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新株予約権の設計上の留意点

~ AZX Coffee Break Vol.2 〜

株式公開を目指すほとんどのベンチャー企業が、その資本政策の過程において、従業員へのインセンティブ、経営陣の潜在的な持株比率の維持等を目的として新株予約権を発行している。従来のワラント(分離型新株引受権附社債の新株引受権)及びストックオプションに替えて新株予約権を規定した平成14年4月1日施行の商法改正後、1年半以上経過し、実務上の取扱いも落ち着いてきた感があるため、本稿では、新株予約権自体の解説は省略し、新株予約権の設計にあたり実務上特に留意しておくべき点を概説する。

(1)要項と割当契約書 新株予約権は、新株予約権証券の発行が規定され基本的には譲渡可能な有価証券として規定されている。そのため、有価証券の内容となる「要項」をまず定める必要がある。有価証券の内容である「要項」は、新株予約権が誰に譲渡されても適用されるものである。他方、新株予約権の付与にあたっては、通常その割当に関する契約(以下「割当契約」という。)が締結される。これは商法上要求されているものではないが、税制適格を定める租税特別措置法においては、割当契約の締結が前提とされている。この割当契約は契約当事者間において債権的効力を有するものに過ぎず、新株予約権を譲り受けた者に当然に承継されるものではない。新株予約権の設計にあたっては、どこまでを有価証券である新株予約権の内容としての「要項」に定め、どの点を単なる会社と新株予約権者の間の債権的効力に過ぎない割当契約に定めるべきかを検討する必要がある。なお、税制適格に関する定めは租税特別措置法において割当契約に定めるべきことが規定されている。旧商法下で発行が認められていたストックオプションは有価証券ではなく、そもそも譲渡不能であったため、契約のみで付与が行われていた。そのためか、新株予約権を発行しているベンチャー企業の書類を見るとたまに単に新株予約権の割当に関する契約のみを決議している例が見受けられるが、上述のとおり、有価証券としての内容である要項と新株予約権者と会社との間の債権的効力しか有しない契約は本来性質が異なるものであるため、両者は分けて決議しておくのが明確性の見地から望ましい。

(2)新株予約権の数 商法上、新株予約権の目的たる株式数を定め、新株予約権を複数に分割して発行する場合にはその総数を規定する。それに伴い、新株予約権1個あたりの目的となる株式数も定めるのが通例である。新株予約権1個あたりの目的となる株式数を複数とすることも可能であるが、実務上は割当数等の柔軟性を確保するため新株予約権1個の目的となる株式数は1株と定めるのが通例である。新株予約権の目的たる株式の数等については、株式分割等の一定の事由が生じた場合の調整規定を入れるのが通常である。なお、株式の譲渡制限が定款で定められている会社は新株予約権の発行につき株主総会特別決議が要求され、ストックオプション目的の新株予約権の発行の場合、発行価額を無償とする関係上有利発行として株主総会特別決議を経ておくことが無難であることから、ベンチャー企業の新株予約権の発行については通常株主総会決議が行われる。この株主総会決議で発行できる新株予約権の「枠」を設定しておき、1年以内に順次取締役会に基づき新株予約権を発行していく形態も可能である。

(3)発行価額と払込価額 新株予約権については、「発行価額」と「払込価額」という二つの価額が設定される。発行価額は、新株予約権の発行を受けるための対価であり、ストックオプション目的の場合は通常無償とされる。払込価額は、新株予約権を行使して新株の発行を受けるために払い込むべき価額である。税制適格を受けるためには、発行価額が無償であること、払込価額が割当契約締結時の時価以上であることが要求される。払込価額については、株式分割等の一定の事由が生じた場合の調整規定を入れるのが通常である。なお、どのような場合に有利発行として株主総会特別決議が必要であるかという点に関連して、新株予約権の価値はブラック・ショールズ・モデル等で算定するべきであるとする見解が学説上定着しつつあるが、未公開会社であるベンチャー企業の新株予約権の価値の算定はかなり困難であるのが現状である。

