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下請法に関する運用基準の改正のポイント ~買いたたきの解釈の明確化~

2024/06/26
弁護士の平井宏典です!

先日投稿させていただいたフリーランス保護法のポイント解説の冒頭で、今年は情報発信の年にしていきたいと抱負を述べさせていただきましたが、先週、Gazelle Capitalさんと共同で発信しているYouTube企画である「スタートアップ法律相談所」の動画撮影を行ってきました。

今回は、資金調達の手法(特にエクイティ・ファイナンス)について、その概要を学べる動画を撮影いたしまして、2024年9月にYouTubeにアップされる予定ですので、少し先にはなりますが、是非ご覧いただけますと嬉しいです!

今後も様々な情報媒体を通じて、積極的に情報発信を続けていきたいと思います!

さて、今回は、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)に関する運用基準が、2024年5月27日に改正されましたので、改正のポイントについて、確認したいと思います。

1.下請法に関する運用基準の改正の概要

下請法は、親事業者と下請事業者との間の一定の取引について[1]、下請事業者を保護することを目的として、親事業者による下請事業者に対する行為を規制する法律になります。スタートアップにおいては、下請法上の下請事業者に該当する場合もありますが、親事業者に該当する場合もあり、いずれにしても、その該当性がよく問題となる法律です。

下請法上、親事業者による行為として禁止されているものの一つに、「買いたたき」というものがあります。

「買いたたき」とは、下請法上、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」とされていますが(同法第4条第1項第5号)、下請法の具体的な解釈を示す「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(以下「運用基準」といいます。)においては、これまでも「買いたたき」について一定の解釈を示していました(運用基準第4の5(1))。

今回の改正は、この下請法の運用基準に関するもので、公正取引委員会が2023年11月29日に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等を踏まえて、「買いたたき」の該当性の解釈について、明確化を図ったものになります。

2.「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」について

下請法で禁止されている「買いたたき」とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」をいうところ、「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいうとされています(運用基準第4の5(1))。

通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱うことと、これまでの運用基準では示されていました(運用基準の新旧対照表)。

今回改正された運用基準では、改正前の運用基準で定められていた次のアの額に加え、イの額についても、上記のような場合における「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱うことが明確化されました(運用基準の新旧対照表)。

 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額

今回追加されたイについては、昨今の様々なコストが著しく上昇している中において、下請代金の据置きについての一定の解釈が示されたものであり、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇を取引価格に反映したい下請事業者としては、親事業者との有益な交渉の材料になり得るものと考えます。

上記イにおける「経済の実態が反映されていると考えられる公表資料」としては、労務費については、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額やその上昇率などが例として挙げられており、原材料価格やエネルギーコストについては、例えば、「国内企業物価指数」や「石油製品価格調査」が該当するものとされています(パブリックコメントNo.26)。下請事業者としては、こういった公表資料を提示しながら親事業者との価格交渉を行うことが考えられます。

3.買いたたきの該当性判断について

買いたたきに該当するか否かは、下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断することとされています(運用基準第4の5(1))。

運用基準でも示されているとおり、下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうかについては、買いたたきの該当性判断において重要な要素となるものと考えられます。この点について、パブリックコメントにおいては、受注者からの労務費の転嫁の求めに対し、発注者の交渉担当者が社内決裁を通す必要等の理由で受注者の交渉担当者に対して労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を求めること自体は問題ないものの、価格交渉を行うための条件として、労務費上昇の理由の説明や根拠資料につき、公表資料に基づくものが提出されているにもかかわらず、これに加えて詳細なものや受注者のコスト構造に関わる内部情報まで求めることは、そのような情報を用意することが困難な受注者や取引先に開示したくないと考えている受注者に対しては、実質的に受注者からの価格転嫁に係る協議の要請を拒んでいるものと評価され得るところ、これらが示されないことにより明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることとされていますので、注意が必要です(パブリックコメントNo.34)。

4.まとめ

以上、2024年5月27日に改正された下請法に関する運用基準の改正ポイントについて説明させていただきましたが、いかがでしょうか。下請法については、適用される場面が意外に多く、適用対象である場合には、今回説明させていただいた買いたたきの禁止以外にも様々な規制が適用されますので、下請法の適用が問題となりそうな取引を行う場合には、下請法の適用があるかについて慎重に確認していただいた方がよいと考えます。

自らが締結しようとしている契約が、そもそも下請法の適用対象となるか、仮に下請法の適用対象となる場合には、下請法を遵守した内容となっているかについては専門家の確認が必要となるケースもありますので、弊所でのサポートが必要な場合やご不明な点があればお気軽にご連絡ください!

【脚注】

[1] 下請法は、適用の対象となる取引の範囲を、①取引当事者の資本金の区分と、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物委託、役務提供委託)の両面から定めています。具体的な内容については、公正取引委員会から公表されている「ポイント解説 下請法」が参考になります。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー
平井 宏典
Hirai, Kosuke
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Masubuchi, Yuichiro
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