はじめまして!弁護士の横田と申します。
2017年にAZXにジョインしましたが、実はAZXブログ初投稿になります。
今までなかなか情報発信をできていませんでしたが、昨年からパートナーに就任したこともあり、今年は少しずつ情報発信の場を増やしていければと思っております。
先日、YouTubeデビューもさせて頂きました! 慣れない動画撮影で拙い部分もございますが、投資を受ける際の流れについて説明していますので、関心を持って頂けましたらこちらをご覧頂けますと幸いです。
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さて、今回は、タイトルのとおり、いわゆる「No.1表示」(商品・サービスに関する広告等の表示物において、No.1や第1位であることなどを強調する表示を意味します。例:「顧客満足度 No.1」、「売上 No.1」。)をする際の注意点の概要について、ご説明できればと思います。
先日、「No.1表示」について合理的な根拠がないものとして不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)違反となる事例が近年相次いでいることを受け、消費者庁が実態調査を開始するとの報道がありました。
また、2024年11月頃までに施行予定の改正景表法(2023年5月17日公布)[1]の第48条においては、いわゆる優良誤認表示・有利誤認表示に係る規制(景表法第5条第1号及び第2号)の違反について、直罰規定(100万円以下の罰金)が設けられ、また、当該直罰規定は、法人の代表者や従業員等の行為者に加えて、法人も罰則の対象となっております(両罰規定。改正景表法第49条第1項第2号参照)。
そのため、この機会に改めて、既に行っている「No.1表示」や、これから行うことを検討されている「No.1表示」について、以下の留意点をご確認のうえ、適切な表示となっているかをご確認頂ければと思います。[2]
なお、景表法のそのほかの最近の改正として、いわゆる「ステマ規制」がありますが、そちらについては、先日の貝原弁護士のブログをご参照頂ければと思います。
景表法第5条第1号は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質等の内容について、一般消費者に対し、以下のいずれかを示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示(以下「優良誤認表示」といいます。)をすることを禁止しています。
(1) 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
(2) 事実に相違して同種又は類似の商品・サービスを供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
具体的には、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為が優良誤認表示に該当するとされています。[3]
「No.1表示」は、対象の商品・サービスが他の事業者の同種又は類似の商品・サービスよりも優良であることを示すものが多く、上記の優良誤認表示の該当性が主に問題になるため、以下では、優良誤認表示に係る規制との関係について、説明します(「安さNo.1」等の販売価額等の条件についての表示については、いわゆる有利誤認表示の該当性が問題になりますが、今回は有利誤認表示の該当性については割愛させて頂きます。)。
「No.1表示」は、同種の商品等の内容等に関して比較又は差別化に資するための明確な数値指標となるものであることから、一般消費者が商品等を選択するに際して、その選択に要する時間の短縮、商品等の内容等に係る情報収集コストの削減等の効果があり、一般的には一般消費者にとっては有益な情報と位置付けられます。
他方で、「No.1表示」は数値指標であるため、その客観性・正確性が特に重要であり、それを欠く場合には一般消費者の適正な商品等の選択を阻害するおそれがあると考えられています。[4]
「No.1表示」が優良誤認表示とならないためには、以下のいずれの要件も満たす必要があると考えられています。[5]
(1) 「No.1表示」の内容が客観的な調査に基づいていること (2) 調査結果を正確かつ適正に引用していること |
目次
客観的な調査といえるためには、以下のいずれかの方法で実施されていることが必要と考えられています。
① 当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること ② 社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること |
具体的には、例えば、「顧客満足度No.1」の表示については、以下のような場合には、客観的な調査とはいえないと考えられています。
① 顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合、又は調査対象者を自社に有利になるように選定するなど無作為に抽出されていない場合 ② 調査対象者数が統計的に客観性が十分確保されるほど多くない場合 ③ 自社に有利になるような調査項目を設定するなど調査方法の公平性を欠く場合 |
「No.1表示」に関して、客観的な調査を行った場合でも、①商品等の範囲、②地理的範囲、③調査期間・時点等の事項について、事実と異なる表示をすること、明瞭に表示しないこと(例えば、「No.1表示」と同一視野にはない場合、文字が小さくて見にくい場合、「No.1表示」が示す内容を理解することが困難な場合等)等によって、一般消費者に誤認されることになれば、景表法上問題となると考えられています。[7]
具体的には、上記①~③の事項について、公正取引委員会からは、望ましい表示の概要及び明瞭でない表示の例について、以下のように示されていますので、以下の【明瞭でない表示例】に該当することがないか等、注意が必要です。[8]
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、一般消費者が理解することができるようにNo.1表示の対象となる商品等の範囲を明瞭に表示すること。 【明瞭でない表示例】 ・「お客様満足度○○部門No.1」(注:○○は化粧品の種類、表示物は化粧品の通信販売に用いられているもの)(実際には、化粧品全体の○○部門における調査結果ではなく、通信販売される化粧品の○○部門における調査結果であった。) ・「○○健康食品シェアNo.1」(注:○○は特定の栄養成分等)(一般消費者にとって、○○健康商品の範囲を理解することは困難なものであった。) |
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、調査対象となった地域を、都道府県、市町村等の行政区画に基づいて明瞭に表示すること。 【明瞭でない表示例】 ・「〇〇の実績地域No.1」 |
No.1表示は、直近の調査結果に基づいて表示するとともに、No.1表示の根拠となる調査の対象となった期間・時点を明瞭に表示すること。 【明瞭でない表示例】 ・「○○販売数日本1位『△△雑誌』□年□月号より」(注:○○は商品の種類) ・「○○の数5年連続○○県下No.1」 |
