ご無沙汰しております。弁護士の池田です。個人的なことで恐縮ですが、今年の10月で、弁護士生活10年目に入りました。色々と経験を積んできましたが、日々進化していくビジネスの世界では過去の経験だけで何とかなるものではなく、新しい知識の獲得とブラッシュアップが大切であることは弁護士1年目の頃と変わらないなと感じる毎日です。これからも最善のサービスを提供できるよう、頑張ってまいります。
さて、今回のテーマは、ファンドです。
「ファンドを作って投資したい!」
ベンチャー企業の仕事をしていると、投資を考えている方々からよく耳にするフレーズです。
ただ、「ファンド」が具体的にどういうものなのか、法律上どのような規制を受けるのかという点になると、曖昧な方も多いところです。
そこで、今回は「ファンド」の法律的な位置づけについて説明してみたいと思います。
目次
1. なぜファンドを利用するのか?
そもそも、投資にあたって、なぜファンドを利用するのでしょうか?
これは、ファンドという形態を利用することによって、自分以外の者からの資金の調達が可能となり、いわゆるレバレッジを効かせて、自分の資金だけで投資する場合よりも大きな利益を上げることができるようになるからです。
それでは、ファンドという形態を選択している理由はどこにあるのでしょうか?
レバレッジを効かせるということであれば、例えば、株式会社を作り、株を発行してお金を集め、その集めたお金で投資をするという方法もありえます。株式会社の作り方なら書籍も豊富にありますし、株式会社自体が一般的にも馴染みのある存在ですので、わざわざファンドというややこしそうな形態を選ぶ必要がないようにも思えます。
(1) ファンド選択の理由その1
ファンドという形態を選択する理由はいくつかありますが、主な理由の1つとして、ファンドは法人格を有しない形態として組成されるため、ファンド自体に税金がかからず、いわゆるパススルー課税となるため、税金面で有利であるという理由があります。
つまり、株式会社の場合は、投資の結果として得た収益について、株式会社の段階で課税を受け、さらに配当した株主においても課税されることになり、株式会社の段階と株主の段階の2段階で課税が発生することになります。
これに対して、ファンドの場合は、投資の結果として得た収益について、ファンドの段階では課税されず、ファンドから収益分配を受けた出資者の段階で課税されるだけであって、株式会社の場合のように2段階の課税にはなりません。
注:厳密には、実際にパススルー課税となるかは具体的な事情にもよる面があり、あらゆるファンドが必ずパススルー課税となるものではない点、ご注意ください。
(2) ファンド選択の理由その2
また、ファンドの場合は、投資の終了に伴うファンドの解散・清算を、株式会社の場合と比べて比較的簡単に行うことができます。そのため、ファンドは、一定期間の資産運用という投資活動に適した存在となっています。この点も、ファンドが投資活動に利用される理由となっています。
(3) ファンド選択の理由その3
さらに、ファンドにおける意思決定のやり方等、ファンドの設計面が、株式会社の場合と比べて比較的自由度が高いということも、理由の1つです。
2. ファンドの種類
次に、ファンドの法的な種類について説明します。
通常、投資に用いられるファンドは、法的に分類すると、3種類あります。民法上の組合、有限責任事業組合(LLP)、そして、投資事業有限責任組合(LPS)です。
これらのファンドの特徴を、業務執行の意思決定主体、出資者(=組合員)の責任の内容、登記の要否、根拠となる法律という観点から表にすると以下の通りです。
業務執行の意思決定主体 | 出資者の責任 | 登記 | 根拠法 | |
民法上の組合 | 組合員の過半数による決定(注1、2) | 無限責任 | 不要 | 民法 |
LLP | 総組合員の合意(注3) | 有限責任 | 必要 | 有限責任事業組合契約に関する法律 |
LPS | 無限責任組合員 | 無限責任と有限責任 | 必要 | 投資事業有限責任組合契約に関する法律 |
注1:「過半数」は、民法上は組合員の頭数によるが、組合契約の定めで出資額の過半数とする等、任意に設定することも可能。
注2:組合契約で定めた業務執行者に委任することも可能。
注3:但し、一定の事項を除き、総組合員の同意を不要とすることが可能。
(1) 民法上の組合
民法上の組合では、業務執行は各組合員が行えることが原則であり、組合員の過半数で業務執行についての意思決定をします。但し、特定の組合員又は第三者に対して業務執行の全てを委任することも可能です。
