はじめまして!AZXの弁護士の小澤と申します。
かつての趣味は筋トレだったのですが、コロナの影響でジムを解約しすっかり胸板が小さくなってしまいました。
現在、家で出来る様々な筋トレグッズを試しておりますので、復活次第、再度ご報告させて頂きます。
さて、みなさん。未回収の売掛金や貸し付けたお金が支払期日を過ぎても、取引先から返金がなされないといった事態に遭遇したことはありませんでしょうか?しかも、額が小さくて弁護士に依頼するのも費用感的に見合わない。内容証明郵便を送っても実効性がなさそう…
そんなときには、手続も簡便で、かつ審理も早く終わる「少額訴訟」も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
でも、裁判なんてやったことないし…、と思っているそこのあなた!
実は訴額が60万円以下であれば弁護士に依頼せずとも比較的容易に行うことが可能です。
今回は、そんな少額訴訟についてご説明致します。
目次
1 少額訴訟とは
(1)概要
少額訴訟とは、訴額(訴訟の目的物の価額)が60万円以下の金銭の支払請求を目的とする訴訟において、原則として1回の口頭弁論期日で審理を終了し、その後直ちに判決を言い渡すことを前提とした簡易裁判所での訴訟手続となります。
(2)少額訴訟の要件
どんな訴訟でも少額訴訟で行えるというわけではなく、一定の要件があります。
少額訴訟の要件は以下の通りです。
①訴訟物の価額が60万円以下の金銭の支払請求を目的とする訴えであること(民事訴訟法(以下「法」といいます。)第368条第1項本文)
(i)60万円以下の点
訴えの対象となる訴額(全部勝訴判決を得たときにもたらされる経済的利益の金額)が60万円以下であればよく、例えば、同一の債務者に対して、30万円の貸金債権と25万円の売掛金を有していた場合で、訴えを併合して1つの訴訟として提起する場合であっても、合計額が60万円以下なので、(i)の要件を満たすことになります。
(ii)金銭の支払請求の点
少額訴訟の対象となるのは、貸金、売買代金、賃金の支払といった金銭請求に限られます。金銭債務の不存在確認請求や不動産、物の引渡請求事件等は、訴額が少額であっても、事案が複雑なものや争点の多い事件があるため、少額訴訟によることはできません。
②同一の裁判所において同一の年に10回を超えて少額訴訟を提起していないこと(法第368条第1項但書、民事訴訟法規則(以下「規則」といいます。)第223条)
「同一の年」とは、1月1日から12月31日までをいい、10回のカウントは少額訴訟を求めた回数でカウントされます。したがって、少額訴訟の審理を求めたけれど、通常の訴訟手続に移行された場合や訴えを取り下げた場合でも1回としてカウントされます。
また、利用回数の10回の制限は、簡易裁判所ごとに利用者単位で計算されます。法人が原告となる場合には、法人格が同一である限り、本社、支店、営業所を区別することなく合算してカウントされます。
③②の利用回数を届け出ていること(法第368条第2項)
④少額訴訟手続によることの申述があること(法第368条第2項)
(3)少額訴訟のメリット
少額訴訟については、通常訴訟に比べて以下のメリットがあります。
- 原則として、1回の口頭弁論期日(法廷で開かれる審理)で審理が終結する(法第370条)。
- 簡易裁判所で行われる手続であり、裁判所の許可を得ることで、従業員が訴訟代理人となることができる(法第54条)。
(4)少額訴訟によることが相応しい紛争類型
以上の少額訴訟の要件及びメリットを踏まえると、例えば、以下の類型の訴訟が少額訴訟によることが相応しいと考えられます。
- 争点が少なく、比較的単純であること
- 即時取調べ可能な証拠(契約書がある場合等)の取調べで審理を遂げられる見込みがあること
- 当事者への送達や事前準備等が円滑に進む見込みがあること(被告の行方が不明確でないこと)
2 訴状の提出
(1)訴状の記載内容
上記を見て頂いて、少額訴訟で提起した方がよいと判断された場合には、第一に訴状を作成し、当該訴状を裁判所に対して提出することが必要です(法第133条第1項)。
訴状の提出って難しそうですよね。
この点については、簡易裁判所には定型訴状の雛形が公開されており(https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_minzisosyou/index.html)、少額訴訟の対象となる多くの訴訟類型は一定程度上記雛形によって網羅されているものと考えます。
