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旅行ビジネスにおける重要法令 ―旅行業法の概要―

2021年10月1日をもって緊急事態宣言が解除され、まだまだ油断はできないものの、年末年始に向けて旅行の計画を立てている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

さて、長く続いた緊急事態宣言もようやく解除されましたので、今回は、旅行業法について書いてみました。旅行ビジネスを行うにあたり、旅行業法は注意すべき重要な法令の1つと考えられますので、新型コロナの終息に向けて、新しい旅行ビジネスが生まれることを期待して、旅行業法について概観してみたいと思います。

1.     旅行業

「旅行業」とは、「報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業···をいう。」(旅行業法第2条第1項)とされており、①次に掲げる行為(=旅行業務)を、②報酬を得て、③事業として行っている場合には、「旅行業」に該当するため、旅行業者の登録を要することになります。

以下、各要件について説明します。

(1)旅行業務

旅行業務については、旅行業法第2条第1項各号に定められており、その内容は概ね以下の通りとなります。

①旅行計画を作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為(同項第1号)[i]

②①に掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為(同項第2号)

③旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為(同項第3号)

④運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為(同項第4号)[ii]

⑤他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為(同項第5号)

⑥③から⑤までに掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為(同項第6号)

⑦③から⑤までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為(同項第7号)

⑧①及び③から⑤までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為(同項第8号)

⑨旅行に関する相談に応ずる行為(同項第9号)

 

条文上はやや分かりにくいのですが、旅行業務は、基本的旅行業務(上記①、③から⑤まで、⑨)と付随的旅行業務(上記②、⑥から⑧まで)の2つに区分されています。

基本的旅行業務は、主に運送(バスや鉄道等の交通手段)又は宿泊についての業務を内容とするものであって、他人の提供する運送又は宿泊サービスを旅行者に提供することを内容とする業務を意味していますので、例えば、運送事業者が自ら日帰り旅行を実施するような場合には、旅行業には該当しないことになります。

また、付随的旅行業務は、運送又は宿泊以外のサービスについての業務を内容とするものとなりますが、基本的旅行業務に付随して行われる場合に限って旅行業務になるものとされていますので、例えば、運送又は宿泊以外のサービスであるガイドや土産屋の手配等の付随的旅行業務のみを行うような場合には、旅行業には該当しないことになります。

その他、以下のような場合にも、旅行業には該当しないこととされています[iii]

①運送事業者のために、発券業務のみを行う場合(航空運送代理店、バス等の回数券販売所等)(旅行業法第2条第1項括弧書き)[iv]

②ウェブサイトを介して旅行取引を行う場合で、旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引に対し働きかけを行わない場合(遅くとも予約入力画面から予約確認画面に移行する際(すなわち、予約入力画面に入力された情報を送信する際)までに、旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引となる旨が明確に表示されている場合)

②については、遅くとも予約入力画面に入力された情報を送信する際(=ウェブサイト上で、旅行者が旅行の申込みを行うとき)までに、旅行取引が「旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引となる旨」を明確に表示することが求められているため、②に該当するものとして旅行業者の登録をしない形とする場合には注意が必要です。

(2)報酬

事業者が旅行業務を行うことによって経済的収入を得ている場合には、「報酬を得て」の要件を満たすことになります。

この点については、旅行者から旅行業務の対価を得ていない場合であっても、例えば、以下のように、事業者による旅行業務の提供と経済的収入との間に相当の関係があれば、「報酬を得て」の要件を満たすことになるとされているため[v]、事業全体における金銭の流れを考慮して検討することが必要です。

①旅行者の依頼により無料で宿を手配したが、後にこれによる割戻し(いわゆるキックバック等)を旅館から受けている場合

②留学あっせん事業において、留学あっせんと運送又は宿泊のサービスに係る対価を包括して徴収している等、旅行業以外のサービスに係る対価を支払う契約の相手方に対し、不可分一体のものとして運送又は宿泊のサービスを手配している場合

(3)事業

旅行業務の提供を「事業」として行っているかについては、「営利性」「募集の不特定多数性」「反復継続性」といった事情を踏まえて、旅行業務の提供が事業として成立しているかを総合的に判断することになります。

「営利性」は、旅行業務の提供に対する報酬がどのように設定されているかによって判断されることになりますが、単に報酬を受け取っているからといって「営利性」が認められるものではなく、事業の実態として利益が出るような構造になっていることが必要とされています。

「募集の不特定多数性」は、旅行業務の提供を受けるように勧誘する対象者の範囲によって判断されることになりますので、旅行業務の提供対象が限定されているか否かといった点を考慮する必要があります。

「反復継続性」は、1回のみ旅行業務を提供するのではなく、反復継続の意思をもって旅行業務を提供することを指しますが、旅行業務を提供する旨の宣伝・広告が日常的に行われている場合、店舗において旅行業務を提供する旨の看板が掲げられている場合には、反復継続の意思を有していることとされています。

以上の点を考慮して、「事業」として旅行業務を提供することとなるかを検討することになりますが、総合的な判断が求められるものであり、画一的に判断することは難しい面がありますので、判断に迷ったときには、管轄官庁に問い合わせる等して事前に確認する方が望ましいと考えられます。

2.     旅行業者代理業

「旅行業者代理業」とは、「報酬を得て、旅行業を営む者のため前項第一号から第八号までに掲げる行為について代理して契約を締結する行為を行う事業をいう。」(旅行業法第2条第2項)とされており、旅行業者からの委託に基づき旅行業者を代理して旅行商品を販売する場合がこれに該当します。旅行業法上、旅行業者代理業者が代理することができるのは、原則として1つの旅行業者のみとなります[vi]