責任については、全ての組合員が無限責任を負います。無限責任とは、組合が債務を負った場合に、最終的には組合員が自分の財産を使ってでも債務を履行する責任を負うということです。
登記について、民法上の組合を作るために登記の必要はなく、全組合員の間で組合契約を締結すれば足ります。
(2) LLP
LLPでは、業務執行は、各組合員が行います。民法上の組合と異なる点として、重要な意思決定は総組合員の同意が必要であり、民法上の組合のように過半数での意思決定は認められていません。また、業務執行の一部を特定の組合員又は第三者に委任することは可能ですが、民法上の組合のように業務執行の全てを委任するということはできません。
責任については、全ての組合員は有限責任とされています。有限責任とは、株式会社と同様に、組合に対する出資額を限度とした責任しか負わず、それ以上の責任を負わないというものです。
登記について、LLPを作るためには、全組合員の間で組合契約を締結することに加えて、登記をする必要があります。
なお、登記には全出資者の名前と住所が載ることになります。出資者の中には、名前や住所が登記に載って開示されることを望まない方もいるかもしれませんので、登記の点は予め出資者に説明をしておいた方が良いでしょう。
(3) LPS
LPSでは、無限責任組合員(いわゆるGP)のみが業務執行を行うことができ、有限責任組合員(いわゆるLP)は業務執行を行うことができません。
責任については、無限責任組合員は無限責任を負い、有限責任組合員は有限責任のみを負うことになります。
登記について、LPSを作るためには、全組合員の間で組合契約を締結することに加えて、登記をする必要があります。
3. どのファンドを使えばよいか?
では、実際に投資を行う際、どのファンドを使えばよいでしょうか。
これは、想定しているファンドの規模や出資者の属性、さらには金融商品取引法との関係も考慮する必要があり、なかなか複雑なところです。
まず、前提として、ファンドを作って投資をするためには、原則として、金融商品取引法上の第二種金融商品取引業と投資運用業の登録が必要になります。
ファンドを作るためには出資者からお金を出してもらうことになりますので、出資者からのお金集めが必要となります。このお金集めのために、第二種金融商品取引業の登録が必要になります。
また、お金を集めてファンドを作った後に投資をするためには、投資運用業の登録が必要になります。
しかし、この第二種金融商品取引業と投資運用業の登録はかなりハードルが高く、すぐにできるというものではありません。できれば、この登録なしにファンドを作って投資ができれば便利です。
そこで、金融商品取引法上、いくつかの例外があります。
(1) 例外その1
まず、1つ目の例外として、全出資者がファンドの業務に関与する場合には、金融商品取引法の適用を受けないとすることができます。
但し、多数の出資者が想定される場合は、この例外を使うことは難しいかもしれません。例えば、40人の出資者がいた場合、40人全員が業務に関与することはなかなか難しいと考えられます。現実的には、出資者の数が数人程度のケースが想定されます。
(2) 例外その2
2つ目の例外として、適格機関投資家等特例業務の届出を行えば、第二種金融商品取引業と投資運用業の登録をすることなく、ファンドを作って投資を行うことが可能になります。適格機関投資家等特例業務の届出自体は、第二種金融商品取引業や投資運用業の登録に比べれば、はるかにハードルの低い手続です。
但し、出資者の構成に制限があり、1名以上の適格機関投資家の出資(典型的には銀行等の金融機関です。ただ、個人でも届出により適格機関投資家となっているケースもあり、ベンチャー業界でも適格機関投資家として色々なファンドに出資されている方もいます。)と、それ以外の出資者の数を49名以下とする必要があります。上記の例外(1)のように出資者の人数を数人程度に抑える必要はありませんが、適格機関投資家に出資してもらわなければなりません。
※適格機関投資家等特例業務については、近時、金融商品取引法が改正され、出資者の範囲に対する制限等が設けられる予定です。
以上の例外を前提とすると、民法上の組合、LLP、LPSの利用については、それぞれ以下のようなケースが向いていると言えます。
・民法上の組合
民法上の組合は例外(1)の利用が考えられます。例外(2)については、民法上の組合は、出資者が無限責任を負うため、一般的には適格機関投資家(特に、金融機関や上場会社等)からの出資は難しいと考えられ、最低1名の適格機関投資家からの出資が必須となる例外(2)として使われるケースは少なくなっています。