例えば、売買代金の請求に関する訴状の雛形は以下の通りとなります(番号は独自に付したものになります。)。
(1)形式的記載事項
①事件名を記載します。事件名は、請求の趣旨及び請求の原因を要約して「●●請求事件」というような形で記載します。
②前述した少額訴訟の利用回数を記載します。
③後述する訴状を提出する裁判所を記載します。
④会社として提起する場合には、商業登記情報に従って、会社名及び所在地を記載した上で、会社代表印で押印(必ずしも、法務局届印である必要はございません。)します。
⑤④の住所が実際上の住所と異なる場合には、⑤に記載します。④の住所と一致している場合には、記載する必要はございません。
⑥請求をする相手方の住所及び会社名を記載します。こちらも、HP上の住所ではなく、商業登記情報上の記載に従う必要がある点ご留意下さい。
⑦相手方に請求する金額(訴額)を記載します。
⑧⑦に応じて訴え提起の手数料として必要な額の収入印紙の額を記載し、訴状に裏面に貼付します。
金額は「https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file3/315004.pdf」の「訴えの提起」の列をご参照下さい。
⑨訴状をはじめとする各種書類を送達する費用を記載します。
東京簡易裁判所の場合は以下の通りとなりますが、訴えを提起する裁判所によって異なるため、ご留意下さい。
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/vc-files/tokyo-s/file/yuubinkitte-ichiran20191001.pdf
(2)実質的記載事項
⑩「請求の趣旨」とは、原告が裁判所に求める判決主文に相当する審判内容になり、重要です。
(ア)誰が、誰に対していくら(60万円以下)の支払をして欲しいかを明らかにします。
(イ)遅延損害金の支払を求める場合には、「□上記金額に対する」の箇所に☑します。
「「□令和 年 月 / □訴状送達の日の翌日 」から支払済みまで、」となっている箇所については、売掛金の回収の場合には、「□令和 年 月 」に支払期日の翌日の日を記載することになります。
(ウ)「□及び仮執行の宣言」の箇所は、判決の確定前に判決の内容に基づいて強制執行をしたい場合には、☑しますが、少額訴訟の場合には、原告の請求を認める判決をする場合には、必要的に仮執行宣言を付すこととされているので(法376条第1項)、基本的には☑します。
⑪通常の訴訟であれば、請求の内容によって、法律上の要件に即して、当該請求を特定するのに必要な事実(これを「請求の原因」といいます。)を記載することになります。
例えば、売掛債権の回収であれば、極簡単に記載すると、①原告は、②被告に対し、④令和●年●月●日に、③商品Aを60万円で売った」等と記載することになります。
さらに勝訴を目指すためには、上記の事実を補強する事実(請求を理由付ける事実)(規則第53条第1項)を記載する必要があります。
売掛金の回収で、売買契約書の締結や、受発注書等がある場合には、「●年●月●日の売買契約を締結した」、「●年●月●日に、被告から商品Aを●円で発注する発注書が原告に送付され、原告は●年●月●日に受注書を被告に送付した」、「当該売買契約に基づき原告は被告に対し、商品Aを引渡し、被告は受領した」等として具体化します。
⑫添付書類
1)証拠
裁判所に請求を認めてもらうためには、訴状(主張)の他に、主張を補強する証拠が必要です。
例えば、売掛金を請求する場合には、証拠として次に掲げるものが考えられます。
・売買契約書、注文書、見積書、納品書、請求書の控え、帳簿等
※証拠についても、(2)と同様に被告に送達するため写しを用意する必要があります。
2)訴状の正本及び副本
正本とは収入印紙を貼付して裁判所に提出するものです。副本とは相手方に送付するもので、
正本と同一のものです。いずれも記名押印する必要があります。
各頁の余白に捨印を押印すれば、手書による訂正等が可能となるためお勧めです。
副本は被告の人数分用意する必要があります。
3)原告及び被告の全部事項証明書(履歴事項)の原本