また、旅行業法第2条第1項第9号に定められている「旅行に関する相談に応ずる行為」については、旅行業者代理業の対象からは除かれていますので、かかる相談業務については代理することができません。

なお、旅行業と同様に、「報酬」「事業」の要件を満たす場合に限って旅行業者代理業に該当することになります。

3.     旅行サービス手配業

「旅行サービス手配業」とは、「報酬を得て、旅行業を営む者···のため、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為···を行う事業をいう。」(旅行業法第2条第6項)とされており、いわゆるランドオペレーターがこれに該当します。

典型的には、旅行業者のために運送等サービス又は運送等関連サービスの手配等を行う場合がこれに該当しますが、旅行サービス手配業者からの委託に基づいて旅行サービス手配業を行う場合についても、旅行サービス手配業者として登録を受けている必要があります。

他方で、旅行業者は、旅行サービス手配業の登録を受けずに旅行サービス手配業務を行うことができ、また、旅行業者代理業が代理する旅行業者のために旅行サービス手配業務を行う場合についても旅行サービス手配業の登録は不要となります。

なお、旅行業と同様に、「報酬」「事業」の要件を満たす場合に限って旅行サービス手配業に該当することになります。

4.     実務上の留意点

旅行業、旅行業者代理業又は旅行サービス手配業に行う場合には、それぞれ登録を受ける必要がありますが、実務上、主に以下の点に注意する必要があると考えられます。

なお、以下の点につきましては、観光庁のホームページ(https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/ryokogyoho.html)が参考になりますので、こちらも合わせてご参照ください。

(1)旅行業者の登録種別

旅行業については、提供する旅行業務の範囲(提供する旅行の地理的範囲や旅行業務の内容等)に応じて受けるべき登録が異なります。登録の種類としては、第一種旅行業務、第二種旅行業務、第三種旅行業務及び地域限定旅行業務がありますが、例えば、国内外問わずに全ての旅行業務を提供するためには第一種旅行業務の登録を得る必要があるものの、海外の企画型募集旅行に係る旅行業務を提供しないのであれば第二種旅行業務でも足りることとなります。そのため、旅行業の登録を受けようとする場合には、どの範囲で旅行業務を提供するかを考慮して、かかる旅行業務の提供に必要な登録種別を適切に選択する必要があることとなります。

他方で、旅行業者代理業及び旅行サービス手配業については、上記のような登録の種別は定められていません。

(2)財産的要件

旅行業の登録を受けるためには、基準資産額が登録種別に応じて定められる基準額以上である必要があります。「基準資産額」は、概ね、貸借対照表記載の資産から負債や営業保証金の額を差し引いて算出されることとなります。

また、旅行業を開始するためには営業保証金の供託も必要になります。営業保証金の金額についても登録種別に応じて定められることになります。

以上のように、旅行業者の登録を受ける際には、その時点における資産状況も考慮することが必要となります。

(3)旅行業務取扱管理者及び旅行サービス手配業務取扱管理者

旅行業者又は旅行業者代理業は、営業所ごとに、1人以上の旅行業務取扱管理者を選任する必要があるとされています。単に旅行業務取扱管理者を選任するだけでは足りず、旅行業務取扱管理者をして、当該営業所における旅行業務に関する事務を適切に行わせる必要がありますので、かかる事務を行うために必要となる人数の旅行業務取扱管理者を選任する必要があります。

他方で、旅行サービス手配業については、旅行業務取扱管理者の選任は求められていませんが、旅行サービス手配業務取扱管理者を選任することが必要であり、旅行業者又は旅行業者代理業における旅行業務取扱管理者の選任と同様に、営業所ごとに、1人以上の旅行サービス手配業務取扱管理者を選任することが必要とされています。

<脚注>

[i] 旅行業法第2条第1項では、いわゆる企画旅行について定められており、「旅行者の募集のためにあらかじめ」旅行計画を作成する場合が募集型企画旅行、「旅行者の依頼により」旅行計画を作成する場合が受注型企画旅行となります。

[ii] 旅行業法第2条第3項及び第4項では、手配旅行について定められています。手配旅行は、旅行者の依頼に基づいて、旅行者に運送又は宿泊等の旅行サービスを提供することを内容とするものとなります。

[iii] 平成17年2月28日国総旅振第386号第一4)

[iv] 発券業務のみを行う場合であっても、旅行業者や旅行業者代理業が行う場合は旅行業務となるため、原則として、その営業所等について登録を受ける必要があるとされておりますので注意が必要です。

[v] 平成17年2月28日国総旅振第386号第一2)(2)

[vi] 旅行業法第14条の2第2項に基づき、例外的に、所属旅行業者の認めた、他の旅行業者が提供する募集型企画旅行の代理販売を行うことが可能です。

執筆者

AZX Professionals Group

今回は旅行業法の概要について説明しましたが、旅行ビジネスを行うにあたっては、提供するサービス内容が旅行業法の適用対象とならないかについて、慎重に検討する必要があることがご理解いただけたのではないでしょうか。

もちろん、旅行ビジネスを行うにあたって注意すべき法令は旅行業法だけではなく、旅館業法、通訳案内士法、住宅宿泊事業法など、提供するサービスの内容によって検討すべき法令は異なりますので、弁護士等の専門家に相談する等して、ビジネススキームの適法性を慎重に検討することが重要です。

AZXでは、様々なビジネスの適法性を検討してきた実績がありますので、気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。

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弁護士 パートナー
増渕 勇一郎
Masubuchi, Yuichiro
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弁護士 マネージングパートナー COO
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Sugawara, Minoru
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