弁護士の石田です!
突如として夏のような暑さになったかと思えば、一転して寒くなったりと寒暖の変化が激しい日が続いていますが、皆さん体調管理はどうされていますか?私は気合です。というのは半分ウソで半分本当で(?)、ここ数年は、体調が芳しくないと感じた時はマヌカハニーを食すことで体調の維持、管理を図っています。マヌカハニーというのはハチミツの一種なのですが、通常のハチミツよりも高い抗菌作用があると言われており、オススメです。真実効果があるかは対照実験をしてみないと分かりませんが、ここ数年風邪で寝込んだことがないことからすれば、一定効果はあるのかなと思います。
気温の変化に負けず(?)、本年は法令改正もなかなかダイナミックです。改正法令は多岐に亘りますが、今回は、個人的に関心が高い労働法令の改正について記載します。なぜ労働法令に関心が高いかというと、企業法務の中でもヒトに関わる法分野であり、トラブルになると法理論だけでは解決できず、利害関係人の状況や心境を踏まえなければ適切な解決ができない分野であり、難しくもありますが、チャレンジングな分野であると考えるからです。
ちなみに、上記法改正を踏まえて、法改正前に他のプロフェッショナルの方々と共著で出版させて頂いていた労働条件通知書・労働契約書に関する書籍を、上記法改正を踏まえてアップデートし、先日改訂版が出版されました。以上、拙著の宣伝でした(笑)。
労働法令の直近の改正項目のうち、業種・業態にかかわらず、広くスタートアップに適用される可能性が高いものは以下で、いずれも本年4月1日施行です。
労働条件明示事項の追加
裁量労働制の対象範囲・導入手続等の厳格化
1.労働条件明示事項の追加
(1)概要
使用者は、労働契約の締結時や更新時に、労働者に対して賃金、労働時間等の労働条件を明示することとされているのですが(労働基準法(以下「労基法」といいます。)第15条、同法施行規則(以下「労規則」といいます。)第5条)、今回の法改正により明示すべき事項が追加されました。
追加された明示事項は、大別すると、全ての労働者に対する明示事項と、有期契約労働者に対する明示事項があり、それぞれの概要は以下の通りです[1]。
【出典:厚労省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」】
(2)全ての労働者に対する明示事項の追加
上記表中の「1.就業場所・業務の変更の範囲」については、全ての労働者に適用されるものです。改正前は、就業場所・業務内容について、労働契約の締結時又は更新時に雇入れ時の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」を明示すれば良かったのですが、改正により「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」を明示することとされ、雇入時だけでなく、雇入後の変更範囲まで記載することとされました(労規則第5条第1項第1号の3)。これによって将来の人事異動に伴う就業場所・業務内容の変更を考慮した上で、それらがカバーできるよう記載することが求められます。特に、十分な人的リソースや部門などもないスタートアップでは業務内容は変更される又はそもそも固定化されていない可能性があるので、留意する必要があると言えるでしょう。
(3)有期契約労働者に対する明示事項の追加
上記表中の「2.更新上限の有無と内容」、「3.無期転換申込機会、無期転換後の労働条件」は、有期労働契約に関するものです。前者は契約更新について、後者は無期転換について、使用者と有期契約労働者の認識に齟齬が生じないようにすることを目的として追加されたものです。実際の運用にあたっては法令だけでなく通達や告示等も確認しながら対応する必要がありますので、記載例やQ&Aも掲載されている厚労省のウェブサイトもご参照ください。
2.裁量労働制の対象範囲・導入手続等の厳格化
(1)裁量労働制の概要
裁量労働制は、大要、労働者に大きな裁量を与えて労働してもらうことが適当なケースにおいて、実際の労働時間にかかわらず、一定時間働いたとみなす制度です。このように通常の労働形態とは異なるため、その導入には一定の手続が必要とされます。そして、この裁量労働制には、専門業務型裁量労働制(以下「専門業務型」といいます。)と企画業務型裁量労働制(以下「企画業務型」といいます。)の2種が存在します。専門業務型は対象業務が法令上明確に定められているのに対し、企画業務型は対象業務が限定されていないものの、専門業務型に比べて導入手続が厳格で[2]、その意味では導入のハードルが高くなっています。
(2)専門業務型の対象業務の拡大
前述のとおり専門業務型の対象業務は法令上限定されているのですが、今回の改正によりM&Aアドバイザーが対象業務に追加されました。これによりいわゆるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)にも専門業務型が適用可能となりました。但し、適用にあたっては告示等にも具体的な要件が記載されているため、そちら[3]もご参照下さい。
(3)専門業務型における対象労働者の同意の要件化
これまでは専門業務型の導入にあたり一定の労使協定を締結すれば足り、対象労働者の個別同意までは必要とされていなかったのですが、今回の法改正により対象労働者の個別同意までが要件化されました。
(4)その他
上記(2)、(3)の改正以外にも、専門業務型だけでなく企画業務型にも関係する改正もありますので、詳細は厚労省の「裁量労働制の概要」をご確認下さい。
今回の改正の施行日である本年(2024年)4月1日を有効期限に含む、専門業務型の労使協定、企画業務型の労使委員会の決議が当該改正後の労基則等に適合しないものであるときは、施行日以降は無効となるとされているため[4]、新たに裁量労働制を導入しようとする場合だけでなく、改正後も継続して裁量労働制を実施する場合においても、改めて労使協定を締結し直す、労使委員会の決議を取り直すなどの対応を要することに注意する必要があります。
3.まとめ
今回は、人材採用を行う又は行っているスタートアップであれば適用される可能性がある労働法令の改正について取り扱いましたが、皆様は対応済みでしょうか。私個人としては「そんなの今更言われなくても知っているよ」と言って頂くのが一番安心するのですが、もし未対応の方がいらっしゃれば、厚労省のウェブサイト等を確認するほか、必要に応じて弁護士や社会保険労務士(社労士)等に相談することを検討された方がよいと考えます。弊所の弁護士、社労士でも対応可能ですので、何かお困りのことがあればお気軽にご相談下さい。
【脚注】
[1] 2024年4月1日以降に締結又は更新される労働契約が対象で、同年3月以前に締結又は更新された労働契約は対象外で、上記改正内容は適用されません(厚労省「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」Q1、Q2)。
[2] 企画業務型を導入するにあたっては、労基法第38条の4第1項各号に定める事項について「労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会」(いわゆる労使委員会)の5分の4以上の多数による決議を経たうえで、所轄労基署に届出を行う必要があります。
[3] 「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の施行等について(裁量労働制等)」(令和5年8月2日基発0802第7号)(以下「施行通達」といいます。)第2の第3項、第4項(1)参照。
なお、厚生労働省労働基準局「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」(令和5年8月作成、令和5年11月追加)のQ&Aの4-1から4-4も参考になりますので、あわせてご参照下さい。
[4] 施行通達第4の第1項。
執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
石田 学
Ishida, Gaku