「No.1表示」の根拠となる調査の出典が表示されていない場合には、「No.1表示」の根拠となる調査の客観性について、消費者が疑問を感じる可能性があることから、一般消費者に対する適正な情報提供の観点で、「No.1表示」の根拠となる調査の出典を具体的かつ明瞭に表示することが望ましいと考えられており、例えば、以下のような表示をすることが望ましいと考えられています。[9]
① ある調査会社が行った調査結果に基づく「No.1表示」の場合には、調査会社名及び調査の名称を表示すること ② ある雑誌に掲載されている調査結果に基づく「No.1表示」の場合には、雑誌名及び発行年月日、調査の名称(雑誌に掲載されている調査が調査会社に委託して行われたものであれば、雑誌名及び発行年月日と併せて実際に調査を行った調査会社名及び調査の名称)を表示すること |
「No.1表示」をするにあたり、その裏付けとなる調査をするために調査会社等に調査を依頼することもあるかと思いますが、その場合でも、当該調査を踏まえた表示が優良誤認表示である場合、広告主は、その責任(上記の改正景表法に基づく直罰規定等)を負うことになると考えられます。そのため、調査会社に対して調査を依頼する際は、客観的な調査となるよう、調査の対象者や調査の方法、調査項目等について適切に調査会社に依頼・確認をする必要があると考えられ、また、当該調査の結果を正確かつ適正に引用して表示を行う必要があると考えられる点に注意が必要です。
特に、「満足度No.1」等の広告表示について、近年消費者庁から措置命令を受ける事例が増加していることを受けて、一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会からは、大要、以下のような提言[10]がされており、調査方法等の検討をする際の考え方の参考になると考えます。
① 「満足度 No.1」等の表示を検討する際の裏付けの調査の対象者は、表示対象の商品やサービスの購入者・利用経験者に限定すべきこと ② イメージ調査を「満足度 No.1」等の表示の調査手法として用いないこと |
上記①は、商品・サービスの満足度を調査するためには、当該商品・サービスを購入・利用したことがある者でなければ「満足度」を測ることはできないと考えられ、また、上記②は、満足度が高い「イメージ」の調査では、「満足感が得られそう」という印象の調査に過ぎず、実際の商品・サービスの購入者・利用者の満足度を測るものとはいえないため、「満足度No.1」の調査として適切ではないと考えられますので、注意が必要と考えます。
以上は、消費者向けの商品・サービスに係る表示に関する景表法上の規制についてのご説明でしたが、事業者向けの商品・サービスに関する表示についても、客観的な調査に基づかない「No.1表示」や調査結果を正確かつ適正に引用していない「No.1表示」は、不正競争防止法第2条第20号に定める「誤認惹起行為」(=商品・サービス又はその広告に用いる書類やウェブサイト等に、その品質、内容等について誤認させるような表示をする行為等)として、「不正競争」に該当する可能性があると考えます。
誤認惹起行為に該当する場合は、第三者(不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者)から広告の差止請求(不正競争防止法第3条)をされる可能性や、損害賠償請求(同法第4条)をされる可能性が理論上は考えられ、また、「不正の目的」をもって行ったものと判断される場合には5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰則の対象にもなる(同法第21条第3項第1号)ため、事業者向けの商品・サービスに関する「No.1表示」についても、客観的な調査に基づく適切な表示であるかを注意する必要があると考えます。
[1]今回の景表法の改正では、直罰規定の新設のほか、確約手続の導入や課徴金制度における返戻金措置の弾力化などの事業者の自主的な取組の促進をするための規定等が設けられることとなります。
改正事項の概要は、下記の消費者庁が公表している資料をご参照ください。また、具体的な改正景表法の条文については下記の新旧対照条文をご参照頂ければと思います。
景品表示法の改正法案(概要)
https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/representation_cms212_230417_01.pdf
景品表示法の改正法案の新旧対照条文
https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/representation_cms212_230228_04.pdf
[2]広告規制としては、景表法のほかに、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や医療法に基づく規制等もありますが、今回は景表法について解説しております。
[3]消費者庁ウェブサイト「優良誤認とは」参照
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/misleading_representation
[4]平成20年6月13日付「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局。以下「No.1報告書」といいます。)6頁参照
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/cyosa/cyosa-hyoji/h20/08061302_files/08061302-01-hontai.pdf
なお、上記報告書は、平成21年9月に公正取引委員会から消費者庁に景表法が移管される前に公正取引員会から公表されたものになりますが、現在もこちらで示されている考え方が参考になると考えます。
[5]No.1報告書7頁参照
[6]No.1報告書7頁参照
[7]No.1報告書7頁参照
[8]平成20年6月13日付「No.1表示に関する実態調査について(概要)」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/cyosa/cyosa-hyoji/h20/08061302.html
[9]No.1報告書13頁
[10]2023年8月7日付「『満足度 No.1』等の広告表示の根拠とする調査に関する提言」(一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会・広告表示問題専門委員会)
https://www.jmra-net.or.jp/Portals/0/rule/20230807_001.pdf
「No.1表示」をすることは、自社の商品・サービスの優良性を訴求しやすく、有効なマーケティング手段かと思いますが、上記のように留意すべき点がいくつかあります。また、上記のように、消費者庁も近年の違反事例の増加を問題視し実態調査を開始するようであること、本年(2024年)に直罰規定が施行予定であることに加え、消費者庁の措置命令の対象となった場合は消費者庁のウェブサイトに公表され、(そうでなくてもSNS等で炎上し)レピュテーションリスクが生じることになる可能性があることを踏まえると、「No.1表示」を行う場合は適切な表示となるよう、十分に注意が必要と考えます。
現在行っている「No.1表示」や、これから「No.1表示」を行うことを検討するにあたり、ご不安な点やご不明な点等ございましたら、お気軽にご相談ください。