お久しぶりです!
弁護士の高田です。
約1年ぶりの登場となりますが、この1年間、私生活では、入籍、結婚式等の数々の大イベントがあり、とても短く感じました。式で上映するプロフィールムービー作成のため、過去の写真を整理したりと、自分の人生を振り返る良い機会にもなりました。小さな頃の将来の夢は、『お笑い芸人』だったようです。もし、その道を選んでいたら、全く売れていなかっただろうと思います。良かった。。
さて、前回のブログでファンド組成上の留意点をご紹介したことに引き続き、今回以降は、組合契約の内容やその運用について、実務上問題となることが多い点を中心に解説していきたいと思います。
今回のテーマは、「利益相反行為」です。
この「利益相反行為」は、GPによるファンド財産の運用行為に関する問題点の中でも、実務上の重要論点となることが多く、また、近時の法改正の影響もあるため、取り上げることにしました。
なお、以下では、前回同様、LPS(投資事業有限責任組合)の形式で有限責任組合員(LP)から出資金を集め、無限責任組合員(GP)がその資金を運用することを想定します。また、上記のようなGPの運用行為が、金商法に定める適格機関投資家等特例業務(以下「特例業務」)として行われることを前提とします。
目次
1. 「利益相反行為」とは?
GPは、各LPから出資金を預かっている立場にありますので、その管理や運用について、LPに対して善管注意義務を負担しています。そして、そのような善管注意義務の一態様として、GPは、ファンド全体の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図る行為(=利益相反行為)を行ってはならない義務を負担すると考えられます。
一概に「利益相反行為」といってもその態様は様々ですが、ファンドの運営を想定した場合、典型的には以下のようなケースが想定されます。
(1)「自己取引」「ファンド間取引」
例えば、GP(=X社)がファンドAを運営している場合、ファンドAが保有している株式を、ファンドAからXに譲渡するとします。この場合、ファンドAにおいて当該株式の売却価格を決定するのはGPであるXですが、Xとしては安い価格で当該株式を譲り受けた方が自己の利益にかなうため、このような取引には、当該取引が不公正な価格でなされることによりファンドAの組合財産が不当に減少してしまうリスクが存在することになります。なお、このように、ファンドとGPが取引を行うケースを、一般的に、「自己取引」といいます。
同様に、X社がファンドAとは別のファンドBを運営している場合、ファンドAが保有している株式をファンドBに譲渡する場合にも、上記と同様の利益相反関係が生じることになります。このように、同一のGPが運営するファンド同士が取引を行うケースを、一般的に、「ファンド間取引」といったりします。実務的には、ファンドの満期が迫っている状況下で、同一GPの別ファンドに有価証券を譲渡するといった取引が典型かと思います。
特例業務としてファンドの運用を行う場合、以上のような、自己取引及びファンド間取引については、従前は法令上の規制がなく、契約上、どの範囲でかかる取引を許容するか、という点が実務上問題となりました。ところが、2016年3月施行の改正法以後は、法令上、かかる自己取引やファンド間取引が制約されることとなったので、留意が必要です。(→下記2.参照)
(2) 競合ファンド等の運営
例えば、GP(=X社)がファンドAを運営している状況下で、Xが別ファンドBを組成したとします。ここで、ファンドA及びファンドBが同じような業種・地域のベンチャー企業に投資を行うことを想定していたとすると、ファンドA及びファンドBで、投資対象が競合してしまいます。
ところが、ファンドAの運営もファンドBの運営も同一のXが行いますので、Xの一存で、ファンドBのみに偏った運営がなされると、ファンドAのLPの利益は損なわれてしまいます。
そこで、このようなケースを想定して、組合契約上、(i)類似又は同種の事業を目的とする別ファンドを運営することを許容するかどうか、(ii)許容する場合でも、それらの両ファンドでどのように投資機会を配分するか、という問題が生じ得ることとなります。(→下記3.参照)
2. 自己取引及びファンド間取引
まず、上記1(1)で述べた、「自己取引」や「ファンド間取引」について説明します。
(1)モデル契約上の記載
組合契約に関しては、経産省の開示するモデル契約の内容が参照されることが多いので、まずはこの内容を確認しておきます。
<モデル契約第18条第6項>