原告又は被告が法人である場合には、原告が法人たる原告又は被告分の3ヶ月以内に発行された
全部事項証明書(履歴事項)の原本を提出する必要があります(個人の場合は不要です。)。
これらは、法務局又は法務局出張所で取得することが可能です。
(2)どこの裁判所に提出するのか
日本全国で簡易裁判所は438ヶ所に設置されていますが、どこにでも提出できるわけではありません。
相手方と契約を締結しており、当該契約に合意管轄の規定があれば、当該契約書に記載された土地の簡易裁判所に訴状を提出することになります(ex.契約書に「本契約に関連して生じた紛争については、東京地方裁判所又は東京簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」。と記載されている場合は、東京簡易裁判所に訴状を提出することになります。)。
そのような契約がない場合又は契約に上記のような合意管轄の条項がない場合には、少額訴訟の場合は、基本的には金銭の弁済場所に裁判管轄があるため、自身が所在する地の簡易裁判所に訴状を提出することが可能です。
3 口頭弁論手続
(1)期日の呼び出し
訴状が受理されると、口頭弁論期日が指定され(法第139条、規則第60条)、被告に対して裁判所から訴状副本とともに期日呼出状が送達されることになります(法第138条第1項、規則第58条第1項)。
審理の進行は下記の通り行われることになります。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_04_02_02/index.html(参照元:裁判所HP「少額訴訟」)
少額訴訟においては、通常訴訟とは異なり、裁判官が、当事者に対し、釈明権に基づく主張の整理と証拠調べとしての本人尋問を明確に区別することなく、対話方式で進めていくことになります。
(2)留意点
少額訴訟は通常訴訟と比べて以下のような特徴があり留意が必要です。
①被告による移行申立て
少額訴訟を提起したとしても、被告が書面にて少額訴訟を通常訴訟手続に移行させる旨の申述を行った場合には、訴訟は通常訴訟手続に移行することになります(法第373条第1項及び第2項)。
②証拠
少額訴訟において、証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限られることになります(法第371条)。
すなわち、在廷証人の尋問、出頭した当事者本人の尋問、当事者が所有し運搬可能な文書や物を書証又は検証物として口頭弁論に提出することは即時性を満たしており可能ですが、時間がかかるもの、例えば文書提出命令(法第233条)や書面尋問(法第278条)、裁判所が期日への呼出状を送達して呼び出す証人(呼出証人)(法第94条第1項、規則第108条)、送付嘱託(法第226条)や調査嘱託(法第186条)を行うことが難しいです。
(3)当事者が欠席した場合
口頭弁論期日が指定された場合で原告が欠席した場合は、被告が請求を争った場合には、原告の請求が棄却されてしまう可能性があるため、基本的には原告は、勝訴判決を早期に得るためには、口頭弁論期日に出席することが必要です。
他方、少額訴訟については、被告が欠席する場合も多いのですが、被告が口頭弁論期日に欠席した場合は、以下の通りとなります。
①被告が答弁書その他の準備書面を提出していない場合又は答弁書等を提出していても、原告の主張する事実を争う趣旨が記載されていない場合
⇒請求認容判決(分割払判決を含む。)又は和解に代わる決定(後述)
②被告が答弁書その他の準備書面を提出していて原告の請求を争っている場合
⇒判決又は事案により期日の続行又は事案により通常訴訟手続への移行
4 訴訟の終結
(1)終結の方法
主に以下の3つの事由により訴訟が終結します。
➀訴訟上の和解
訴訟において、和解による終了が最も多く、柔軟な解決が期待できます。
後述の通り、勝訴したとしても、相手方が債務を支払わない場合には、強制執行によることになりますが、強制執行の費用や労力を踏まえると、コスト的にも見合わない可能性があることから、和解による紛争解決を積極的に検討した方が良い場合も多いです。
なお、訴訟上の和解の内容が調書に記載されれば、確定判決と同一の効力を有することになります(法第267条)。
②和解に代わる決定