(4)行使期間 行使期間については、商法上の制限はないが、税制適格にする場合には付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過するまでの期間としなければならない。新株予約権の付与後、段階的に行使できる株式数が増えていくといういわゆるベスティングを定めることがあるが、このベスティングは付与対象者毎に条件が異なることが多く、要項で定めると異なる種類の有価証券として別々に発行せざるを得なくなるため、割当契約において規定するのが通例である。なお、ベスティングにあたっては、税制適格に関する制限や株式公開に伴うロックアップなどをどう織り込むかについても考慮するのが通常である。

(5)行使条件及び消却事由 行使条件と消却事由は商法上取締役会決議事項とされ、その内容が明確である限り基本的には自由に設計できる。これに関して注意しておくべき点としては、新株予約権の消却については、取締役会決議、公告、通知等が商法上要求されており、消却事由の発生から実際の消却までにはタイムラグが生じてしまうことである。そのため消却事由が発生したとしても、消却するまでの間に新株予約権が行使されるリスクがあるため、消却事由の不発生を行使条件として規定しておくのが賢明である。そうだとすると、行使を許すべきでない事由を全て消却事由として規定し、行使条件として消却事由の不発生を規定しておくという方法がスマートな規定の仕方となることが多い。なお、消却にかえて放棄という方法も考えられる。放棄の可否は一つの論点ではあるが、登記実務上は放棄に基づく新株予約権の消滅を認める方向に固まりつつあるようであるため、放棄についても規定しておくのが安全である。

(6)譲渡制限 商法上、新株予約権の譲渡につき取締役会の承認を要すると定めることが可能である。また、税制適格にするためには、割当契約において、新株予約権の譲渡禁止を定めなければならない。なお、新株予約権については、取締役会で譲渡を承認しない場合において、株式譲渡の場合のように別の買受人を指定する必要はない。

(7)新株予約権証券 新株予約権は基本的には有価証券として予定されているが、商法は、新株予約権証券は新株予約権の請求があるときに限り発行するとの定めを許容している。新株予約権の発行を請求する権利を放棄させておくことも考えられるが、そのような放棄が有効であるか確定した見解がないため、何らかの理由により新株予約権証券が発行された場合であっても、原則として新株予約権証券を会社に預託するべき旨を割当契約において定めることがある。

(8)配当起算日 新株予約権の行使により発行された新株の配当起算日については、商法上は、当該営業年度の始めと終わりのいずれに行使されたとみなしてもよいとされている。会社にとっては、当該営業年度の終わりとした方が有利であるとして、そのような定めをしている例が散見されるが、株式公開を予定しているベンチャー企業においては、必ず当該営業年度の始めに行使されたとみなしておく必要がある。これは、東京証券取引所の「株券上場審査基準の取扱い」2(1)aにおいて「新規上場申請者の上場申請に係る株式が単一銘柄であって、かつ、その上場申請に係る株式の数が当該株式の発行済株式数と同数であることを原則とする」と規定されていることとの関係で、通常の普通株式の配当起算日が営業年度の始めであるにもかかわらず、新株予約権の行使により発行された普通株式の配当起算日が営業年度の終わりであるとすると、例え同じ普通株式であってもその株式に関する権利関係が異なるということになり「単一銘柄」とはみなされないことになってしまうおそれがあるためである。

(9)株式交換及び株式移転 株式交換又は株式移転の場合に新株予約権を完全親会社に承継させるためには、予め、その旨、承継する新株予約権の目的たる完全親会社となる会社の株式の種類及び数等についての方針が新株予約権の発行決議において定められている必要がある。このような決議があっても、実際に株式交換等の場合において承継されるべきことが株式交換契約において規定されない場合には、承継は行われないが、かかる事前の決議がないとそもそも承継できなくなってしまうため、この点を決議することを検討しておくのが賢明である。

(文責:弁護士 後藤勝也)

 

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