注意点としては、例外(1)の利用が前提となるため、出資者の数がごく少数となることが予想され、規模の大きなファンドを作ることは難しいと考えられる点です(出資者の方が全員お金持ちであれば、規模を大きくすることもできるかもしれませんが。)。また、全出資者が業務執行に関与するため、出資者を慎重に選ぶ必要があります。
・LLP
LLPも、例外(1)の利用が考えられます。例外(2)は、特定の者のみが組合の業務執行を行うことが想定される制度であるところ、LLPの場合は、法律上、業務執行の意思決定が、原則として、総組合員の同意とされていて、例外(2)が使いにくいからです。
注意点としては、民法上の組合と同様に、出資者の数がごく少数となることが予想されるため、規模の大きなファンドにすることは難しいかもしれません。また、有限責任という点では民法上の組合よりも出資者に有利ですが、登記に名前と住所が載る点で出資者を選ぶ可能性があります。
・LPS
LPSは、例外(2)の利用が考えられます。無限責任組合員のみが業務執行権限を有する点で、そもそも例外(1)は使えません。他方、出資者の責任は有限責任であり、また、無限責任組合員以外は登記に名前と住所が載ることもないため、民法上の組合やLLPよりも出資者を選ばないと考えられます。
実際に、日本のベンチャーキャピタルの大半は、この適格機関投資家等特例業務を利用してLPSの形態でファンドを組成し、投資活動を行っています。
4. CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の利用
さて、最近では、ベンチャーキャピタルだけでなく、一般の事業会社が投資活動を目的として、自社の子会社としてベンチャーキャピタルを設立し、そのベンチャーキャピタルにファンドを組成させて投資活動を行う例が増えています。いわゆるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と呼ばれるものです。
最後に、このCVCの特徴について、直接投資の場合やVCのファンドにLP出資をして投資をする場合との違いという観点から、簡単に説明させて頂きます。
(1) 目的
CVCの目的の一つは、その親会社との事業シナジーを考慮した投資活動を行うという点にあります。すなわち、CVCの場合は、CVC(又は親会社)が投資先の決定権限を持ちますので、親会社との事業シナジーの観点から投資先を選んで投資を実行することが可能です(直接投資の場合も同じです。)。
通常のVCのファンドでの投資の場合は、ファンドのリターンを最大の目的として投資活動を行い、LPの事業とのシナジーを主目的とした投資活動を行うものではないため、単にLP出資をしているだけではLP自体の事業とのシナジーは生まれにくいことになります(但し、LPに対して情報開示を行ったり、LPに投資機会を提供したりする等の特約を設けてファンドを組成するケースもあります。)。
(2) 連結
VCのファンドにLP出資をして投資をするケースであれば、通常は、投資先が連結対象となることはほとんどないと考えられます。他方、直接投資やCVCでファンドを組成して投資する場合、投資先に対する出資比率にもよりますが、連結の対象となる可能性を特に慎重に検討する必要があります。
(3) 人材
通常の事業会社において直接投資やCVCによる投資活動を行う場合、そのための人材を新たに採用することが想定されます。
この場合に、直接投資のケースですと、事業会社自体において人材を採用することになるため、給与や勤務体系等を既存の従業員のものと整合的に組み立てる必要があります。
他方、CVCであれば、親会社である事業会社とは別の会社ですので、CVCで独自の給与や勤務体系を設定して人材を採用することが比較的容易となります。
なお、LP出資の場合は、単にVCのファンドに投資をするだけであるため、通常は、そのための人材を新たに採用する例はほとんどないと考えられます。
弁護士 パートナー
言葉としてはよく聞きますが、ファンドの法的な位置づけは? 実際に投資をするために規制はあるのか?等の法律面については、漠然としたイメージだけの方も多いのではないでしょうか。
今回は、この漠然としたイメージができるだけクリアになるように法的に解説してみました。
このブログが、ファンドに対する理解を深め、健全な投資活動が活発化することの一助になれば幸いです。