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ベンチャーと職務発明

2014/01/30

HK画像弁護士(弁理士)の林です。

1月も終わりに近づきましたが、皆さん新しい年を快調にスタートされましたでしょうか。年末の話になりますが、私は約20年ぶりにスキー旅行に行きました。スキーと言っても小さな息子二人連れで、子守り兼雪遊びのような旅行でしたが、合間にスキーも楽しんで、家族の良い思い出になりました。

さて今回は、昨今世の中を騒がすことの多い「職務発明」について、ベンチャーの視点を踏まえて説明したいと思います。

<今回の内容>

1 職務発明とは~青色発光ダイオード訴訟

2 発明報酬の額

3 職務発明規程の重要性

4 ベンチャーにおける留意点

1 職務発明とは~青色発光ダイオード訴訟

職務発明でまず思い出すのが、青色発光ダイオード(青色LED)訴訟ですね。日亜化学工業に当時在籍していた青色LEDの発明者が、職務発明の報酬を請求して、一審で200億円もの報酬額が認められた(のち約8億円で和解)ことで有名です。その後LED電球が普及していることでも、知名度が高くなっています。

このような裁判が起こる背景として、特許法(35条1項~3項)は概要以下のように規定します。

(1) 会社の従業員等が、会社の業務に属し、かつ、その職務に属する発明をした場合、それを「職務発明」とする。

(2) 会社が予め、社内規程や雇用契約などで、「職務発明」以外の従業員の発明を会社に譲渡することを約束させることはできない。(→逆に言えば、「職務発明」であれば、予め社内規程などで会社に帰属すると規定しても構わない。)

(3) 社内規程などで従業員の職務発明を会社に帰属させた場合、その見返りとして「相当の対価」(以下便宜上「発明報酬」)を従業員に支払わなければならない。

青色LED訴訟では、(1)発明が「職務発明」であるかどうか、(2)それが会社に譲渡されたか、(3)発明報酬の額(算定方法)のそれぞれについて争点となり、結論として職務発明として会社に帰属することを前提に、第一審では上記のとおり高額な発明報酬が認められています。

2 発明報酬の額

では、社内規程で会社が相当と思われる報酬を、例えば一件あたり10万円とか、会社が無価値と判断するものは0円(報酬なし)などと定めて、それで済ませるということは可能なのでしょうか。

この点について、特許法(35条4項、5項)の規定は概要以下のとおりです。

(1) 社内規程等で発明報酬を定める場合、労使間の協議の状況、策定された基準の開示状況、従業員からの意見の聴取状況等に照らして、不合理なものであってはならない。

(2) 発明報酬の規定がない場合や、ある場合でもその規定が(1)の条件を満たさない不合理なものである場合は、発明による会社の利益、会社側の負担・貢献、従業員の処遇などの事情を考慮して(最終的に裁判所によって)定められる。

発明報酬のルールがない場合、従業員と紛争になれば、(2)の基準により裁判所の判断を仰ぐことになります。金額算定の考え方は色々議論があり、そこは今回割愛しますが、実例にあるとおり世間をあっと言わせるような金額が出る可能性もある訳です。また、会社が一方的に低額な報酬を定めている場合も、訴訟になって裁判所から不合理と判断されれば、同様のリスクがあることになります。

 3 職務発明規程の重要性

そこで会社が策定するのが職務発明規程です。発明があったら申告させて、社内の委員会で査定して、一件あたり●円、収益が上がれば貢献度を査定して●%を支払う、などの内容が定められるものです。

ところで、会社が色々考えて職務発明規程を定めたとして、結局そこで払われる金額が合理的でないと、裁判所の判断で規程を無視した報酬額が決められてしまうのではないか・・・そうしたら、職務発明規程を定める意味ってあるの・・・と思う方も多いようです。

ここで、先ほどの特許法のルールに戻ると、特許法第35条第4項の条文は以下のとおりです。

契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。

少し回りくどい表現ですが、ここで合理性の考慮要素として例示されているのは、規程の内容そのものでなく、規程を定める際の労使の協議や情報開示、金額を算定する際の意見聴取といったプロセス面になります。これは、発明の経済価値や発明者の貢献度などから裁判所が事後的に算定する理論値と厳密にイコールの報酬額にならなくても、規程制定から報酬算定に至るプロセスが妥当なら、職務発明規程に基づく報酬額は有効となり得ることを意味します。この条文は、平成16年の特許法改正で規定された内容であり、青色LED訴訟をはじめとする職務発明報酬請求訴訟の多発状況の中で、企業が職務発明報酬の額を予測しづらく、研究開発投資活動が不安定になることを懸念材料のひとつとして改正されたものです。

したがって、100%職務発明規程のとおりで済む保証はないが、規程制定や金額査定のプロセスを慎重に行えば、規程どおりの金額で法的にOKとなる可能性は相当程度あり、職務発明規程はないよりもあった方がはるかにリスク低減になるということです。

 4 ベンチャーにおける留意点

特許が絡む技術系のベンチャーでは、IPOや買収監査において、特許その他の知的財産権が会社に確実に帰属しており、それに関する紛争や潜在債務がないことが最重要視されます。したがって、以下のような点に留意すべきと思われます。

(1) 特許の帰属についての疑義や、発明報酬等の紛争リスクを回避、低減するために、職務発明に関する規程を設けるべきである。

(2) 従業員が発明を行った後に制定された規程は、従業員に対する拘束力の有無が問題になるため、できるだけ早めに規程を整備しておくべきである。また、規程制定前の発明については、個別に従業員から権利譲渡を受けるなどの対応を検討する必要がある。

(3) 職務発明規程の制定や、同規程に基づく金額査定においては、従業員との協議や情報開示などのプロセスを慎重に検討すべきである。

執筆者
AZX Professionals Group
弁護士 パートナー Founder
林 賢治
Hayashi, Kenji

今回は、職務発明の基礎的な説明と、職務発明規程を定める法的意味についてご説明しました。

また稿を改めて、職務発明の内容面や、職務発明の周辺問題についても解説したいと思います。

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