無限責任組合員は、自己又は第三者のために本組合と取引をすることができない。但し、[次に掲げる取引については、](ⅰ)諮問委員会の委員の[ ]分の[ ]以上がかかる取引を承認した場合又は(ⅱ)総有限責任組合員の出資口数の合計の[ ]分の[ ]以上に相当する出資口数を有する有限責任組合員がかかる取引を承認した場合[、また、次に掲げる取引以外の取引については、事前に諮問委員会又は有限責任組合員に意見陳述又は助言の提供の機会を与えた場合、]無限責任組合員は、自己又は第三者のために本組合と取引をすることができる。無限責任組合員は、かかる承認を求める場合[又は意見陳述若しくは助言の機会を与える場合]には、諮問委員会の委員又は有限責任組合員に対し、あらかじめ書面により当該取引の内容を通知するものとする。[なお、無限責任組合員は、本項に基づく諮問委員会の委員又は有限責任組合員の意見又は助言に拘束されるものではない。]
以上のとおり、モデル契約では、原則として自己取引やファンド間取引が禁止されると規定し(上記第1文)、例外的にLPの一定割合の同意(3分の2以上や過半数等といった割合を定めることが一般的です。)等があればこれらを実行することが可能であると定めていることが分かります(上記但書)。すなわち、自己取引やファンド間取引は、ファンドのLPの利益を損なうリスクがあるところ、一定割合以上のLPが同意するのであれば、実行可能であるとする趣旨と考えられます。
(2) 平成28年3月施行の金商法改正の影響
上記のモデル契約は、平成28年3月施行の金商法改正前に作成されたものであり、特例業務をとしてファンドを運営するGPに関して、自己取引やファンド間取引を行うことにつき金商法上の規制が存在しないことを前提としています。法改正後の原則的なルールは以下の通りであり、法改正以後は、この点を踏まえて契約書の内容を調整する必要があります。
① 自己取引及びファンド間取引は原則的に禁止される。
② 例外として、法令の要件に該当する場合は許容される。
(i) 自己取引は、例えば、以下の場合は実行可能。
- 当該自己取引について、【取引の内容及び取引を行おうとする理由をLPに説明】+【全LPの同意の取得】[1]+【取引が合理的な方法により算出した価額で行われること】の3要件を満たす場合。
(ii) ファンド間取引は、例えば、以下の場合[2]は実行可能。
- 当該ファンド間取引について、【取引の内容及び取引を行おうとする理由を全LPに説明】+【全LPの同意の取得】+【取引が合理的な方法により算出した価額で行われること】の3要件を満たす場合。
- ベンチャーファンド特例に該当するファンドにおいて、【取引の内容及び理由を全LPに説明】+【LPが保有する全てのファンド持分の3分の2を保有するLPから同意が得られた場合】の要件を満たす場合。
上記で注目すべきは、ベンチャーファンド特例に該当しないケースを前提とすると、自己取引やファンド間取引は、原則として、全LPの同意を得なければ実施することができないという点です。そのため、法改正以後は、過半数等の一定割合のLPの同意により自己取引やファンド間取引を承認するという仕組みは取れず、その都度、全LPから同意を取得しなければならないこととなり、実務上の負担も生じることになります。
以上を踏まえ、改正法以後は、契約上も、上記の法規制と平仄を合わせた形で自己取引及びファンド間取引の実施が可能な範囲を規定する方が望ましいです。
(3) 補足1:ベンチャーファンド特例
上記(2)②(ii)で述べたとおり、一定の要件[3]を満たすベンチャーファンドに関しては、ファンド間取引がより緩やかな要件で許容されるメリットがあります。
そのため、このような利益相反取引規制の点も、ベンチャーファンド特例に該当するようにファンド設計するかの一つの判断要素となり得ます。
(4) 補足2:経過措置
上記のような改正法による自己取引及びファンド間取引の規制は、原則として、平成28年3月以降に組成されたファンドだけでなく、それ以前に組成されたファンドについても適用される点に留意が必要です。そのため、「LPの過半数の同意があればファンド間取引できる、と契約書に書いてあるから大丈夫だ」ということではありません。
一方で、改正法施行前に組成されていたファンドが、改正法施行時にベンチャーファンドの要件[4]を満たしていた場合には、ファンド間取引に関する規制が適用されないとの経過措置が定められています。
そのため、旧法下で組成されたファンドに関して、ファンド間取引の実行の必要があり、全LPの同意の取得が難しい場合、上記の経過措置の適用がないかを検討する余地もあります。
なお、上記(3)に記載のベンチャーファンド特例の場合の例外や上記経過措置は、ファンド間取引に関してのみ適用される例外であり、自己取引についてはそのような例外規定が存在しない点、念のためご留意ください。[5]
