行手続の概要
①取締役会発行決議(商法第341条ノ3第1項) 新株予約権付社債の具体的な発行は取締役会決議によってなされ、その取締役会の発行決議事項は、商法第341条ノ3第1項において規定されている。なお、株主以外の者に「特に有利な条件」をもって新株予約権付社債を発行する場合及び譲渡制限ある会社において株主割当以外の方法で新株予約権付社債を付与する場合においては、株主総会の特別決議が必要となる(商法第341条ノ3第3項、商法第341条ノ5第1項但書)。この「特に有利な条件」の概念の詳細については別稿において改めて述べることとする。
②新株予約権付社債の内容の公告等(商法第341条ノ15第4項、第280条ノ23) 新株予約権付社債を発行する場合には、払込期日の2週間前に、新株予約権付社債に付された新株予約権の内容、新株予約権の発行価額及び権利行使価額の理由(無償で発行するときはその理由)ならびに募集の方法について公告し、または株主に通知しなければならない。なお、この公告又は通知については、株主総会において有利発行の特別決議を行う場合においては条文上不要とされている(商法第341条ノ15第4項、商法第280条ノ24)。また、新株発行の場合の商法第280条ノ23については株主全員の同意があればかかる公告又は通知期間の短縮は可能であると解されており、新株予約権付社債の場合も同様の取扱いがなされているようである。
③新株予約権付社債の申込(商法第341条ノ6) 新株予約権付社債の申込は、商法第341条ノ6規定の事項を記載した新株予約権付社債申込証により申し込まなければならない。なお、特定の者が発行される新株予約権付社債の総額を契約により引き受けるときは、契約書中に新株予約権付社債申込証に記載すべき事項が記載されていれば、別に新株予約権付社債申込証を作成する必要はない(商法第341条ノ15第4項、第280条ノ28第5項)。
④新株予約権付社債の割当及び発行(商法第341条ノ15第4項、280条ノ28第4項、第341条ノ7第1項、商法第341条ノ8) 会社は、新株予約権付社債の申込をした者の中から、割当を受ける者及びこれに対して割り当てる新株予約権付社債の額を定め、これにより新株予約権付社債の割当を受けた者は、払込期日に社債及び新株予約権の発行価額の全額の払込をしなければならない。新株予約権付社債の効力発生日は、払込期日となると解されている。なお、この場合の払込において、債権による払込が認められるかという点については議論があり、新株予約権については、商法第280条ノ8に定める現物出資の規制の潜脱にあたるとしてこれを認めない見解も有力であるものの、社債については従来より債権による払込を認める見解が通説であることから、新株予約権付社債においても社債部分の払込につきこれを認める見解もある(商事法務1628号24頁以下。)また、会社は、払込期日後遅滞なく新株予約権付社債券を発行しなければならない。新株予約権付社債券の記載事項は、商法第341条ノ8に規定されている。
⑤新株予約権付社債の登記 新株予約権付社債を発行したときは、払込期日から本店所在地では2週間、支店所在地では3週間以内に新株予約権付社債に付された新株予約権の登記をしなければならない(商法第341条ノ10)。商法は社債の登記を要求していないので、新株予約権付社債に付された新株予約権部分についてのみ登記をすべきこととしたものである。
(次号へ続く)
(文責:弁護士 雨宮 美季)
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