少額訴訟において、被告が口頭弁論において原告の主張を争わず、その他何らの攻撃防御方法を提出しない場合には、裁判所は、原告の意見を聞いて、決定確定の日から5年を超えない範囲内で、支払期日の定め(いわゆる期限の猶予)又は分割払いの定めをして、金銭の支払いを命ずる決定(和解に代わる決定)をすることが可能です(法第275条の2)。
③判決による終了
口頭弁論が終了した後、➀や②の事由により訴訟が終結しなかった場合、裁判所は訴えの適否を判断し、請求認容又は請求棄却の判決を下すことになります。
一期日審理を原則とする少額訴訟手続においては、判決は弁論の終結後直ちに言い渡されることになります(法第374条第1項)。
実務上も、口頭弁論終結後、その日中に判決を言い渡す例が多いです。なお、通常の訴訟の場合には、判決書によって判決がなされるのですが、少額訴訟の場合には、判決書の原本を作成しないで裁判官が判決の言い渡しを行い、裁判所書記官が言い渡しの内容を調書にまとめる方式が原則となります(法第254条)。なお、調書は、通常の訴訟と同様に調書の正本が送達されます(規則第159条第2項)。
(2)訴訟終了後の手続
少額訴訟の終局判決に対する不服申立てとしては、その判決を下した簡易裁判所に対する異議申し立てだけが可能であり(法第378条第1項)、控訴は認められていません(法第377条)。
自分に不利な判決を言い渡された当事者は、判決を受け取った日の翌日から起算して2週間以内に、異議の申立てをすることが可能ですが、裁判所が支払猶予等の定めをしたこと、あるいはその定めをしなかったことについては、異議を申し立てることはできません(法第380条第1項)。また、異議申立て後に言い渡される判決についても異議を申し立てることはできません。
5 少額訴訟債権執行
少額訴訟にて無事に勝訴できた場合であっても、相手方が判決に基づいて金銭を支払わない場合には、少額訴訟における確定判決等をもって、相手方が有する財産に対して強制執行することで、債権を回収することが可能です。
少額訴訟の場合には、通常の執行手続の他に、少額訴訟債権執行という簡易かつ迅速な執行手続によることが可能です(民事執行法第167条の2第1項)。なお、少額訴訟債権執行において差し押さえることができる債権は金銭債権に限定されます。金銭債権とは、例えば以下のような債権です。
① 預貯金債権
② 給料債権
③ 賃料債権
④ 敷金(保証金)返還請求権
少額債権の債権執行は書面にて行うことになります。申立書の記載例は下記の通りとなります。
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/vc-files/tokyo-s/file/9-5-01hyoushi_rei2.pdf
差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、その債権を第三者債務者(例えば銀行等)から取り立てることが可能となります(民事執行法第167条の14及び第155条第1項)。
少額訴訟債権執行の詳しい手続は下記URLをご参照下さい。
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/l4/Vcms4_00000328.html
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/l4/Vcms4_00000335.html
弁護士 アソシエイト
いかがでしたでしょうか。上記でみた通り、少額訴訟は簡易・迅速な手続であり、一般の方でも比較的容易に訴えを提起することが可能です。
特にネックとなるのが、訴状提出の点だと思いますが、ほとんどの場合は、裁判所書記官から、印紙代、訴状の必要的記載事項、管轄の有無、少額訴訟要件の具備等の形式的な記載事項の助言を受けることが可能です。
もっとも、請求の原因の記載やどのような書証を提出すべきかといった事項については、裁判所書記官から助言を受けることは難しいと考えます。
少額訴訟手続全般を弁護士に依頼することは費用倒れになることが多い可能性がありますが、請求の原因の記載やどのような書証を提出すべきかといった事項の部分的なアドバイスのみを弁護士に依頼するというのも選択肢として検討されてみてはいかがでしょうか。
なお、少額訴訟以外の債権回収の方法については、下記ブログをご参照下さい。
https://www.azx.co.jp/blog/3257