3. 競合ファンド等の運営
次に、GPが競合ファンド等を運営することに関する問題点について説明します。なお、この点は、自己取引やファンド間取引と同様の法令上の規制があるわけではないことから、組合契約上、①どの範囲で競合ファンド等の運営を許容するか、②仮に許容するとして投資機会をどのように配分するか、という点が問題となります。
(1) 競合ファンド運営の許否
まず、モデル契約の記載を確認すると、以下のような規定となっています。
<モデル契約第18条第2項>
無限責任組合員は、(ⅰ)投資総額並びに本組合の費用及び管理報酬にあてられた出資履行金額の合計額が総組合員の出資約束金額の合計額の[ ]分の[ ]に達する時、又は(ⅱ)出資約束期間の満了時のいずれか早い時までの間は、本組合の事業と同種又は類似の事業を行うこと、及び本組合の事業と同種又は類似の事業を目的とする他の組合、会社又はその他の団体(以下「承継ファンド」という。)の無限責任組合員、ジェネラル・パートナー、無限責任社員、取締役又は業務執行者その他これらに類似する役職として当該団体の管理及び運営を行うことができないものとする。但し、(ⅰ)諮問委員会の委員の[ ]分の[ ]以上がかかる行為を承認した場合又は(ⅱ)総有限責任組合員の出資口数の[ ]分の[ ]以上に相当する出資口数を有する有限責任組合員がかかる行為を承認した場合はこの限りではない。
上記のように、モデル契約では、①出資を受けた額のうち投資活動に用いられた金額が一定額となるまで、又は、②ファンド設立から一定期間が経過するまでは、LPの承諾等が無い限り、競合するファンド等を組成・運用することができない旨規定されています。
上記①が要件となっているのは、ファンド財産の投資活動がある程度完了しているのであれば、そもそも、前述のような別ファンドとの投資機会の配分の問題が生じにくいとの趣旨と考えられ、上記②が要件となっているのは、少なくとも一定期間の間はGPにおいて当該ファンドの運営(投資活動)に専念してもらいたい、との趣旨と考えられます。
契約実務上は、上記のように『投資活動がある程度完了した』といえる場合を契約上の条件として明記する場合に、どのような数値を用いるか(例えば費用や管理報酬等に充てられた額を含むか、将来分の管理報酬の額も含むか等)や、出資約束金額の総額の『何%』が投資活動等に充てられている場合を指すのかなどについて、GPとLPの間での交渉事項となることが多いです。
また、そもそもGPが既に別ファンドを運営している場合や、別ファンドの組成又は運営を行うことが決まっている場合には、GPとしては、契約違反の問題が生じないよう、それらのファンドの組成・運営を行えることについては契約上も明記しておく必要があり、この点にも留意が必要です。なお、別ファンドの組成時期は『投資活動がある程度完了した』後であっても、当該時期に先だって当該ファンド組成に向けた募集活動を行う必要がある場合には、このような募集活動自体は許容される点を契約上明記するという対応も考えられます。
(2) 投資機会の配分方法
GPが別の競合ファンドの運営を予定している場合、(i)GPとしては、柔軟な対応がとれるよう、投資機会の配分に関してGPの裁量を残しておきたいという希望を持っていると思います。他方で(ii)LPとしては、万が一自己が出資するファンドが投資機会を喪失し、思うようなリターンを得られないと困りますので、①競合ファンドが特定の投資対象に投資を実行する場合には自己が出資するファンドにおいても投資を行う機会を与えてもらうことを契約上も明記した上、②競合ファンドとの投資機会をどのように配分するのかを、契約書上も(例えば投資ガイドライン等で)、明確にルールとして規定してもらいたい、と要求することが考えられます。このように、投資機会の配分方法も、GP及びLP間での交渉事項となりやすいポイントの一つです。
なお、上記のようにGPとして投資機会の配分について自己の裁量を残しておきたいという趣旨で、競合ファンドとの間で「無限責任組合員がその裁量に基づき適当と認めるところに基づいて投資機会を配分することができる」と規定するケースも多いのですが、このようにGPの広い裁量を前提とする条項を規定した場合でも、現実に競合ファンドの方に偏った運用がなされた場合にはGPの善管注意義務違反の問題は生じ得る点に留意が必要です。そのため、投資機会の配分ルールを明確化しておくことは、GPにとっても、投資活動における自己の行動準則を明確化するというメリットがあるということになります。
