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「投げ銭」導入の留意点

弁護士の貝原です!
AZXでは幅広くベンチャー/スタートアップビジネスに関わる皆さまを支援しておりますが、私が担当しているクライアントの皆さまはエンターテインメント業界に関わる方も多いです(元々私がeスポーツのプレイヤーであることや、姉がアニメの声優をしていることもあってか、eスポーツ、YouTuber、VTuber、声優関係等の案件も担当しております。)。

さて、今回は配信系のビジネスにおいては定着しつつある投げ銭についてのお話です。投げ銭は広く行われているものの、スキームを誤ると、一種の送金行為として「為替取引」に該当し、資金移動業の登録が必要となる場合もあります。資金移動業の登録はハードルが高く、ベンチャー/スタートアップとしては、資金移動業に当たらないようにすることが重要であると考えられます。

1.為替取引

「為替取引」を行うこととは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいうと解されています(最高裁平成13年3月12日第三小法廷決定)。

そのため、視聴者が配信者に対して投げ銭を行う行為が、銀行送金のように資金を移動する仕組みを利用して資金を移動していると評価された場合には、「為替取引」に当たり、資金移動業の登録が必要になると考えられます。ベンチャー/スタートアップとしては、資金移動業に当たらないようにすることが重要であると考えられる点は冒頭でご説明した通りです。

 

2.自家型前払式支払手段

配信系のビジネスにおいて行われている投げ銭について、多くのサービスでは「為替取引」に当たらないように設計するとともに、自家型前払式支払手段[i](特定のサービス等にのみ使用することができる前払式支払手段をいいます。配信系のサービスにおいて、投げ銭のために有償で購入することができるポイントやコインをイメージするとわかりやすいかもしれません。資金決済法第3条第4項)に当たるように設計することが多いと考えられます。資金移動業の登録を行う方法と比べて、自家型前払式支払手段の方が法的な規制についてベンチャー/スタートアップとしても対応が容易な内容となっているだけでなく、前払式支払手段であれば予め決済が完了しているため、リアルタイムかつインタラクティブな配信において、視聴者が意図したタイミングで投げ銭を投げることができる点でサービスとの相性も良いと考えられます。

自家型前払式支払手段は事前の届出は不要であるものの、毎年3月末及び9月末時点における未使用残高が1000万円を越える場合には、届出義務が生じます(資金決済法第5条)。また、毎年3月末及び9月末時点における未使用残高が1000万円を越える場合には、未使用残高の2分の1以上の額の発行保証金を供託する必要があります(資金決済法第14条)。

 

これらの義務への対応は、資金移動業の登録に比べれば現実的ではあるものの、少しでも負担を減らしたいと考える会社も多いと考えられます。そのような場合には、自家型前払式支払手段の有効期間を6ヶ月未満とすることにより、上記義務への適用除外となる前払式支払手段に設計する方法とすることも考えられます(資金決済法第4条第2号、資金決済に関する法律施行令第4条第2項)。ただし、アプリケーションストアによっては、そのアプリケーションストアで販売等するアプリ内で発行する自家型前払式支払手段の有効期間を無期限とするよう規約等で求めているケースもあるようですので、法令の確認だけでなく、自社で利用するアプリケーションストアの規約等の確認も行う必要があると考えられます。

 

また、自家型前払式支払手段となるよう設計し、有効期間を6ヶ月未満とした場合であっても、配信者が獲得した投げ銭が、所定の手数料を差し引いた上で当該配信者に支払われる場合には、「為替取引」に当たる可能性が否定できないことから、注意が必要となります(所定の送金手数料を差し引いた銀行送金に類似し、「為替取引」に当たる可能性が否定できないと考えられます。)。このような疑義を低減するため、配信者が獲得した投げ銭の額だけでなく、配信時の視聴者数、コメント数等の他の要素も加味した上で運営会社側の裁量に基づき配信者に対して報酬を支払う構成とすることが考えられます。

3.まとめ

以上、投げ銭について簡単にまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。AZXでは投げ銭に関するアドバイスや前払式支払手段、資金移動業等、資金決済法に関するご相談も承っておりますので、お気軽にご相談頂けますと幸いです!

<脚注>

[i] 自家型前払式支払手段の他にも、第三者型前払式支払手段があります。第三者型前払式支払手段とは、特定のサービス等以外にも、第三者が提供する物品やサービスの対価の支払いのためにも使用することができる前払式支払手段をいいます(運賃以外にもコンビニ等で使用することができる交通系ICをイメージするとわかりやすいかもしれません。)。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
貝原 怜太
Kaihara, Ryota
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弁護士 マネージングパートナー COO
菅原 稔
Sugawara, Minoru
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高橋 知洋
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