このような投資機会の配分方法を契約書上でルール化する場合、その定め方はケースバイケースです。例えば、GP(X)が運営するファンドA及びファンドBが、同一のベンチャー企業Y社に対して投資を行う場合、コンセプトとしては、①ファンドA及びファンドBのそれぞれのファンドの『規模』に応じて按分比例の方法により定めたり、②ファンドA及びファンドBの『投資余力』に応じて按分比例の方法により定めたりすることが考えられます。
より具体的に説明しますと、上記例で、Y社は、Xのファンドから6億円出資してもらうことを検討していたとします。
ファンドAは出資約束金額の合計が100億円のファンドですが、設立からかなり期間が経過していて、LPから既に100億円の出資を受け、そのうち90億については投資や費用への支出等に充てられていたとします。
他方、ファンドBは、出資約束金額の合計が20億円ですが、設立間もないファンドであり、最近、LPから10億円の出資を受けたばかりで、投資や費用に充てた金銭は存在しないとします。
上記例だと、ファンドの『規模』(100億円と20億円)に着目すればA:B=5:1の比率となり、Y社に対しては、ファンドAが5億、ファンドBが1億をそれぞれ出資することになります。
他方で、『投資余力』に着目すれば(仮にAファンド及びBファンドの投資余力が上記例でそれぞれ10億とすると、)、A:B=1:1の比率となり、Y社に対しては、ファンドAが3億、ファンドBが3億をそれぞれ出資することになります。
もちろん、上記は、例をかなり単純化したものであり、『規模』や『投資余力』をどのように定義するかは、個別の案件ごとに慎重に検討する必要があります。
♦ 脚注
[1]自己取引の実施に反対するLPから当該LPのファンド持分を公正な価格で買い取る旨(LPの持分買取請求権)を契約で定めた場合には、全LPの同意の取得は不要となり、出資口数の4分の3以上の過半数(かつLPの頭数の過半数)の同意により自己取引の実行が可能となります。但し、LPの持分の価値も高額となり得ますので、このような買取義務を規定することにはGP側にもリスクがあるため、仮に規定する場合でも、事実上は、全LPの意向を確認しつつ自己取引実施の可否を判断せざるを得ないかもしれません。なお、同様の例外は、ファンド間取引の場合についても規定されています。
[2]本文で列挙した場合以外にも細かな例外要件が定められており、例えば、ファンド清算のタイミングで行われる上場株式の譲渡をファンド間取引として行うことは可能とされています。
[3]前回のブログでもご紹介したとおり、ベンチャーファンドに該当するためには、①非上場会社の株式等への投資が80%以上であること、②原則として資金の借入れや保証を行わないこと、③原則として持分の払戻しを行わないこと、④契約に所定の事項が定められていること、⑤上記①から④までの要件に該当する旨を記載した書面をLPに交付していることの要件を満たす必要があります。
[4] ベンチャーファンドに該当するためには、①非上場会社の株式等への投資が80%以上であること、②原則として資金の借入れや保証を行わないこと、③原則として持分の払戻しを行わないこと、④契約に所定の事項が定められていること、⑤上記①から④までの要件に該当する旨を記載した書面をLPに交付していることの要件を満たす必要がありますが、経過措置の適用を受けるためには、上記のうち、①~④の要件を充足する必要があります。
[5]本文記載のように、各例外要件も含めて検討すると、自己取引とファンド間取引ではそれらが実行可能な要件が異なっています。ところが、GP=XのファンドA及びファンドBが存在する場合、ファンドA及びファンドBをそれぞれ代表するのが同一のXであるとすると、取引の効果帰属という意味では『ファンド間取引』なのですが、実際に法律行為を行っているのはXであり、ファンドAとX、ファンドBとXの間のそれぞれの『自己取引』と評価する余地もあります。この場合、例えばファンドA又はファンドBがベンチャーファンド特例に該当するケースでも、このような取引が自己取引に該当するとして、自己取引規制に従って各ファンドの全LPの承諾が必要とすると、各要件を異なる形で規定した法の趣旨が損なわれてしまいます。そのため、個人的には、上記のような例ではファンド間取引の規制のみ優先的に適用されると考えるべきと考えており、金融庁に一般論ベースで照会した際にも同趣旨の回答を得たことがありますが、この点の取扱いについて明確に記載した文献等は現時点では把握できていません。
弁護士 パートナー
今回は、改正法の影響が大きい論点の一つとして、利益相反行為の点を中心に解説しました。改正法施行から1年以上が経過しましたが、今回の改正法は実務に与える影響が極めて大きく、改正ポイントも多岐にわたることから、未だに改正法対応に苦慮されている皆様も多いのではないでしょうか。少しでもその参考になれば、大変幸いです。